2015年9月23日水曜日

龍神を祀る田無神社

に行ってみました。龍だらけでしたね。















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前々回紹介した狛蛇のいる矢川弁財天は、水源(近く)にある神社でした。田無神社は、それとは対照的に、市街地のちょっと小高い場所にありました。

神社の周りに川はありません。西武新宿線の南を石神井川が流れていますが、その支流があるわけでもなさそうです。

この神社は、水源に建立されたものではなく、水を求めて龍神に祈りを捧げ、井戸を掘ったことが始まりとされています(17世紀)。

「田無」ですからね、水には苦労したのでしょう。この井戸から引かれた用水路が田無用水。

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祭神は金龍(尉殿大権現)。境内の東南西北にはそれぞれ青龍、赤龍、白龍、黒龍が祀られています。五行説の色ですね。

拝殿の装飾や四方龍神像として、龍がいっぱいです。ここは蛇神ではなく完全に龍神ですね。

ちょっと期待とは違っていましたが、威厳のある神社でなかなか楽めました。















参考:

・田無神社 > 田無神社とは(as of 2015/09/22)
http://tanashijinja.or.jp/about.html

2015年9月20日日曜日

狛犬ならぬ狛蛇?

この夏は全然休みがなくて、調べものや書きものも全く出来ない始末だったんですが、そろそろ再開します。その前に少し小ネタを。

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写真は、東京都立川市にある神社・矢川弁財天。一般には、ここが矢川の水源と認識されています。


















矢川は多摩川の支流ではありますが、支流という名称は矢川にふさわしくない。それよりも「小川」ですね。すぐに多摩川に流入してしまいますし。

高架の「みのわ通り(注1)」を挟んで、矢川弁財天の東には、矢川沿いに湿地帯・矢川緑地が広がっています。そして小川には子どもたちが水遊びをする姿が。いい光景です

いつかはここに住んでみたいなあ、などと考えたりもするのですが、「夏の虫は多いんじゃないか?特に蚊は?」などと気になってしまい、すぐに行動に移す気にもならない、といった状況。

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矢川は、多摩川沿いを構成している河岸段丘である、上段の立川面と下段の青柳面を画する崖線(いわゆる「はけ」)の麓から湧き出ています。

矢川弁財天の先は暗渠になってしまい、本当の水源は見ることができません。矢川弁財天から西へ700m程進んだ立川七小あたりが本当の水源らしいです。そう言われてみると、立川七小北側の曲がりくねった道は、小川を覆った暗渠上の小道だったんですね。

参考:

・すずき/曙町から 一立川市民のご近所・町内観察日記 > 矢川 水源 2007-03-20
http://blog.goo.ne.jp/home-goo/e/f60a7ed7f78d8b0ef83fbe47c50433d7

矢川と立川断層の関係なども面白いのですが、いつまでたっても「狛蛇」にたどり着かないので、いつかまた。

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さて、みのわ通りから下に降り、鯉が泳ぐ池を橋で渡ります。鳥居をくぐるとお目当ての二匹(「匹」でいいんだろうか?)の「狛蛇」が出迎えてくれます。



















どうでしょう、この見事なトグロ。まるでマンガのウ●コのようではありませんか。

顔がまたかわいいんですよ。変に凝った表情を作っていないところが好感。ウロコの造形もいいですね。





























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この狛蛇が守っている矢川弁財天の祭神は、もちろん弁財天(Saraswati सरस्वती)。インドの女神様です。

もともとSaraswatiは古代、北インドに存在した河の名前です。Saraswati河はほどなく消滅してしまい、その場所も不明になってしまいました。そのSaraswati河を治め、象徴する女神がSaraswatiだったわけです。

古代インドの有名な河の女神には、もう一人Ganga गङ्गा がいます。こちらはガンジス河を治め、象徴する女神。Gangaはガンジス河ですから、当然今も存在しています。よって、Gangaは今も河の女神として生き残っています(注2)。

一方Saraswatiは、その在所である河が存在しなくなってしまったため、河の女神としての存在感を失います。河→流れからの連想で、流れを有するもの「言葉」、「音楽」、そして「学問」の女神として崇拝されるようになりました。Saraswatiは、インドでも日本でもvina वीणा (琵琶)をかかえた姿として描かれます。

Saraswatiは仏教を通じて中国へ、そして日本にも導入されます。民間信仰では、七福神の紅一点「弁財天」として信仰されているのはご存知の通り。

もともとは「弁才天」と綴られていましたが、同音の「弁財天」と綴られ「富の女神」ともみなされるようになります。「銭洗い弁天」がそうですね。

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上述のように、現在は音楽・学問の女神とされているSaraswatiですが、ここ矢川弁財天では本来の姿「河・水の女神」として祀られています。いいですねえ。

その弁財天を二匹の蛇神が守っています。これまで述べてきたように、蛇神Nagaはインドでは水を司る神です。それが中国を経て日本に入ってくる頃には、中国の龍と混交して「龍神」と呼ばれるようになりましたが、ここでは古来の蛇の姿そのままです。うれしいですね。

実はこの二匹の狛蛇、一匹は「龍神」、もう一匹は「白蛇」とされており、左巻き・右巻きと巻き方も逆になっています(どっちがどっちかは知らない)。とはいえ、ここでは龍神よりも蛇神としての属性の方が勝っていますね。

龍は、中国では王権を象徴する神獣でもあります。龍を門神として置くのは、立派な姿すぎて憚られたのかもしれません。

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矢川弁財天の由来というのは、よくわかりません。弁財天と蛇神の関係も、両者が同時に導入されたのか、あるいはどちらかが先に導入されたのかもわかりません。私は蛇神が先で、弁財天が後ではないか、と推測していますが、特に証拠はありません。

同じ東京多摩地区の吉祥寺にある、井の頭弁天の影響もあるのかもしれません。井の頭弁天でも、弁財天と共に蛇神である宇賀神が祀られています。

矢川弁財天は、かつては少し東の矢川緑地にあったものですが、1941年に現在の場所に移転しました。

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それにしても、この狛蛇はかわいい。宇賀神になると、人間の顔がとぐろからにゅっと出ていて不気味感を醸し出しますが、こちらはシンプルな蛇そのもので、実に和む。

それにしてもインドで水を司る神であるNagaが、遠いこの日本でもその本来の職能が認められているというのはうれしいじゃありませんか。

インドは、思ったよりも身近なところにもあるのです。

全般的な参考:

・ののわ > みんなのののわ > 2013年9月 > 伊藤万里・文・編集,松井信雄・写真/2013.09.20 「矢川緑地保全地域」と「矢川弁財天」 ~地域の人々に守られてきた自然環境~
http://www.nonowa.co.jp/areamagazine/blog/201309/01.html

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(注1)

実は、この「みのわ通り」の下にも、人工河川である緑川が流れており、緑川と矢川は立体交差しています。

参考:

・yunomi-chawan/俺の居場所 > 暗渠になった「緑川」 下流編(2014-11-19 00:00)
http://ricebowl.exblog.jp/21313861/

(注2)

なぜ河を治める神様が女神なのでしょうか?理由は簡単、サンスクリット語で、河(nadi नदी)は女性名詞だからです。