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まずは山側に向かって左手(実際は中央)の「瞑想の館」から。
瞑想の館
入り口のそばにマニ車があるのがうれしい。4つだけだし、中にペチャ དཔེ་ཆ་ dpe cha 経典も入ってなさそうだったが。
瞑想の館 マニ車
しかし回廊の外枠内側にマニ車を設置されると、回廊を時計回りで回っているのに、マニ車を回す時は逆回りになるので困る。
まあ、ここは宗教施設ではないのであまり神経質になる必要はないのだが、チベットでのやり方が通用しないと、どうしても違和感が出てしまう。
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真ん中の階段/通路を挟んで2棟の三重塔(第2~第3層は吹き抜け)が連結したような建物だ。この辺の話をするにも、設計者の情報がほしいですね。
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1階にはヒンドゥ教神像がずらりと並ぶ。珍しいものはないが、日本でこれだけのヒンドゥ教神像を見る機会って、めったにないなあ、と思いつつ眺めていた。
日本の日常からチベット仏教世界へ旅立つ、その入口としてのヒンドゥ教神像というのは悪くないアイディアかも。実際、チベットへ行く時に、Nepal Kathmandu経由で行く人もかなりいるし、Tukucheへ行く際はもちろん、まずKathmanduが出発点だ。
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入り口から左手の棟、2~3階の吹き抜けは、田中公明先生がCGで再現した「ミトラ百種曼荼羅」。
2006年に瞑想の郷でお披露目されて以来、ずっとここで展示されているようだ。
・なんと-e.com > ブログ 2006年8月 > 2006/08/03 夏の企画展「ミトラの108曼荼羅」
http://www.nanto-e.com/blog-item-3668.html
その内容は、本としてまとまってもいます。
・田中公明 (2007.4) 『曼荼羅グラフィックス』. 136pp. 山川出版社, 東京.
https://www.yamakawa.co.jp/product/64026
この本は、瞑想の郷や福光美術館でも販売されていました。
しかしこの展示はかなり専門的なもので、説明つきで見ても理解は難しいと思う。尊格は省略されているので、つかみ所も少ないし。
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そして右手の棟の2~3階吹き抜けに曼荼羅・仏画4枚が収蔵されている。
瞑想の郷パンフレット1
瞑想の郷パンフレット2
壁四面、2mくらいの高さから上に、約4m四方の曼荼羅・仏画が展示されているのだ。すごい迫力。
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瞑想の館の曼荼羅・仏画(瞑想の郷パンフレットを一部改変)
正面に当たる南東壁から時計回りに紹介。
(1)南東壁 : 十一面千手観音像 སྤྱན་རས་གཟིགས་ཕྱག་སྟོང་སྤྱན་སྟོང་། spyan ras gzigs phyag stong spyan stong/
(2)南西壁 : 寂静四十二尊曼荼羅 ཞི་བ་བཞི་བཅུ་རྩ་གཉིས་ཀྱི་དཀྱིལ་འཁོར། zhi ba bzhi bcu rtsa gnyis kyi dlyil 'khor/
(3)北西壁 : 極楽浄土図 བདེ་ཅན་ཞིང་བཀོད། bde can zhing bkod/ (阿弥陀如来 འོད་དཔག་མེད། 'od dpag med/)
(4)北東壁 : 忿怒五十八尊曼荼羅 ཁྲོ་བོ་ལྔ་བཅུ་རྩ་བརྒྱད་ཀྱི་དཀྱིལ་འཁོར། khro bo lnga bcu rtsa brgyad kyi dkyil 'khor/
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(2)と(4)は、チベット仏教ニンマパに伝わる「シトー(寂静忿怒)百尊曼荼羅」を寂静四十ニ尊、忿怒五十八尊に分けて、曼荼羅に描いたもの。
ニンマパだけではなく、カギュパ諸派でも重要視されている。特にカルマ・カギュパ。
シトー百尊が、僧院・寺院の壁画として描かれる場合には、本尊を中心に諸尊がまとまって描かれるものの(それでも曼荼羅ではある)、このように曼荼羅らしく楼閣内に描かれることは比較的珍しい。
・2012年3月3日土曜日 ヒマーチャル小出し劇場(3) タシ・ポン(絵師タシ・ツェリン)
で書いたように、Kinnaurのゴンパではシトー百尊壁画が人気で、新しい壁画がどんどん描かれていたが、これらは楼閣形式ではなかった。
スペースの関係もある。楼閣形式で尊格の多い大型曼荼羅を、壁画として描くためには、かなり高く広い面が取れる壁が必要となるのだ。小さいゴンパが多いKinnaurではそれは難しいようだ。
ま、どちらの形式でも、観想に用いるのに不自由はない。
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トラチャン+田中(1997), p.4
その下には毘盧遮那父母仏 རྣམ་པར་སྣང་མཛད་ཡབ་ཡུམ་ rnam par snang mdzad yab yum。曼荼羅の中心に二尊(ヤプユムなので四尊になるが)というのは珍しく、おそらくチベット独自に発達した曼荼羅であると推測されている。
その周囲には、阿閦如来とその眷属五尊、宝生五尊、阿弥陀五尊、不空成就五尊が描かれ、金剛界曼荼羅に近い曼荼羅であることがわかる。
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その間には、上段は五部のダーキニー、五部の持明者、下段には六道の仏が描かれている。
こういった、対称性を少し崩した配置は、この曼荼羅独特のもの。
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こうして、描かれている諸尊を説明していくと、いつまでたっても終わらないので、詳しくは、
・サシ・ドージ・トラチャン・作画+解説, 田中公明・解説+訳 (1997.4) 『富山県利賀村 「瞑想の館」と「瞑想美の館」の仏画について』. 16pp. 利賀国際山村文化体験村(瞑想の郷), 利賀(富山).
(瞑想の郷で販売、あるいは配布されている小冊子)
・田中公明 (1987.8) 『曼荼羅イコノロジー 曼荼羅の歴史と発展について』. 315pp. 平河出版社, 東京.
を読んでほしい。
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寂静四十二尊曼荼羅の外側についても触れておこう。こういった余白に何を描くかは、儀軌には記されておらず、絵師の裁量に任されている。
ここでは、上段中央に阿弥陀如来、向かって左にはパドマサンバヴァとシャーンタラクシタ、向かって右にはカーマラシーラとティソン・デツェン。いずれも吐蕃時代の仏教導入に功があった祖師方。
下段は、向かって左が忿怒尊(ニンマパの忿怒尊は独特の尊格が多いので、調べるのに時間がかかるため、今はこれで勘弁して)、右がセンゲ・ドンマ(獅子面のダーキニー)。
とまあ、こちらもきりがないのでここまで。
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ほらね、これだけ書いても、一枚を中途半端にしか説明できない。いかに仏画の情報量が多いかわかってほしい。
さらに曼荼羅全体の意味や、どのように利用するかなど語り始めると、もういつまでたっても終わらないので、それぞれ解説書を読んでほしい。
ツヅク
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