2017年8月1日火曜日

富山・長野チベット巡礼 (3c) 利賀・瞑想の郷-その4

「瞑想の館」の続き。

(2)寂静四十二尊曼荼羅の対面には、それと対になる(3)忿怒五十八尊曼荼羅が展示されている。


トラチャン+田中(1997), p.6

本尊は、普賢チェチョク・ヘールカ父母仏 ཀུན་བཟང་ཆེ་མཆོག་ཧེ་རུ་ཀ་ཡབ་ཡུམ་ kun bzang che mchog he ru ka yab yum。寂静曼荼羅の本尊・普賢菩薩の忿怒形になります。よって、その真上に普賢父母仏が描かれているわけです

その周囲にヘールカ父母仏が五尊(ヤプユムなので十尊ですが)描かれています。これは寂静曼荼羅の金剛界五如来に対応しているわけです。

ここでも、金剛界曼荼羅などに顕著に見られる対称性を、あまり気にしない構成で、ニンマパ特有のもの。

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この曼荼羅のおもしろいところは、恐ろしい姿をした女神様たちが多数描かれているところだろう。

まず内院外郭にケウリマ ཀེའུ་རི་མ་ ke'u ri ma(Gauri गौरी)八尊、タメンマ ཕྲ་མེན་མ་ phra men ma(Dakini डाकिनी)八尊。いずれも瑜伽女(Dakini)の仲間たちで、特にタメンマはいずれも獣面であるのが目を引く。

更に外院にはずらりと獣面のワンチュクマ དབང་ཕྱུག་མ་ dbang phyug ma二十八尊。

楼閣形式の曼荼羅だと小さく描かれてしまうが、これが楼閣形式ではない形式だと、これらの瑜伽女方は大きく描かれるため、とても目を引く。色もカラフルだし。

その一部は前回も挙げた

2012年3月3日土曜日 ヒマーチャル小出し劇場(3) タシ・ポン(絵師タシ・ツェリン)
2015年10月23日金曜日 ヒマーチャル小出し劇場(28) 外国人なんか誰も来ないところへ行くと・・・

で見てほしい。

シト百尊曼荼羅の諸尊は、『チベット死者の書 བར་དོ་ཐོས་གྲོལ། bar do thos grol/』に現れる諸尊でもある。浦辻館長の案内では、曼荼羅も主にその線に沿って説明してくれます。

『チベット死者の書』についてはこちらもどうぞ↓。

2014年8月17日日曜日 『チベット死者の書』のチベット語スペル

なお、曼荼羅の外側の忿怒四尊は、頑張って調べないとわかりません。忿怒尊、特にニンマパの諸尊はむずかしいです。

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曼荼羅の背景はフラッシュのような縁取りが見られ、このへんは絵師のオリジナリティが発揮される部分です。20世紀の絵師らしいモダンな画面構成。

チベット仏教美術というのは、尊容や構成は経典によってガチガチに固定されて入るのですが、こういった余白部分は絵師の裁量に委ねられています。絵師の個性が出るところです。

ひと通り主題を鑑賞した後、こういった部分にも目を向けて、絵師の個性に思いを馳せるのもまた、チベット仏教美術館賞の醍醐味なのです。

ツヅク

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