2017年8月17日木曜日

横浜ユーラシア文化館「タイ・山の民を訪ねて1969~1974」展(2)

この展覧会では、タイ北部山岳民族の民族衣装、装飾品、農具、日用品、楽器などが、現地の写真とともに展示されています。

中国の雲南~貴州の諸民族の衣装や装飾品の美しさは有名なので、その分派であるタイ北部の諸民族の衣装・装飾品を見るのはなかなか楽しい。

最も漢化しているミエン(ヤオ)の民族衣装はちょっと地味だが、銀装飾品をジャラジャラ身につけたモン(ミャオ)、アカ(ハニ)の写真はやっぱり楽しい。

特にアカの女性は、膝を出した脚に脚絆をまくかわいい姿、そしてブランコに乗る面白い習俗で、人気だ。

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白鳥先生、そしてこの調査隊が最も興味を示したのは、ミエン(ヤオ)。ミエンについては、習俗の調査に加え、文献調査にも力を入れていた。

そこで発見したのが、「評皇券牒」。これは、ミエン(ヤオ)たちがまだ中国にいた時代、13世紀に南宋皇帝から与えられた特権や民族の由来を記す文書。

かつて一度は実際に発行されたのであろうが、現在残っているものはその実物ではなく、のちにミエン(ヤオ)たちが勝手に作ったものらしい。それでもミエン(ヤオ)の出自を示す貴重な資料に違いない。


『タイ・山の民を訪ねて1969~1974』図録, p.51

・白鳥芳郎 (1985.6) 『華南文化史研究』. 668+iv pp.+pls. 六興出版, 東京.

で一部見ていた「評皇券牒」をようやく見ることができた。といっても実物ではなく、巻物を写真に収めたものを巻物状に復元したものだったが。全編復元なので迫力ありますよ。

なお、前掲書には「評皇券牒」の全文があります。

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そう、ミエン(ヤオ)は、もともと中国の広西~貴州に住んでいた民族で、雲南~Laos/Myanmarを経てタイまで南下してきたのは100年前とまだ新しいのだ。だから、今でも漢語が話せたり読めたりする人がいる。

ミエン(ヤオ)だけではなく、モン(ミャオ)もリスもアカ(ハニ)もラフも、みな雲南から南下してきた民族だ。

それだけではない。実はミャンマー(ビルマ)人やタイ人も雲南から南下してきた民族なのだ。その時期は、およそ9~11世紀。東南アジアの「民族大移動」の時代といえる。民族大移動があるのは内陸ユーラシアだけではないのだ。

タイ北部の民族たちが南下してきたのは、それよりもずっと後だが、こういったダイナミックな動きは、小規模ながらいつの時代にもあったと思っていい。

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ミエン(ヤオ)は、中国でもタイでも焼畑農業を営む山岳民族。焼畑農業に適した山地を求めて、常に移動を繰り返したあげく、タイ北部にまで到達したらしい。移動の原動力は、政治的圧力ではなさそうだ。

ミエン(ヤオ)たちは神犬「槃瓠(ばんこ)」を祖と仰ぐ、犬トーテム民族。『後漢書』「南蛮西南夷伝」に、すでにこの神話が語られている。

(三皇五帝の帝嚳?)高辛氏が犬戎に攻められた際、「犬戎の呉将軍を討った者に賞金と王女を与える」とお触れを出したところ、高辛氏の飼い犬・槃瓠が将軍の首を咥えて持ってきた。王女は槃瓠に嫁ぎ、二人は山で暮らした。その間には六男六女が生まれ、その子孫が長沙武陵蛮(ヤオの先祖)である。

一方、「評皇券牒」には、

高辛氏→評皇、犬戎呉将軍→外国高王、槃瓠→盤護

と変えただけの同じ話が載っている。ここでは六男六女は、ミエン(ヤオ)の十二氏族の祖先となっている。

このように、ミエン(ヤオ)が中国古代から長江流域に住む武陵蛮の子孫であることは、ほぼ間違いない。また、その神話が二千年に渡り、そのまま保持されているのにも驚きだ。

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なお、この神話は日本にも入ってきて、滝沢馬琴が『南総里見八犬伝』の冒頭で、「伏姫と八房」エピソードとして翻案しているのも、皆さんご存知ですね。

また、名前は似ていますが、中国の世界創世神話に当たる巨人「盤古」とは、どういう関係にあるのかはわかっていません。どちらも中国南部で採集された神話なので、何らかの関係があると思われますが・・・。

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この展覧会では、ミエン(ヤオ)に関する展示が最も充実しており、これにはヤオ族文化研究所が大々的に協力しています。

・一般社団法人 ヤオ族文化研究所(since 2008)
http://www.yaoken.org/

これはもとも神奈川大学のプロジェクト研究所(2008年設立)であったものが、2015年に社団法人化されたものらしい。神奈川大学・廣田律子教授が所長。

研究者は全員他機関との兼任なので、学会/研究会に近いものと言えるかもしれない。だが、各研究者の研究成果を集約し、資料の保存・公開の器としては充分機能を果たしていると感じる。

しかし、ミエン/ヤオ専門の研究所が成立しているとは驚きである。

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今回の展示の補足ともいえる、展示「ヤオの神々」、映像「中国湖南省藍山県のヤオ族の儀礼」はヤオ族文化研究所の提供。

どちらもタイ北部ではなく、中国南部のヤオの調査記録である。見てみると非常に漢族文化/道教の影響の強いものだった。

しかしまた地味だなあ。このヤオを専門にしている研究者がまた、結構いるのにも驚いた。勉強になりました。

まだツヅク

2017年8月15日火曜日

由井格さんの東チベット写真展@長野県川上村

2017年7月10日月曜日 富山・長野チベット巡礼 (1) 東チベット写真展@長野県佐久市

で紹介した、由井格(ゆいいたる)さんの「東チベット写真展」の続報です。

・毎日新聞 > 地域 > 北信越 : 長野 > 人ふでがき : 武田博仁/中国・東チベット高地を踏査・研究 由井格さん/長野(2017年08月14日 10:47)
https://mainichi.jp/articles/20170814/ddl/k20/070/018000c

記事の内容は前回紹介したものとほぼ同様です。

2017年7月に佐久市臼田で開催した展覧会を、今は川上村文化センターで開催中です。会期は8月17日までと、あと2日しかありませんが、近くまで行く予定がある方は、ぜひこちらにも行ってみてください。写真も由井さんのお話も、おもしろいですよ。

2017年8月14日月曜日

横浜ユーラシア文化館「タイ・山の民を訪ねて1969~1974」展(1)

に行ってきました。

・横浜ユーラシア文化館 > 展覧会・イベント : 企画展 タイ・山の民を訪ねて1969~1974(as of 2017/08/11)
http://www.eurasia.city.yokohama.jp/exhibition/index.html

企画展 タイ・山の民を訪ねて1969~1974
会場 : 横浜ユーラシア文化館
住所 : 神奈川県横浜市中区日本大通12
会期 : 2017年7月15日(土)~9月24日(日)
休館日 : 毎週月曜日(月曜日が祝日の場合火曜日)
開催時間 : 09:30~17:00(8/11、9/23は19:00まで)
観覧料 : 一般300円、小・中学生150円(常設展のみ 一般200円、小・中学生100円)
アクセス : みなとみらい線日本大通り駅3番出口すぐ/JR関内駅南口・市営地下鉄関内1番出口から徒歩約10分
■関連展示 : ミエン/ヤオの神々
■関連展示 : 中国湖南省藍山県のヤオ族の儀礼


同展チラシ1


同展チラシ2


同展チラシ3


同展チラシ4

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同展は、上智大学の調査団が1969~1974年に実施したタイ北部の山岳民族調査の資料を展示するもの。

調査は、

第1次調査 : 1969/11~1970/03
第2次調査 : 1971/10~1972/02
第3次調査 : 1973/12~1974/02

の3回実施されている。

中心となったのは、当時の上智大学教授・白鳥芳郎(1918~98)先生。なお、白鳥芳郎先生は、日本の東洋史学の創始者である白鳥庫吉(1865~1942)の孫に当たる。

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・木田歩 (2006.9) 南山大学人類学博物館所蔵上智大学西北タイ歴史・文化調査団コレクション. 『2005年度 生態史プロジェクト報告書』所収. pp.374-379. 総合地球環境学研究所, 京都.
https://chikyu.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=583&item_no=1&page_id=13&block_id=69

によると、これらの資料は2000年、上智大学から南山大学人類学博物館に寄贈された。上智大学では関係者が退職し、充分な保管体制が取れないことから、白鳥先生が晩年に客員/非常勤研究員をされていた南山大学に寄贈されたものらしい。

ほぼ死蔵状態にあった資料が、このような形で陽の目を見ることは実に嬉しい。

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これは図録

・横浜ユーラシア文化館・編 (2017.7) 『タイ・山の民を訪ねて1969~1974』(シリーズ ユーラシアの造形). 80pp. 横浜ユーラシア文化館, 横浜.


同書, 表1

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その中から、調査地と調査対象の諸民族を示す地図を紹介しておこう。


同書, 表2


同書, 表3

登場する諸民族は、いわゆるタイ北部山岳民族(Hill Tribes)で、

(1) (フ)モン Hmong=中国の苗(ミャオ)族
(2) ミエン Mien=中国の瑶(ヤオ)族
(3) アカ Akha=中国の哈尼(ハニ)族
(4) リス Lisu=中国の傈僳(リス)族
(5) カレン Karen=MyanmarのKaren
(6) ラフ Lahu=中国の拉祜(ラフ)族

特にChaing Raiの北、LaosやMyanmarとの国境地帯、いわゆる「黄金の三角地帯 Golden Triangle」のモン(ミャオ)、ミエン(ヤオ)、アカ(ハニ)の資料が多い。

ツヅク