2015年10月11日日曜日

柱建て祭りとKumariのお話(13) Kashmir盆地のNaga神話-その1

インドの北西Kashmir(काश्मीर)盆地にも、Kathmandu盆地と似たような神話が残っています。

・Kalhana कल्हण (1148-49) 『Rajatarangini राजतरंगिणी』
・Unknown (6-7C) 『Nilamata Purana नीलमत पुराण』

より

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太古の昔、Kashmir盆地はSatidesha(सतीदेश)あるいはSatisar(सतीसर)という湖でした。この名はShiva妃Sati(सती)にちなむものです。この湖を支配していたのはNagarajaである Nila(नील)です。

湖はIndraが遊びに来る聖地でしたが、悪鬼Sangraha(सङ्ग्राह)がやって来て戦いになります。IndraとSangrahaの戦いは1年間続きましたが、Sangrahaはついに調伏されます。

SangrahaはJalodbhava(जलोद्भव)という遺児を残しましたが、これを哀れんだNilaによって育てられます。ところがJalodbhavaは所詮悪鬼の子だったのです。成長したJalodbhavaは周囲を荒らし回るようになります。

Nilaは父である聖仙Kashyapa(कश्यप)に助けを求めます(注)。これにVishnu、Shiva、Brahmaをはじめとする神々が加担。

湖に逃げ込んだJalodbhavaをおびき出すために、VishnuはNagaraja Ananta(अनन्त)に命じ、盆地を取り囲む山脈を切り開き排水します。そして無事Jalodbhavaを退治。湖は干上がり盆地となり、以後人が移り住むようになった、という神話です。

なお、Kashmirという地名はKashyapaにちなむもの、というのがこの神話での説です(他にも諸説ある)。

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この神話はKathmandu盆地のものと似てはいますが、ヒンドゥ教の神々が活躍する点、Jalodbhavaという悪役が登場する点が異なります。

Nagaを信仰する原住民が、インド・アーリヤ人あるいはバラモン教の進出に抵抗し、後にはこれを受け入れたエピソードを表している、と考える説もあります。

この原住民は、いわゆるMunda系(オーストロ・アジア系民族の一派で東南アジアのMon-Khmer系とは親戚とされる)と推測する学者が多いのですが、確証はありません。また、ブルシャスキー語話者だった、と考える説もあるが、こちらも確証はありません。

参考:

・Mark Aurel Stein (1900-26) KALHAŅA'S RĀJATARANGINĪ : A CHRONICLE OF THE KINGS OF KAŚMĪR : .VOL.1-5. 1555pp.+pls.+maps. A. Constable, Westminster. 
→ Reprinted : (1989) VOL.1-3. Motilal Banarsidass, Delhi. 
・M. L. Kapur (1983) KINGDOM OF KASHMIR. viii+402pp. Kashmir History Publications, Jammu.
・S.L. Shali (1993) KASHMIR : HISTORY AND ARCHAEOLOGY THROUGH THE AGES. 311pp.+pls. Indus Publishing, New Delhi.
・Khandro Net > Symbolism > Misterious Beings & Objects > Nagas(as of 2015/10/03)
http://www.khandro.net/mysterious_naga.htm
・Kashmiri Pandit Network > Religion – Nilamata Purana(as of 2015/10/03)
http://ikashmir.net/nilmatapurana/index.html

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(注)

聖仙Kashyapaは、すべてのNagaの父とされます。Kashyapaには妻がたくさんおり、この妻たちが神々や魔神を産んだとされます。その妻の一人Kadru(कद्रु)がすべてのNagaの母です。

Kadruの妹Vinata(विनता)もKashyapaの妻であり、こちらはGaruda(गरुड)を産みました。

KadruとVinataはある賭けをしますが、Kadruとその子Nagaたちの策略によりVinataは賭けに負け、奴隷の身に落とされてしまいます。

Nagaたちは、Vinataの身を解放する条件として、天界よりAmrita(अमृता、甘露)を盗んでくることをGarudaに要求します。天界に向かったGarudaはAmritaを守る神々を撃ち破り、Amritaを手に入れることに成功します。

VishnuとIndraが追撃にやって来ますが、双方ともGarudaの勇敢さに感心し、逆にGarudaの願いを叶えてやります。Vishnuには、不老不死とVishnuの乗り物になることを願い、かなえられました。Indraには、NagaたちにはAmritaを見せるだけで天界に返すことを申し出て、蛇を常食とする願いをかなえられました。

GarudaはNagaたちのところへ行き、Amritaをkusha(कुश)草の上に置き「沐浴してからAmritaを飲むように」とNagaたちに告げました。Nagaたちが沐浴をしている間に、IndraがそのAmtritaを持ち去ってしまいました。Nagaたちは戻ってみるとAmritaがなくなっているため、Amritaが置いてあったkusha草を未練たらしく舐めまわしました。kusha草は葉先が鋭く、このためNagaたちの舌先は二つに避けてしまった、というのがこの神話のオチです。

参考:

・上村勝彦 (1981) 『インド神話』. 286pp.+pls. 東京書籍, 東京.
→(2003) 『インド神話 マハーバーラタの神々』(ちくま学芸文庫マ-14-14). 350pp. 筑摩書房, 東京.

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