2017年8月9日水曜日

富山・長野チベット巡礼 (3f) 利賀・瞑想の郷-その7

瞑想の館の隣りに立つ、三重塔が「瞑想美の館」。


瞑想美の館

1階には、福光美術館「デルゲ印経院木版仏画展」で展示されている142点のうち、重複分3点が展示されていた。

こんな感じで、少しずつ展示してでいいから、その展示品ごとの解説をコツコツと作ってほしい。10年くらいで全部の解説ができるんじゃないだろうか?

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2~3階吹き抜けには、

(5)南東壁 : 胎蔵曼荼羅 རྣམ་སྣང་མངོན་བྱང་གི་དཀྱིལ་འཁོར། rnam snang mngon byang gi dkyil 'khor/ गर्भमण्डल Garbha Mandala
(6)北西壁 : 金剛界曼荼羅 རྡོ་རྗེ་དབྱིངས་ཀྱི་དཀྱིལ་འཁོར། rdo rje dbyings kyi dkyil 'khor/ वज्रधातुमण्डल Vajradhatu Mandala

の2つの曼荼羅が向かい合って展示されている。


瞑想美の館の曼荼羅(瞑想の郷パンフレットを一部改変)

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この2枚は、1989~91年に描かれた「瞑想の館」の四枚の仏画・曼荼羅に続き、1994~97年にかけて、やはりShashi Dorjeさんによって描かれたものです。

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まず、わかりやすい(6)金剛界曼荼羅から。


トラチャン+田中(1997), p.12

この曼荼羅は、徹底的に対称性が保持されており、数学的というか幾何学的に非常に整然としている。理系の人には相性がいいかもしれない。

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中央の本尊は、もちろん毘盧遮那如来 རྣམ་པར་སྣང་མཛད་ rnam par snang mdzad वैरोचन Vairocana(白)。四面二臂のお姿です。

その周囲には、その眷属である四波羅蜜菩薩(女尊)が配されていますが、三昧耶形で描かれているので気づかないかもしれない。

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そしてその東南西北にはそれぞれ、

(東)阿閦如来 མི་བསྐྱོད་པ་ mi bskyod pa अक्षोभ्य Akshobhyaとその眷属
(南)宝生如来 རིན་ཆེན་འབྱུང་གནས་ rin chen 'byung gnas रत्नसम्भव Ratnasambhavaとその眷属
(西)阿弥陀如来 འོད་དཔག་མེད་ 'od dpag med अमिताभ Amitabhaとその眷属
(北)不空成就如来 དོན་ཡོད་གྲུབ་པ་ don yod grub pa अमोघसिद्धि Amoghasiddhiとその眷属

が並びます。

なお、金剛界曼荼羅では、

下=東、左=南、上=西、右=北

になっています。これは他の曼荼羅でもだいたい同じと考えて大丈夫です。

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内院、外院の四隅には、それぞれ四尊ずつ供養菩薩がいらしゃいます(八大供養菩薩)。また、東南西北の門衛として、忿怒形の四摂菩薩がいらっしゃいます。

全部で37尊。これは、三昧耶形の四波羅蜜菩薩を含む数え方になります。

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これをまとめると、以下の図のようになります。



これは、例によってヒマーチャル・ガイドブックのために作ったものでしたが、日の目を見ていないもの。Tabo Tsuglagkhang རྟ་བོ་གཙུག་ལག་ཁང་ rta bo gtsug lag khangの解説用図面の一部です。

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とても整然としているでしょう。Tabo Tsuglkagkhangに祀られている諸尊は、この金剛界曼荼羅の諸尊なのです。いわゆる立体曼荼羅です(楼閣形式ではありませんが)。


Tabo Tsugkagkhang

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また、外院を埋め尽くしているのは、賢劫千仏 བསྐལ་པ་བཟང་པོའི་སངས་རྒྱས་སྟོང་ bskal pa bzang po'i sangs rgyas stong。

現在が属する劫(བསྐལ་པ་ bskal pa कल्प Kalpa、1劫=数十億年)を「賢劫」と言います。大乗仏教では、過去の劫にも、現在の劫(賢劫)にも、未来の劫にも、たくさんの仏陀が現れた/現れる、と考えられています。その数は、各劫それぞれ千仏。

釈尊は賢劫では四番目の仏陀とされます。その賢劫に現れる千仏が外院に描かれているわけです。おそらく正確に千仏いらっしゃると思います。

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金剛界曼荼羅は、瑜伽タントラ経典である『金剛頂経 གསང་བ་རྣལ་འབྱོར་ཆེན་པོའི་རྒྱུད་རྡོ་རྗེ་རྩེ་མོ། gsang ba rnal 'byor chen po'i rgyud rdo rje rtse mo/ Vajrashekhara Mahaguhya Yogatantra』の思想・儀軌を図式化したもの。観想により諸尊を自己中に現出・同一化させ、さらに現出させた諸尊を供養する。その順番は厳密に定められており、それは曼荼羅に描かれたとおりに進められる。

というわけで、曼荼羅というものは観想という儀式実践のための実用品であって、飾っておいたり眺めているだけでは、役に立たない。

儀式を実践しないと意味がないわけだが、かといって本などを読んだだけでタントラの儀式を勝手に実践するなど、危険極まりない。顕教の修行を充分積んだと認定され、密教入門許可の儀式=灌頂を経た行者のみが、ラマの指導のもとで慎重に行われるものなのだ。

我々凡夫はそのような境地に至ることはできないので、せめて曼荼羅の意味を知っておくだけでいいでしょう。

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日本に伝来している金剛界曼荼羅は九つの曼荼羅が描かれたいわゆる「九会曼荼羅」だが、チベット仏教の金剛界曼荼羅はそのうちの「成身会曼荼羅」に相当する。

このへんの比較は、田中公明先生の著作を読んだほうがいいでしょう。

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金剛界曼荼羅の描き方にはいろんな流派があって、瞑想美の館に収蔵されている金剛界曼荼羅は、「आनन्दगर्भ Anandagarbha流」とのことです。

四隅に描かれたインド人僧のうち、向かって左上がAnandagarbha(9C?)です。右上がShakyamitra、右下がAbhayakaragupta、左下がBuddhaguhya。いずれも金剛界曼荼羅の流儀の創始者です。

このへんは解説を聞かないと、比定はむずかしいですね。

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この金剛界曼荼羅は、余白にもみっちりと文様が描かれ、非常に豪華なものになっています。現代曼荼羅壁画の最高峰と言っていいでしょう。

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