2014年12月30日火曜日

チベット・ヒマラヤTV考古学(14) カトマンドゥの生き女神Kumari-その1

・井田克征(いだかつゆき) (2014) 『世界を動かす聖者たち グローバル時代のカリスマ』(平凡社新書724). 239pp. 平凡社, 東京.

という本を読みました。あ、また平凡社新書だ。

タイトルだけ見ると、ローマ法王やイスラム教指導者、USAのテレビ伝導師あたりが出てきそうな雰囲気ですが、舞台はインド、ネパール限定。ちょっとタイトルに問題あり。もう少しわかりやすくしてほしい。

取り上げられているのは、クマリ、ダライ・ラマ法王、サティヤ・サイ・ババ、アンナー・ハザーレー、ババ・ラームデーヴ、アンベードカル。ヒンドゥ教と仏教関係ばかり(ハザーレーのみ厳密には宗教者ではない)。

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カトマンドゥ盆地の生き女神Kumari(कृमारी)が取り上げられているのが珍しいですね。

なお、Kumariの発音ですが、Devanagari文字表記をそのまま読むと「クマーリー」になります。しかし、ネパール語では長母音はあまり発音されない傾向があり、「クマリ」という表記が実際の発音に近いようです。アクセントは第2音節の「マ」にあります。私が聞いたところでは、「クマリ」と「クマーリ」の中間という感じ。

ただ、「クマリ」と表記すると、日本では「ク」にアクセントを置いて読む人が多く、ちょっと違和感があります。その意味では「クマーリ」と表記して、「マ」にアクセントが来るように操作してももいいかな、とも思いますね。

そういう表記論争は面倒なので、ここではKumariと表記しておきます。

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Kumariとは何か?ということについては、あちこちに解説がありますから、ここでは必要最小限の説明に留めます。

Kumariとは、ネパールのカトマンドゥ盆地で信仰されている少女の生神様。王家の守護女神タレジュの化身とされます。

Kumariはネワール人仏教徒カーストであるシャキャ氏族の幼女から選ばれます。任期は、怪我、歯の抜け変わり、初潮などで出血を見るまで。つまり長くとも十代はじめまでです。

Kathmandu、Patan、Bhaktapurなどに複数のKumariがいますが、最も有名なのが、KathmanduのRaj Kumari(Royal Kumari)。王家の守り神です。

Raj KumariはKathmanduの中心Durbar Squareの南はずれにあるKumari Chowk(クマリ館)に住んでいます。外出することはほとんどなく、一般人がそのお姿を見ることができるのはDasainやIndra Jatraなどの大祭時に限られます。

PatanやBhaktapurのKumariはRaj Kumariほど管理がきつくなく、自宅に住んだままKumariとして尊崇されています。

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Kumariに関する本・論文で私が持っているのは、
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・那谷敏郎 (1977) 『ネパールの生神様(クマリ) 聖域行2』(平凡社カラー新書73). 144pp. 平凡社, 東京.
・斎藤明俊 (1980) クマリ・プージャとマリ女神. 智山学報, vol.29(no.43) [1980/3], pp.65-80.
→斎藤(1984)に一部を改訂、収録
・斎藤昭俊 (1984) 第八 インドの女神信仰 一 クマーリー信仰. 斎藤昭俊 (1984) 『インドの民俗宗教』所収. pp.212-220. 吉川弘文館, 東京.
←斎藤(1980)の一部を改訂、収録
・トーマス・L・ケリー・写真, J・マイケル・ルーハン・文, 西奥史・訳 (1990) クマリ. 太陽, no.348 [1990/7], pp.85-92.
・寺田鎮子 (1990) ネパールの柱祭りと王権 インドラ・ジャートラ. DOLMEN, no.4 [1990/10], pp.151-174.
・Indra Majupuria & Patricia Roberts (1993) LIVING VIRGIN GODDESS : KUMARI : HER WORSHIP, FATE OF EX-KUMARIS & SCEPTICAL VIEW (KNOW NEPAL SERIES NO.9). 86pp. Smt. M.D. Gupta, Lashkar (India).
・寺田鎮子 (1994) 解説 クマリ信仰と本作品の関係について. ビジャイ・マッラ・著, 寺田鎮子・訳 (1994) 『神の乙女 クマリ 現代ネパール長編小説』(双書・アジアの村から町から14)所収. pp.257-279. 現代書館, 東京.
・寺田鎮子 (1995-96) ネパールの生き神・クマリ 1-3. 春秋, no.371 [1995/8・9], pp.33-36/no.373 [1995/11], pp.30-32/no.377 [1996/4], pp.9-12.
・吉崎一美 (1995) クマリとマヤ夫人. 密教文化, no.192 [1995/11], pp.33-19.
→再録:独立行政法人 科学技術振興機構 [JST]/J-STAGE(Japan Science and Technology Information Aggregator, Electronic 科学技術情報発信・流通総合システム) > 資料を探す 資料名別一覧 > ま-わ > 密教文化 > Vol.1995(1995) > クマリとマヤ夫人 吉崎 一美 PL33-L19 (公開日: 2010年03月12日)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jeb1947/1995/192/1995_192_L33/_pdf
・磯忠幸 (1996) カトマンドゥ谷のクマリ ネパールの生ける女神に関する考察. 千里山文學論集, no.56 [1996/9], pp.148-94.
→再録:Tadayuki Iso / Les convulusion de la quotidienneté > Kumari > 論考 カトマンドゥ谷のクマリ -ネパールの生ける女神に関する考察- (as of 2014/12/06)
http://www006.upp.so-net.ne.jp/candoli/la_kumari.pdf
・寺田鎮子 (1996-98) ネパール宗教マンダラ1-5. 春秋, no.379 [1996/6], pp.17-20/no.382 [1996/10], pp.29-32/no.384 [1996/12], pp.29-32/no.387 [1997/04], pp.21-24/no.396 [1998/2・3], pp.16-19.
・寺田鎮子 (1997) 祭礼 インドラ・ジャトラと生き神クマリ. 石井溥・編 (1997) 『暮らしがわかるアジア読本 ネパール』所収. pp.292-299. 河出書房新社, 東京.
・吉崎一美 (1998) 第四章 儀礼と行事 六 インドラ・ジャトラ. 田中公明+吉崎一美 (1998) 『ネパール仏教』所収. pp.224-228. 春秋社, 東京.
・植島啓司 (2000) VII 変わりゆくメディアと精神世界 55 クマリ信仰. (社)日本ネパール協会・編 (2000) 『エリアスタディーズ ネパールを知るための60章』所収. pp.242-245. 明石書店, 東京.
・NHK「アジア古都物語」プロジェクト・編 (2002) 『NHKスペシャル アジア古都物語 カトマンズ 女神への祈り』. 202pp. 日本放送出版協会, 東京.
・植島啓司 (2002) 祈りの原風景1-3. NHK「アジア古都物語」プロジェクト・編 (2002) 『NHKスペシャル アジア古都物語 カトマンズ 女神への祈り』所収. pp.18-21, 62-65, 92-95. 日本放送出版協会, 東京.
・前田知郷 (2003) ネパールにおける女神信仰研究(修士論文要旨). 龍谷大学大学院文学研究科紀要, no.25 [2003/10-12], pp.228-231.
→再録:龍谷大学 > 図書館 > 龍谷大学学術機関リポジトリ R-SHIP > このリポジトリのコミュニティ 030 紀要論文 : Departmental Bulletin Paper [4893] > 龍谷大学大学院文学研究科紀要 [517] > 第25集 [96] > 発行日:10-12月-2003 / タイトル:ネパールにおける女神信仰研究 / 著者:前田, 知郷 > ファイル:KJ00000737966.pdf (as of 2014/12/07)
http://repo.lib.ryukoku.ac.jp/jspui/bitstream/10519/4425/1/KJ00000737966.pdf
・前田知郷 (2007) ネパールにおけるクマリ信仰について. 東海佛教, no.52 [2007/3], pp.168(51)-152(67).
・前田知郷 (2009) ダサイン祭におけるクマーリー・プージャー. 東海佛教, no.54 [2009/3], pp.96(23)-80(39).
・前田知郷 (2010) ネパールにおけるクマリ崇拝について. 印度學佛教學研究, vol.58, no.2(total no.120)[2010/03], pp.1116-1111.
→再録:国立情報学研究所(NII)/CiNii 日本の論文をさがす Article > ネパールにおけるクマリ崇拝について / 前田 知郷 / 印度學佛教學研究 58(2), 1116-1111, 2010-03-20 > CiNii PDF – オープンアクセス (as of 2014/11/08)
http://ci.nii.ac.jp/els/110007573626.pdf?id=ART0009397773&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1414840153&cp=
・寺田鎮子 (2011) ネパールの女神の大祭 ダサインの考察. 吉田敦彦+松村一男・編著 (2011) 『アジア女神大全』所収. pp.378-401. 青土社, 東京.
・沖田瑞穂 (2011) アジアの女神小事典 クマリ(Kumārī). 吉田敦彦+松村一男・編著 (2011) 『アジア女神大全』所収. p.409. 青土社, 東京.
・Jeffrey S. Lidke (2011) 7 Kumārī : Nepal's Eternally Living Goddess. IN : Patricia Monaghan (ed.) (2011) GODDESS IN WORLD CULTURE : VOLUME 1 : ASIA AND AFRICA. pp.85-98. Praeger, Santa Barbara.
・前田知郷 (2012) ネパール 玉座の少女 クマリ. 立川武蔵・編(2012) 『アジアの仏教と神々』所収. pp.46-65. 法藏館, 京都.
・井田克征 (2014) 第二章 クマリ 生ける女神の伝説は現代を生き残れるか. 井田克征 (2014) 『世界を動かす聖者たち グローバル時代のカリスマ』(平凡社新書724)所収. pp.35-65. 平凡社, 東京.
・植島啓司 (2014) 『処女神 少女が神になるとき』. 316pp. 集英社, 東京.
←植島(2005-07)後述を増補改訂
・マイケル・R・アレン・著, 磯忠幸・訳 (before 2014) クマリ信仰 ネパールにおける処女崇拝(1992年頃の試訳). 98pp.
Tadayuki Iso / Les convulusion de la quotidienneté > Kumari > 翻訳 マイケル・R・アレン著 クマリ信仰 –ネパールにおける処女崇拝- (as of 2014/12/06)
http://www006.upp.so-net.ne.jp/candoli/allen_cultofkumari.PDF
←英語原版:Allen(1986?)後述
・磯忠幸 (before 2014) Une liste de la lecture as sujet de Kumari クマリ研究に関する文献リスト.
Tadayuki Iso / Les convulusion de la quotidienneté > Kumari > クマリ研究に関する文献リスト (as of 2014/12/06)
http://www006.upp.so-net.ne.jp/candoli/kumari_list.htm

この他、Kumariに関する文献で重要なもの(未見)は、

・Michael R. Allen (1975) THE CULT OF KUMARI : VIRGIN WORSHIP IN NEPAL. 67pp.+pls. Institute of Nepal and Asian Studies, Tribhuvan University, Kathmandu.
→ (1986?) 2nd Edition. 114pp.+pls. Madhab Lal Maharjan / Himalayan Booksellers, Kathmandu.
→ (1996) 3rd Revised and Enlarged Edition. viii+157pp.+pls. Mandala Book Point, Kathmandu.
→ アレン・著, 磯・訳 (before2014)は2nd Editionの和訳
・J.C. Regmi (1991) THE KUMARI OF KATHMANDU. 64pp.+pls. Heritage Research, Kathmandu.
・植島啓司 (2002) 『ネパールにおける生き神信仰の研究』. 文部省科学研究費補助金研究成果報告書.
・Rashmila Shakya & Scott Berry (2005) FROM GODDESS TO MORTAL : THE TRUE LIFE STORY OF A ROYAL KUMARI. 152pp.+pls. Vajra Publications, Kathmandu.
・植島啓司 (2005-07) 処女神1-20. 青春と読書, vol.40, no.11 [2005/11] – vol.42, no.6 [2007/6].
→植島(2014)に増補改訂の上収録

ネパール紀行の一部でKumariにちょっとだけ触れているものはたくさんありますが、きりがないので今回は省略します。

本題に入る前に、文献紹介で1回終わってしまいました。

今回改めて手元になかったものも集めてみたんですが、調べれば調べるほど芋づる式に文献が出てくるので、なかなか終わりませんでした。さらに増補があるかもしれません。