2015年10月23日金曜日

ヒマーチャル小出し劇場(28) 外国人なんか誰も来ないところへ行くと・・・

そして、そこに小学校があったりすると、こうなります。
















ちょっと変顔でもしようものなら、受ける、受ける。なんでこんなに受けるの?というくらい受けまくり。で、囲まれて身動き取れなくなる、という。

場所はUpper KinnaurのChango(བྱང་སྒོ)。

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もう1枚。仲よし兄弟。これもChangoです。
























君たちはヤノマミか?ってな髪形。この村には床屋なんかはありませんから、親に切られちゃったんだろうなあ。でも、なかなかいいよ。

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今、大きな調べものを2つ平行でやっていて、なかなか書くところまで到達しないので、久々に小出し劇場で誤魔化してみました。

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(追記1)@2015/10/31

Changoのチベット文字スペルをbyang goからbyang sgoに訂正。

(追記2)@2015/10/31

ついでなので、

2012年3月3日土曜日
ヒマーチャル小出し劇場(3) タシ・ポン(絵師タシ・ツェリン)

で紹介したタシ・ポンの名品を。Khargo Gonpa(mkhar sgo dgon pa མཁར་སྒོ་དགོན་པ་)のシト百尊壁画。Changoは彼の地元です。


2015年10月14日水曜日

柱建て祭りとKumariのお話(14) Kashmir盆地のNaga神話-その2

仏教に彩られた神話もあります。こちらは玄奘が『大唐西域記』(7C)で報告したもの。

Kashmir(迦濕彌羅)は、かつて龍王(Nagaraja)が棲む龍池でした。釈尊が予言した通り、孫弟子にあたるArhat Madhyantika(अर्हत् मध्यान्तिक 末田底迦阿羅漢)がKashmirにやって来て、龍王を仏法に帰依させました。

Madhyantikaは、自分が立てる陸地を龍王に求めます。龍王は湖を縮め陸地を現出させますが、Madhyantikaは身体をどんどん大きくするので、龍王も湖をどんどん縮めざるを得ず、ついに湖は消滅してしまいました。

今度は龍王が、住まう池をMadhyantikaに求めます。そこでその地の北西に池が作られ、龍王はそこに住まいます。また各地に小池が作られそちらには諸龍が住まい、みな仏法に帰依するようになりました。これが神話上のKashmir仏教の始まりです。

この龍王が住まう池とはおそらくWular湖(वुलर झील)。ここに住まうNagaraja Mahapadma(महापद्म)は、今もヒンドゥ教徒に崇められています。

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一方、イスラム側の史料では、オリエント神話の影響を受け、洪水神話になっています。

神罰により大洪水が起こり、Takht-i-Slaimanの丘(現在のShankaracarya Hill)のみが水没しなかった。この丘に辿り着き生き残った人々は、KashfとMirという二人の精霊(イスラムではjinといいます)に頼んで水を排出。Kashmirという地名は、このKashfとMirにちなむもの、という地名伝説がオチです。

イスラム系の神話は他にもありますが、いずれも西方系ストーリーの転用が多く、そこにはもはやNagaは登場しません。

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Kashmir語では、泉のこともNag(a)と呼びます。まさに水を司る神ですね。Kashmir盆地にはNagのつく地名が多数残っていますが、いずれも川の源流部の池・沼・泉で、Nagarajaの在所として崇められています。

(1)Anantnag(अनंतनाग)

Srinagar(श्रीनगर)の南55kmの町。別名Islamabad。Jhelum川(झेलम नदी)とLiddar川(लिद्दर नदी)の合流地点に当たります。

地名の由来は、ShivaがAmarnath洞窟(अमरनाथ गुफा、注)に向かう途中、身につけていたものをすべてここに捨てた。首に巻きつけていたAnantaをはじめとする多くのNagaもここで置き去りにされた。この地に居残ったNagaたちが棲む泉(nag)がたくさんあるため、Anantaを代表としてAnantnagと呼ばれるようになった、というもの。

先のKashmir盆地起源神話とは矛盾する内容です。すっかりヒンドゥ教Shiva派の神話になっています。

Anantaが棲む泉はNagbal(नागबल)という場所。もちろんAnantaを祀った寺院があります。この他、Anantnag周辺にはSarak Nag、Malik Nagなど多くの泉があります。

(2) Sheshnag(शेषनाग)

Jhelum川の支流Liddar川。その源流部の湖です。Pahalgamから23km、Amarnath洞窟への途上にあり、ここも重要な巡礼地。

Nagaraja Sheshaにちなむものですが、具体的な由来はよくわかりません。かなりの山奥なので、寺院もないようです。

実に美しい湖。1990年代から続く紛争がなければ、トレッキングの名所として有名になっていたはず。

(3) Verinag(वेरीनाग)

Srinagarの南78kmの町。Jhelum河源流部の町。Verinagという泉があり、これはJhelum川の源流の一つとされています。

ここはNagaraja Nilaの在所とされています。Kashmir Nagarajaの大御所登場ですね。

また、Jhelum川の女神Vitasta(वितस्ता、Parvatiの別名あるいは化身)がShivaに助けられて、ここから現れたためViranag(विरानाग、妻の泉)→Verinagと呼ばれるようになった、という神話もあります。こちらもすっかりShiva派の神話に変わっていますね。

ここはムガル領時代に皇帝たちに愛され、庭園として整備されています。ここも、紛争がなければ観光客で賑わっているはず・・・。

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この他、Vasak Nag(Qazigund近く、Nagaraja Vasukiの在所)、Takshak Nag(Srinagar南部、Nagaraja Takshakaの在所)など、Nagaの在所とされる湖・泉はたくさんあります。先程紹介したWular湖もその一つ(Nagaraja Mahapadmaの在所)。

いずれの場所にもささやかな祠がありますが、ShivaやVishnuが共に祀られていることが多く、今ではNagaはKashmirのヒンドゥ教信仰の中心にはいないことがわかります。Kashmirで強いShiva派の一部として生きながらえている状態でしょうか。

イスラム教徒が大半のKashmirでは、ヒンドゥ教徒自体すでに少数派ですが・・・。

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しかし、Nagaの存在はKashmirの文化に今も深く根ざしています。

・Iramanjari Puja(3~4月)→Nagaを祀る
・Varuna Panchami(7~8月)→Nagaraja Nilaを祀る
・初雪を祝う祭り(初冬)→Nagaraja Nilaを祀る

などの祭りは、いずれもNagaを祀るものです。

現在のKashmirではNaga信仰は大勢力とはとても言えませんが、Kashmir文化の基層として重要な存在であることに変わりはありません。

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Kathmandu盆地やKashmir盆地のようなヒマラヤ南縁の山間盆地は、ヒマラヤの隆起の中心が、徐々に南へと移り変わることにより形成されたものです。

Kathmandu盆地では、南のSiwalik山地が隆起することにより南へ流れる川がせき止められKathmandu盆地は湖となりました。

ここKashmir盆地では、Pir Panjal(पीर पंजाल)山脈が隆起して水流をせき止め、湖が形成されました。状況はKathmandu盆地と全く同じ。この湖はKarewara(करेवर)湖と呼ばれます。karewaraとは乳香のこと。

Karewara湖が存在したのは700万年前(中新世Miocene)から70万年前(更新世Pleistocene)まで。古期Kathmandu湖とほぼ同時代。

その後はJhelum川がPir Panjal山脈を越えて湖水を排出し、Karewara湖は消滅しました。大湖の名残はDal湖(दल सरोवर)、Wular湖(वुलर झील)、Manasbal湖(मानसबल झील )などKashmir盆地の各地に残っています。

しかしJhelum川もまっすぐ南へ流れることはできず、北西へ大きく回りこんでからPir Panjal山脈のはずれをようやく越えることができた感じです。

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Kathmandu盆地やKashmir盆地のような、湖が干上がった地域では、Nagaに関するよく似た神話・信仰が見られます。この神話がどこからどのように広まったのかはわかりません。発祥の地は北インドなのか南インドなのか、実はNepalやKashmirのようなその周縁部が本家なのか、はたまたインダス文明なのか・・・?

いずれにしても、この手の神話はNaga信仰とともに広がったのでしょうから、起源はかなり古いものに違いありません。

それは、インド・アーリア人のインド亜大陸侵入以前にまで逆上る可能性が高く、その辺の事情を語る史料も多くはありません。今は、その断片を落ち穂拾いのように集めて、再構成する作業が必要でしょう。

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水を司る神Naga信仰をインドおよびその周辺(Nepal、Kashmir)で見てきましたが、次はさらにその外側にあたるチベット文化圏でのNaga信仰と聖樹信仰を見て行きましょう。これがKathmandu盆地のNaga信仰と聖樹信仰を探る上で重要です。

参考:

・玄奘 (唐646) 『大唐西域記』.
→ 邦訳 : 水谷真成・訳注(1971) 『大唐西域記』(中国古典文学大系 第22巻). 15+463+5pp. 平凡社, 東京.
→ 再版 : (1999) 『大唐西域記 1~3』(東洋文庫653・655・657). 380+396+493pp. 平凡社, 東京.
・Samsar Chand Kaul (1948) SRINAGAR & ITS ENVIRONS. 73pp. Wesley Press, Mysore.
→ Reprinted : KASHMIRI OVERSEAS ASSOCATION, INC. > Culture > Personalities > Surender Kaul/Master Samsar Chand Kaul - Great Ornithologist of Kashmir > Samsar Chand Kaul/Srinagar and its Environs (as of 2015/10/03)
http://www.koausa.org/SamsarChandKoul/
・M. L. Kapur (1983) KINGDOM OF KASHMIR. viii+402pp. Kashmir History Publications, Jammu.
・S.L. Shali (1993) KASHMIR : HISTORY AND ARCHAEOLOGY THROUGH THE AGES. 311pp.+pls. Indus Publishing, New Delhi.
・K.S. Valdiya (1998) DYNAMIC HIMALAYA. xv+178pp. Universities Press (India), Hyderabad.
・Khandro Net > Symbolism > Misterious Beings & Objects > Nagas(as of 2015/10/03)
http://www.khandro.net/mysterious_naga.htm
・Kashmiri Pandit Network > Culture – Writeups – Writers & Columnists > Chander (M.) Bhat > Writeups (as of 2015/10/03)
http://ikashmir.net/chanderbhat/articles.html
・Kashmiri Pandit Network > Brigadier Rattan Kaul > KASHMIR, SACRED RIVERS AND WULAR LAKE (as of 2015/10/03)
http://ikashmir.net/rattankaul/doc/WularLake.pdf
・Verinag Kashmir : Natural Spring and Garden (as of 2015/10/10)
http://www.verinag.com/

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(注)

Amarnath洞窟とは、Kashmir盆地北東Pahalgam(पहलगाम)から45kmの山中にある洞窟。洞窟内の穴から出ている氷柱がShivalinga(शिवलिङ्ग)として崇められています。Shravan(श्रावण)月(7~8月)に、数千の巡礼がこの洞窟目指して長い列を作ります。

参考:

・宮本久義 (1990) 氷河上の聖窟をめざして. 季刊民族学, vol.14, no.2[1990/4], pp.6-25.
→加筆・再録 : (2003) 凍れるシヴァに会いに氷河を越えて聖窟アマルナートに向かう. 『ヒンドゥー聖地 思索の旅』所収. pp.31-62. 山川出版社, 東京.

2015年10月11日日曜日

柱建て祭りとKumariのお話(13) Kashmir盆地のNaga神話-その1

インドの北西Kashmir(काश्मीर)盆地にも、Kathmandu盆地と似たような神話が残っています。

・Kalhana कल्हण (1148-49) 『Rajatarangini राजतरंगिणी』
・Unknown (6-7C) 『Nilamata Purana नीलमत पुराण』

より

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太古の昔、Kashmir盆地はSatidesha(सतीदेश)あるいはSatisar(सतीसर)という湖でした。この名はShiva妃Sati(सती)にちなむものです。この湖を支配していたのはNagarajaである Nila(नील)です。

湖はIndraが遊びに来る聖地でしたが、悪鬼Sangraha(सङ्ग्राह)がやって来て戦いになります。IndraとSangrahaの戦いは1年間続きましたが、Sangrahaはついに調伏されます。

SangrahaはJalodbhava(जलोद्भव)という遺児を残しましたが、これを哀れんだNilaによって育てられます。ところがJalodbhavaは所詮悪鬼の子だったのです。成長したJalodbhavaは周囲を荒らし回るようになります。

Nilaは父である聖仙Kashyapa(कश्यप)に助けを求めます(注)。これにVishnu、Shiva、Brahmaをはじめとする神々が加担。

湖に逃げ込んだJalodbhavaをおびき出すために、VishnuはNagaraja Ananta(अनन्त)に命じ、盆地を取り囲む山脈を切り開き排水します。そして無事Jalodbhavaを退治。湖は干上がり盆地となり、以後人が移り住むようになった、という神話です。

なお、Kashmirという地名はKashyapaにちなむもの、というのがこの神話での説です(他にも諸説ある)。

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この神話はKathmandu盆地のものと似てはいますが、ヒンドゥ教の神々が活躍する点、Jalodbhavaという悪役が登場する点が異なります。

Nagaを信仰する原住民が、インド・アーリヤ人あるいはバラモン教の進出に抵抗し、後にはこれを受け入れたエピソードを表している、と考える説もあります。

この原住民は、いわゆるMunda系(オーストロ・アジア系民族の一派で東南アジアのMon-Khmer系とは親戚とされる)と推測する学者が多いのですが、確証はありません。また、ブルシャスキー語話者だった、と考える説もあるが、こちらも確証はありません。

参考:

・Mark Aurel Stein (1900-26) KALHAŅA'S RĀJATARANGINĪ : A CHRONICLE OF THE KINGS OF KAŚMĪR : .VOL.1-5. 1555pp.+pls.+maps. A. Constable, Westminster. 
→ Reprinted : (1989) VOL.1-3. Motilal Banarsidass, Delhi. 
・M. L. Kapur (1983) KINGDOM OF KASHMIR. viii+402pp. Kashmir History Publications, Jammu.
・S.L. Shali (1993) KASHMIR : HISTORY AND ARCHAEOLOGY THROUGH THE AGES. 311pp.+pls. Indus Publishing, New Delhi.
・Khandro Net > Symbolism > Misterious Beings & Objects > Nagas(as of 2015/10/03)
http://www.khandro.net/mysterious_naga.htm
・Kashmiri Pandit Network > Religion – Nilamata Purana(as of 2015/10/03)
http://ikashmir.net/nilmatapurana/index.html

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(注)

聖仙Kashyapaは、すべてのNagaの父とされます。Kashyapaには妻がたくさんおり、この妻たちが神々や魔神を産んだとされます。その妻の一人Kadru(कद्रु)がすべてのNagaの母です。

Kadruの妹Vinata(विनता)もKashyapaの妻であり、こちらはGaruda(गरुड)を産みました。

KadruとVinataはある賭けをしますが、Kadruとその子Nagaたちの策略によりVinataは賭けに負け、奴隷の身に落とされてしまいます。

Nagaたちは、Vinataの身を解放する条件として、天界よりAmrita(अमृता、甘露)を盗んでくることをGarudaに要求します。天界に向かったGarudaはAmritaを守る神々を撃ち破り、Amritaを手に入れることに成功します。

VishnuとIndraが追撃にやって来ますが、双方ともGarudaの勇敢さに感心し、逆にGarudaの願いを叶えてやります。Vishnuには、不老不死とVishnuの乗り物になることを願い、かなえられました。Indraには、NagaたちにはAmritaを見せるだけで天界に返すことを申し出て、蛇を常食とする願いをかなえられました。

GarudaはNagaたちのところへ行き、Amritaをkusha(कुश)草の上に置き「沐浴してからAmritaを飲むように」とNagaたちに告げました。Nagaたちが沐浴をしている間に、IndraがそのAmtritaを持ち去ってしまいました。Nagaたちは戻ってみるとAmritaがなくなっているため、Amritaが置いてあったkusha草を未練たらしく舐めまわしました。kusha草は葉先が鋭く、このためNagaたちの舌先は二つに避けてしまった、というのがこの神話のオチです。

参考:

・上村勝彦 (1981) 『インド神話』. 286pp.+pls. 東京書籍, 東京.
→(2003) 『インド神話 マハーバーラタの神々』(ちくま学芸文庫マ-14-14). 350pp. 筑摩書房, 東京.