「瞑想の館」の続き。
(3)極楽浄土図(阿弥陀如来)
トラチャン+田中(1997), p.8
こちらも日本でお馴染みの極楽浄土図=西方浄土図。もちろん本尊は阿弥陀如来 འོད་དཔག་མེད་ 'od dpag med。脇侍は向かって左が観世音菩薩 སྤྱན་རས་གཟིགས་ spyan ras gzigs、向かって右が金剛手菩薩 ཕྱག་ན་རྡོ་རྗེ་ phyag na rdo rje(大勢至菩薩 མཐུ་ཆེན་ཐོབ་ mthu chen thobと同体とみなされる)。
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その背後には十六羅漢 གནས་བརྟན་བཅུ་དྲུག gnas brtan bcu drug がずらりと並ぶ。壮観だ。
その両側に三尊ずついらっしゃる、宝幢などをかかげた六尊立像はよくわかりません。
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阿弥陀三尊の下両側に、三尊ずつ三角形を作っていらっしゃるのは、八大菩薩 ཉེ་སྲས་བརྒྱད་ nye sras brgyadのうち、観音、金剛手を除く六尊と思うが、それぞれの尊格比定はあんまり自信ない。
向かって左の三角形は、上段が文殊菩薩 འཇམ་དབྱངས་ 'jam dbyangs、下段向かって左側が弥勒菩薩 བྱམས་པ་ byams pa。下段向かって右側が地蔵菩薩 སའི་སྙིང་པོ་ sa'i snying po。
向かって右の三角形は、上段が普賢菩薩 ཀུན་ཏུ་བཟང་པོ་ kun tu bzang po、下段左側が除蓋障菩薩 སྒྲིབ་པ་རྣམ་པར་སེལ་བ་ sgrib pa rnam par sel ba 下段右側が虚空蔵菩薩 ནམ་མཁའི་སྙིང་པོ་ nam mkha'i snying po。
八大菩薩は、単独で描かれる時と八尊一緒に描かれる時で、色が変わったりするので、意外に比定がむずかしいのだ。
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最下段では、阿弥陀三尊と三部主尊が、有情を極楽へと導く光明を地上へと放っています。「これぞ大乗仏教」という絵ですね。
背景の宮殿はいやに和風に感じますが、それもそのはず。絵師Shashi Dorjeさんが、来日後京都・奈良のお寺を参拝し、それらを参考にしているのだそうです。より親しみがわきますね。
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一番上端、左手には珍しい黒帽ラマ。これは明らかにギャワ・カルマパ རྒྱལ་བ་ཀརྨ་པ་ rgyal ba karma pa(カルマ・カギュパの管長)なのですが、よくよく見ると、これは先代カルマパ16世ランジュン・リクペー・ドルジェ རྒྱལ་བ་ཀརྨ་པ་སྐུ་འཕྲེང་བཅུ་དྲུག་པ་རང་འབྱུང་རིག་པའི་རྡོ་རྗེ་ rgyal ba karma pa sku 'phreng bcu drug pa rang 'byung rig pa'i rdo rje師(1981年遷化)のような気がします。
というのも、この仏画が描かれた1989~91年には、17世はまだ見つかっていないから(1992年認定)。
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瞑想の館に収蔵されている四枚の曼荼羅/仏画を見てきたわけですが、レベルの高さに驚くばかりです。
観覧では館長が案内してくれますが、案内が終わっても居残ってもいいようなので、しばらく眺めていてもいいでしょう。瞑想の真似事をしてみるのも、またよし。
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鑑賞では、ここで説明したような尊格比定が必ずしも必要ではありませんが、分かっていた方がずっと面白いのは間違いありません。
これは宗教美術であって、絵の隅々まで意味の塊なのです。普通の美術鑑賞とはだいぶ見方が違ってきます。
それぞれの尊格が何かわかったところで、ようやく「この絵の意味は何か?」「仏教のどういう思想を表しているのか?」と考えるステージに立つことができるのです。
売店には、田中公明先生の仏教図像学の本も置いてありますから、それを見ながらもう一度ひと通り鑑賞してみるのもいいでしょう。
とにかくここの絵は密度が濃いので、仏教図像学の勉強には最適の場所です。
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次回は「瞑想美の館」に移ります。
まだツヅク
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