2017年11月14日火曜日

西蔵ツワン先生の新聞記事

2014年5月15日木曜日 チベット・ヒマラヤTV考古学(10) 1960年代、日本へのチベット人留学生
2017年6月16日金曜日 飯能で映画「ラサへの歩き方」を見てきました

で紹介した、埼玉県在住の在日チベット人、西蔵(にしくら)ツ(ェ)ワン先生(日本に帰化)の新聞記事が出てました。

・毎日新聞 > 医療 > ストーリー 三股智子/日本で生きるチベット難民(その1) いつか帰りたい故郷 (毎日新聞2017年11月12日東京朝刊)
https://mainichi.jp/articles/20171112/ddm/001/040/127000c
・毎日新聞 > 医療 > ストーリー 三股智子/日本で生きるチベット難民(その2止) 日本に育てられ (毎日新聞2017年11月12日東京朝刊)
https://mainichi.jp/articles/20171112/ddm/010/040/063000c

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西蔵ツ(ェ)ワン先生の本名が

ツ(ェ)ワン・ユゲル ཚེ་དབང་གཡུ་རྒྱལ། tshe dbang g-yu rgyal/

であることもわかりました。チベット文字綴りは推定ですが。

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本文に現れる他の人名の、チベット文字綴りも推定してみましょう。

まずツ(ェ)ワン先生と共に来日した5人の留学生のうち、他の4人。

ペマ・ギャルポ པདྨ་རྒྱལ་པོ། padma rgyal po/

ダムデン・ギュルミー(西大寺ダムデン) དམ་ལྡན་བསྒྱུར་མེད། dam ldan bsgyur med/

ギュルミー・ワンダー བསྒྱུར་མེད་དབང་གྲགས། bsgyur med dbang grags/

トプゲイ・ブティア སྟོབས་རྒྱལ་ भोटिया stobs rgyal Bhutia
(Bhutia/Bhotiyaはチベット語ではなく、インドにおいてチベット人を指す他称)

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ツ(ェ)ワンさん、ペマさん、ダムデンさん以外の2人の行方が気になっていたのだが、ギュルミーさんはギャワ・リンポチェ(ダライ・ラマ法王)のbodyguardとなり、現在はCanada在住。

トプゲイさんは在Delhi日本大使館に勤務。インドで活動しているため、チベット人であることを示すBhutiaを苗字のように使っているものと思われる。

かなりすっきりした。

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ツ(ェ)ワン先生の奥さん

チュドレン ཆོས་འདྲེན། chos 'dren/ か ཆུ་འདྲེན། chu 'dren/

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毎日新聞のチベット関連記事については、これまであまりいい印象を持っていなかった。

ダライ・ラマ法王説法の取材について、「デスクワークから離れられてよかった」なんていう、中学生レベルの感想を紙面に垂れ流したり、チベット取材では、チベット人による中国共産党批判の声を伝えながら、それは、批判した本人が誰なのか、共産党側が簡単に特定できるような、お粗末な記事だった。

間接的に中国共産党のチベット抑圧に手を貸している、と言われても仕方あるまい。

他の紙面でも、だんだんレベルの低い記事が目立つようになり、毎日新聞を読む機会もなくなっていたところ。

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今回の記事は、淡々としているものの、取材内容を的確かつ簡潔に届けており、好感が持てる。

こういう優秀な記者が、本社に栄転するといろいろ圧力を受けて、まるで人民日報そのままのような記事を垂れ流すようになるのは勘弁してほしいものだ。

2017年11月13日月曜日

広島大学がンガリーに望遠鏡設置完了

2016年10月5日水曜日 広島大学ンガリー天文台
2017年3月14日火曜日 広島大学ンガリー天文台(続報)

で紹介した、西チベット・ンガリー(阿里地区)の「ガル山(注)」に建設した観測所にようやく望遠鏡が据え付け終わったそうです。

・読売新聞/YOMIURI ONLINE > 科学・IT > 松田祐哉/重力波、チベットから迫る…広島大が望遠鏡設置 (2017年11月12日 14時41分) 
http://www.yomiuri.co.jp/science/20171112-OYT1T50024.html

作業は9月下旬~10月上旬だったそうで、もう気候は相当厳しくなっていると思われます。標高5130mの場所での作業はかなり大変だったでしょう。お疲れ様でした。

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しかし、この観測所に日本人研究者は常駐せず、日本から遠隔操作して観測するんだそうですが、大丈夫かなあ。中国~チベットは何が起きるかわからないので、想定外のトラブルがかなりありそうな気もするんですが・・・。

でも、trouble shootingが突発的に必要になったとしても、近くに飛行場もできているし、うまくいけば日本から1週間以内に現場に到達できるでしょう。冬はどうか知りませんが(笑)。

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何はともあれ、重力波天体の観測というのは、私もとても興味があるテーマなので、是非KAGRAと共に、日本初の重力波とその発信源天体の発見に結びついてほしいものです。

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(注)

観測所の場所は一般的には「ガー山」と呼ばれていますが、私は「ガル山」と呼びます。その理由については、2017年3月14日のpostをお読みください。

2017年10月25日水曜日

いまだに「ラマ教」/道教タントラ

・菅野博史・編集協力 (2010.9) 『中国文化としての仏教』(新アジア仏教史08 中国III 宋元明清). 413pp. 佼成出版社, 東京.


装幀 : 間村俊一

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この巻は、もはや中国仏教が完成の域に達し、現在に至る「ほぼ停滞」の時代を記述しています。

その反対に元・明・清と、漢土に勢力を拡大してきたのがチベット仏教。なんかこの本では、渋々取り上げてる感がありあり。

さすがに「ヒンドゥ教と混交した、もはや仏教とは言えない淫祠邪教」といった論調は見なくなったが、「ラマ教」という時代錯誤の表現は、この本にもバンバン出てくる。まあこれが中国仏教研究者の本音なんでしょうね。

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・陳継東 (2010.9) 第3章 仏教民間信仰の諸相. 『中国文化としての仏教』(新アジア仏教史08 中国III 宋元明清)所収. pp.149-183. 佼成出版社, 東京.

がおもしろい。宗派発展史・教義研究中心の中国仏教史ではこぼれ落ちた諸相がいろいろわかる。このへんはさすが中国人研究者の仕事だ。

漢土の四大霊山である

文殊菩薩の聖地・五台山
普賢菩薩の聖地・峨眉山
地蔵菩薩の聖地・九華山
観音菩薩の聖地・普陀山

の由来と沿革を知ることができたのはよかった。普陀山の由来が日本人僧というのは、はじめて知ったなあ。

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また、仏教から半ば逸脱して「民間宗教」化した白蓮教とか羅教(無為教)といったところの記述が興味深い。

羅教開祖・羅祖が、悟りに至るまでの右往左往する様は、下手な小説よりもおもしろい。人気も出るわな。

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ところで、この本とは別なんだが、

・岡田英弘 (2003.7) 『やはり奇妙な中国の常識』(ワック文庫). 234pp. ワック出版, 東京.
← 初出 : 岡田英弘 (1997.10) 『中国意外史』(Shinshokan History Book Series). 253pp. 新書館, 東京.


装幀 : 加藤俊二(プラス・アルファ)

におもしろい話があった。道教のタントラ密教だ。

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秘密結社III, 同書pp.59-75.
性, 同書pp.139-152.

あたりで紹介されている性密儀は、どうもタントラ密教とよく似ている。また真言立川流とも似ている。

ところがその源流は、というと2世紀の五斗米道・張陵まで逆上るというのだ。インドのタントラ密教(ヒンドゥ教・仏教を問わず)の始まりである7~8世紀よりずっと早い。

まあ文献として内容が残っているのは、道教版大蔵経である『道蔵』所収「上清黄書過度儀」らしいので、その内容が正確にはいつ頃のものなのかはっきりしないのだが・・・。

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その儀軌が本当に2世紀由来のものであるのならば、インド・タントラ密教の発祥についても、中国道教の影響を考える必要があるのかもしれない。

いろいろ面白いことを考えさせてくれる2冊でした。