2017年8月26日土曜日

吉岡乾 『なくなりそうな世界のことば』

・吉岡乾・著, 西淑・イラスト (2017.8) 『なくなりそうな世界のことば』. 107pp. 創元社, 大阪.


デザイン : 近藤聡(明後日デザイン制作所)

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2009年6月17日水曜日 「ブルシャスキーって何語?」の巻(1) ブルシャスキー語 
2015年12月5日土曜日 2015年11月29日(日)大学共同利用機関シンポジウム2015

で紹介した、おそらく日本でただ一人のブルシャスキー語研究者・吉岡乾(よしおかのぼる)先生の初著作です。初著作が絵本とは意外だった。

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この本、見つけるの苦労した。

まず「大きい本屋じゃないと、置いてないだろう」ということで、大型書店に行ったはいいが、それからが大変。

まず絵本のコーナー・・・ない。

「絵本とはいえ、どっちかというと大人向けかもな。するとまあ語学だろうな・・・」ということで、語学のコーナーへ・・・ない。

「文化人類学かな?」・・・ないっ。

「うーん困った」ということで、大型書店なら検索システムがある。それっ、検索っ!・・・在庫あり。おお、すごいぞ。

なになに、「在庫  ファンタジーの棚」だって?ファンタジー?なんか違うんじゃないかな・・・。

で、ファンタジーの棚を探したところ、そんなラベルの棚はないっ。

念のために「ラノベ」の棚に行ってみたが、当然ありませんね。

万策尽きて店員さんに訊いてみた。店員さんも首を傾げながら棚探索。

すると、ファンタジーのコーナーは「海外文学」の一角にあった。で、この本も無事ありました。

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しかし書店泣かせの本だ。

同じシリーズのE・F・サンダースの絵本も、米澤敬の絵本も同じ所にあった。版型が同じなので一緒に置きたくなる気持ちはわかるが、「サンダース絵本=外国文学」に引きずられて、外国文学でもファンタジーでもない本を一緒くたにされちゃ、誰も見つけられないよ。

著者のTwitterによると、著者自身は「ノベルス棚」で見つけたそうな。

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内容はタイトル通り。わかりやすい。

特徴としては、取り上げられている50言語のうち、ブルシャスキー語、シナー語をはじめ、カラコルム周辺の言語が7言語を占める点。著者の調査地域ですから、これは当然でしょうね。

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その中から、一つ紹介。

ラダック語「SROCAN ショチャン 怒りっぽい人、怒りんぼう」。


同書, p.44

「སྲོ་ཅན་ sro can」。チベット語ラサ方言では「ショチェン」ですが、ラダック語ではより字面に近く「ショチャン」と発音。

チベット語では「ཁྲོ་བ་ཅན་ khro ba can」で、ほぼ同じ意味になります。

チベット語でも「སྲོ་ sro」「སྲོ་ཅན་ sro can」という単語はありますが、あまり使われません。Dasの辞書によると、「sro」はインド起源の単語だというが、その元の単語は見つけられなかった。

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日本語の単語には直訳できない言葉が多く、すごく面白い。

・インドネシア・フローレス島ラマホロット語「DEBA' デゥバッ 手で触ってみるなど触覚を利用して何かを探す」

・カラコルム・ワヒー語「PURDUYUYN プルデュユーヴン 家畜に乳を出す気にさせる」

・シベリア・コリヤーク語「WINEKJEŃAJETGEL ウィヌクジュガージュトゥグル 7月末から8月初めに種雄トナカイが角を磨くときの暑さ」

なんか大好き。

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この本でちょっと残念なのは、人物画が各民族の衣装ではないこと。地域不明の服装ばかりで、各民族の特色が伝わってこない。

これは言語を紹介する本で、各民族の習俗を紹介する本ではないからかもしれないが、続編が出るようなら、その時はちょっと頑張って、各民族衣装の資料も探してほしい。

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評判はどうかな?と、Twitterで著者名で検索したところ、絶賛ですね。増刷かかるといいなあ。

ところで、本書に対する美辞麗句によるお褒めのtweetsの間に、著者自身による(お馴染みの)毒吐きまくりtweetsが挟まって出てくるのに爆笑。

これ、同一人物とは思わない人が多いかもしれない。吉岡先生らしくていいなあ。

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