2009年5月17日日曜日

テンジン・ペルモ師とガルシャ・カンドリン の巻

水木しげる自伝リストの途中ですが、面白い新聞記事を見つけたので報告しておきましょうか。

http://www.guardian.co.uk/lifeandstyle/2009/may/15/buddhist-retreat-religion-first-person
'I spent 12 years in a cave'
At the age of 21, Tenzin Palmo swapped her job as a London librarian for life as a nun in a monastery in India - but even that wasn't remote enough for her
Interview by Lucy Powell
The Guardian, Friday 15 May 2009

インド・ヒマーチャル・プラデシュ州カーングラ(Kangra)県に、タシ・ジョン(Tashi Jong、bkra shis ljongs)という亡命チベット人居留地があります。ここはカムの大僧院カムパ・ガル・ゴンパ(khams pa sgar dgon pa)が再建された場所です。宗派はドゥクパ。ちなみに本家の方もしっかり再建されております。

タシ・ジョンのカムパ・ガル・ゴンパ(ドゥカン)

その一角にドンギュ・ガツァルリン(don rgyud dga' tshal gling)という寺があります。これは2000年に建立されたばかりで、なんと女行者(トクデンマ=rtogs ldan ma)育成専門の尼僧院です。ですから戒律がたいへん厳しく、外部の人間は立ち入りも許されません。

そして、その僧院長はイギリス人女性なのですからさらに驚かされます。その名はテンジン・ペルモ。

上記の新聞記事は、そのテンジン・ペルモ師へのインタビュー。大変興味深い記事ですので是非読んでいただきたい。

師の経歴についてはかつて調べたことがあるので、参考までに貼っておきます。以下は、例の某地域ガイドブックのボツ原稿より。

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★テンジン・ペルモ Tenzin Palmo(bstan 'dzin dpal mo)

ドンギュ・ガツァルリン寺の主宰者である尼僧。イギリス人ながらドゥクパ有数の成就者として尊敬を集めている。

テンジン・ペルモの本名はダイアン・ペリー Diane Perry。1943年ロンドン生まれ。若い頃から仏教に興味を持ち、1963年インドに渡りダルハウジーのチベット難民居留地で働く。翌1964年、カムトゥル・リンポチェ8世と出会いドゥクパ尼僧として出家した。

1970年からラーホール・テユル・ゴンパに居を構え、女ヨーガ行者(トクデンマ)として瞑想修行を開始する。1976年からはテユル寺はるか上手の石窟で隠遁修行に入り、それは12年の長きに渡った。最後の3年間は完全に誰とも会わない厳しい修行となる。

1988年には修行に区切りをつけラーホールを去り、欧米各地で布教に務める。1992年以降は尼僧育成のためにドンギュ・ガツァルリン・ゴンパの設立準備に取りかかり、2000年にようやく完成した。

彼女の半生を綴った伝記が発表されている。この本では彼女の強靱な意志が全編に渡ってよく伝わる好著であると共に、「女性にとって仏教とは何か」について興味を持つ者にとっても絶好の書となっている。

・Vicki MacKenzie (1998) CAVE IN THE SNOW : A WESTERN WOMAN'S QUEST FOR ENLIGHTENMENT. pp.256. Bloomsbery Publishing, London. (注)

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この本はたいへんおもしろい伝記(ナムタル=rnam thar)なのですが、日本では無名。どこかの出版社が翻訳・出版してはくれないものでしょうか。

「ミラレパ伝」にあるような隠遁修行は過去のもの、と思っている方は、こういった伝統が今もしっかり引き継がれており、それも尼僧が、さらに外国人が行っている事に驚かれるかも知れません。

このテンジン・ペルモ師の影響らしいのですが、ラーホールで隠遁修業を行うヨーロッパ人尼僧がかなり現れています。奇しくも外国人尼僧の手で、「ガルシャ・カンドリン」の名が復活しようとしているわけです。

参考:
・Dongyu Gatsal Ling Nunnery & Jetsunma Tenzin palmo
http://www.tenzinpalmo.com/

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(注)
なお、Vicki MacKenzieは、日本ではこの本よりも、スペイン人少年がラマ・トゥプテン・イェシェの転生者(トゥルク)に認定された顛末をリポートした

・Vicki MacKenzie (1988) REINCARNATION : THE BOY LAMA. pp.192. Bloomsbury Publishing, London. → 邦訳 : ヴィッキ・マッケンジー・著、山際素男・訳 (1995) 『チベット 奇跡の転生』. pp.367. 文藝春秋, 東京.

で有名。近著には、チベット人女性のヒマラヤ越え亡命をリポートした

・Sonam Yangchen+Vicki MacKenzie (2006) CHILD OF TIBET : THE STORY OF SONAM'S FLIGHT TO FREEDOM. pp.288. Piatkus Books.

がある(私は未見)。

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