これは展覧会の図録というかカタログ。展覧会で観覧者に無料配布されている。
・田中公明・監修, 利賀ふるさと財団+利賀瞑想の郷・編 (2017.7) 『なんとの至宝 Part 6 デルゲ印経院チベット木版仏画展 平成29年7月1日~8月20日』. 12pp. 南砺市立福光美術館, 南砺(富山).
同書, p.1
かなりの縮刷になってしまっているが、展示品142点が全て収録されている。
図像をじっくり見るには物足りないが、展示品リストとしては理想的な形態。次回は、もう少し大判の図録化してほしい(もちろん有料で販売してくれれば、買う買う)。
------------------------------------------
会場には、
・唐拉津旺 等・画, 根秋登子+多智+雄呷・藏文注釈, 戴作民・漢文翻訳 (2002.6) 『徳格印経院藏傳木刻版画集』. 四川民族出版社, 成都.
が置いてあったが、これの翻訳でもいいかもしれない。
------------------------------------------
この展覧会では、前回紹介したネテン・チュードゥク(十六羅漢)をはじめ、セット物が多いのも特徴。
グル・リンポチェ八相 གུ་རུ་མཚན་བརྒྱད་ gu ru mtshan brgyadも一揃い。グル・リンポチェ གུ་རུ་རིན་པོ་ཆེ་ gu ru rin po che(पद्मसम्भवPadmasambhava 連華生)がどういう方か、という簡単な解説はあったものの、この八相がどういう場面で、どういう意味を持っているのか、について解説はない。
これはグル・リンポチェの事績を8つの場面に分けて紹介したもの。それぞれの場面で異なる姿を取り、それぞれに別の名前もついているのだ。
初心者には、なかなか理解がむずかしいだろう。この八相をチャム(འཆམ་ 'cham 仮面舞踊)化したものであるツェチュー ཚེས་བཅུ་ tshes bcuとも関連づけて紹介してくれれば、一層理解しやすくなるかもしれない。
また逆に、Ladakh Hemisあたりにツェチューを見に行く人は、このグル・ツェンギェのタンカ・セット(そのコピーや印刷物)8枚を持って行って、チャムを見ながらタンカと比較するのもおもしろい。おそらくタンカの尊格が仮面でぞろぞろ登場して来るはず。
なお、このグル・リンポチェの8事績は、いずれも月の十日目(ツェチュー)に起きたとされる。だから、チャムのタイトルはツェチューなのだ。
------------------------------------------
釈尊生涯八相 མཛད་པ་བརྒྱད་པ་ mdzad pa brgyad paの方は、グル・リンポチェのそれよりもずっと馴染みがあるだろう。
(1)誕生 (2)学問と四門出遊 (3)出家 (4)降魔 (*)成道(本尊)(5)転法輪 (6)天界からの降下 (7)神変 (8)涅槃
の9枚セットがチベットでは一般的。12枚にしたセットもある。
日本で一般的な八相図とは微妙に出入りがあって面白い。
本会場入口近くに、八大霊塔 མཆོད་རྟེན་ཆ་བརྒྱད་ mchod rten cha brgyad画があるが、これは釈尊八相を象徴したものであるので、こちらとも関連づけた展示があってもよかったかも。
------------------------------------------
これまで仏画のクオリティについては触れなかったが、極めて高い技量を持った絵師・彫師によるものであることは言うまでもない。
尊容についてはもうガチガチに定まっており、16世紀以降の仏画はどれを見てもほとんど同じである。
なので、これをひと通り見て頭に入れておけば、チベット文化圏のどこへ行っても、ほとんど「どれが何か」わかるはず(ただし16世紀以前の古い寺では通用しないことも多い)。
------------------------------------------
人民解放軍や紅衛兵によって破壊の憂き目を見た、他のパルカン(印経院)と違い、デルゲ・パルカンでは古い版木を保持しているのはもとより、技術とシステムが維持されていることが重要。
これだけ高い技術を持った絵師・彫師が、今も活動していることに感謝したい。
まだツヅク
0 件のコメント:
コメントを投稿