世の中には、「辞書を読んで楽しむ」という人たちがいます。三省堂の『新明解国語辞典』愛好家がその代表例といえるでしょうか。
それほどではないにしろ、私もよく
・Abdul Hamid (1998) LADAKHI - ENGLISH - URDU DICTIONARY. pp.xxxix+406. Melong Publications, Leh.
をパラパラながめて楽しむことがあります。「ju le」探索の意味も含めて、「何か目ぼしい単語はないものか」と辞書をめくっていた時のことです。
ページは「ཞ་ zha」に差し掛かりました。そこで出会ったのが次の項目。
┌┌┌┌┌ 以下、Abdul Hamid(1998)より ┐┐┐┐┐
ཞུ་/ཞུ་ལེ་ (Kargil) zhu, zhu-le/(rest of Ladakhi) ju, ju-le (the common greeting) hello; good-bye, thank you, thanks
└└└└└ 以上、Abdul Hamid(1998)より ┘┘┘┘┘
はい、解決ですね。では、さようなら。
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というのも不親切なので、少し補足しておきましょう。
この「ཞུ་ zhu」は、チベット語では「ཞུ་བ་ zhu ba」、ラダック語では「ཞུ་བྱེས་ zhu byes」のことです。
まず発音から。ウー・ツァン方言では「シュー」ですが、ラダック語では古風に、あるいは綴りに近く「ジュー」と発音されています。
そして、その意味はというと、チベット語/ラダック語とも、動詞「言う」の謙譲語「申す/申し上げる」です。
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それがどうして万能挨拶になるのでしょうか?
これは「zhu le」の前が省略されているのです。
つまり、
・「おはよう。」 → 「(朝の挨拶を)申し上げます。」 → 「zhu le/」
・「こんにちは。」 → 「(昼の挨拶を)申し上げます。」 → 「zhu le/」
・「こんばんは。」 → 「(夜の挨拶を)申し上げます。」 → 「zhu le/」
・「さようなら。」 → 「(お別れの挨拶を)申し上げます。」 → 「zhu le/」
・「おやすみなさい。」 → 「(就寝の挨拶を)申し上げます。」 → 「zhu le/」
・「ありがとう。」 → 「(お礼を)申し上げます。」 → 「zhu le/」
ということですね。
昔はもしかすると、省略なしに使われていたのかもしれませんが、なにしろ挨拶としては長ったらしくなるので、主題を省略した形で使われるようになったのでしょう。
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「ju le」は、「ju」だけで使われたり、「ju、ju」と重ねて使われたりします。
これも上のように考えると、丁寧表現「le」を省略し「zhu」だけでも、挨拶として十分通用することが理解できます。ちょっとくだけた感じの表現にはなりますが。
・「zhu le/」 → 「(挨拶を)申し上げます。」
・「zhu/」 → 「(挨拶を)申し上げる。」
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しかしまたわかってみれば、じつにあっけない。
それほど難問ではないような気もしますが、「コロンブスの卵」ということなのでしょう。書籍、論文はもとより、ネット上でもこの件を解明しているサイトは、今のところ見つかりません(2014/03時点)。
手前味噌ながら、これはなかなかの発見だとは思いますが、これまでの経験からすると、まともに評価されることはないでしょう。例によって、出典を明記せず、あたかも自分の発見のように使う人が続出するのでしょうかね。
まあそうなるのでしょう。ラダックがらみでは、特にそういうケースばかりですから。
と、暗い気持ちになったところでさようなら。
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(追記)@2014/03/26
「もしかして、ジュレーの語源はすでに解明されていないだろうか?見落としがあるんじゃないだろうか?」と不安になって、何度目になるのか、検索してみたところ・・・
「ladakh ju-le」で検索すると、本サイトがなんと9番目に出てきます。驚いた。「ラダック ジュレー」で検索しても、ずーっと下の方なのに(笑)。どういうこと?
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