2017年7月16日日曜日

富山・長野チベット巡礼 (2a) デルゲ印経院チベット木版仏画展@富山県南砺市立福光美術館-その2

これが福光美術館


福光美術館

街道からは山手に入って、丘の上にある。なんか冬は大変そう。

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掃除のおばちゃんと話してたら、

「冬は閉館するんですか?」
「冬もやってるよ。除雪は完璧だから大丈夫よ」
「でもお客は来ないでしょう」
「来~ない、来ない」

あはは。みなさん、せめて夏だけでもたくさん行ってください。

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さて、肝心の「デルゲ印経院チベット木版仏画展」ですが、平日朝イチということもあり、客の姿はまばら。

実は、この福光美術館の目玉は「棟方志功コレクション」。志功は、1945~52年にこの福光に居住していたのです。福光美術館では、当時の作品を中心に志功の作品を多数所蔵しています。

当日も、特別展よりも志功作品の常設展のほうが人気。バスで団体客が乗りつけるほど。「二菩薩釈迦十大弟子」は素晴らしかった。

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さて、特別展の方は、作品数が142点(注)と大量なので、展示会場への廊下からもう展示が始まっている。

(注)
所蔵作品総数は145点なのだが、3点は同一図像の重複。従って展示されているのは142点になる。その重複3点は利賀「瞑想の郷」に展示してあった。


デルゲ仏画展入り口

入り口廊下には小型の仏画が並んでいた。A3くらい(だいたい縦40cm×25cm)。

一方メイン会場の作品はほとんどがA2サイズくらい(だいたい縦60cm×横40cm)。

版画なので、もちろん一点ものではないが、お経と違ってこういう大型仏画が印刷される機会は多くない。

1999年に利賀「瞑想の郷」の調査団がデルゲ・パルカンを訪れた際に、当時印刷可能だった仏画をすべて2セット入手したのだという。

もう1セットは、東京都町田市立国際版画美術館に寄贈され、そちらでも2011年に展覧会が行われている。しかしわずか30点のみ。

・町田市立国際版画美術館 > 展覧会 > 過去の展覧会 > 2011年度 > チベット密教版画 その未知なる世界 会期 2011年9月28日(水)~12月23日(金・祝)(as of 2017/07/15)
http://hanga-museum.jp/exhibition/past/2011-17

瞑想の郷でも、これだけ大量かつ大判の仏画を、すべて展示できるスペースがなかったため、これまで全点展示されることがなかった。画期的な展覧会なのだ。

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1枚1枚見ていくとなかなか時間がかかる。15分位かけてようやくメイン会場にたどり着いた。


デルゲ仏画展メイン会場

出迎えてくれるのはドゥンコル འདུས་ཀྱི་འཁོར་ལོ་ 'dus kyi 'khor lo 時輪(カーラチャクラ कालचक्र Kalacakra)ヤプユム像。

ドゥンコル立体像はなかなか見る機会はないので、これも貴重な展示だ。ただし密教仏なので、本来一般信徒には拝観させない場合が多い尊格だけど。

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この展覧会では、会場の都合で反時計回りに展示が進む。ボン教コルラの向きになってしまった(笑)。まあいいでしょう。

最初はネテン・チュードゥク གནས་བརྟན་བཅུ་དྲུག gnas brtan bcu drug 十六羅漢がずらりと並ぶ。この辺は中国絵画の影響が強い絵で、日本仏教絵画での姿とよく似ている。

これを最初に展示したのは、親しみを持たせる目的として正解だろう。

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次に祖師画が並ぶ。銘がない作品が多く、主題が誰かわからないものも多い。ダクポ・カギュパ དྭགས་པོ་བཀའ་བརྒྱུད་པ་ dwags po bka' brgyud pa 祖師マルパ・チューキ・ロドゥ མར་པ་ཆོས་ཀྱི་བློ་གྲོས་ mar pa chos kyi blo gros、シチェーパ ཞི་བྱེད་པ་ zhi byed pa 祖師パダムパ・サンギェ ཕ་དམ་པ་སངས་རྒྱས་ pha dam pa sangs rgyas などは、特徴的な姿なのでわかりやすいかもしれない。

各コーナーの冒頭に簡単な紹介はあるものの、仏画にはそれぞれの解説はない。チベット仏教、特に宗派や祖師についての知識があまりない観覧客にどれだけ理解してもらえるか?は、なかなか難しいところだろう。

学芸員の方に訊いたところ、一度試しに解説を作ってもらったところ、一枚あたりの解説が膨大な量になってしまい、解説をつけるのは今回は諦めたそうな。

チベット仏教図像学の勉強には最適の展覧会なのだが、初心者にとっては、とっかかりが少ない。もう少し解説も充実させて貰えるとありがたいと思った。

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美術館売店には、本展覧会の監修者である田中公明先生の本がズラリと並んでいて(「瞑想の郷」売店から転用のよう)、さしずめ田中公明全集のようだった。今は絶版の貴重書もあって、チベット仏教美術を勉強してみよう、という人には最高のシチュエーション。

田中先生の著作の中で、チベット仏教美術の勉強に最適な本は、実はそこにはなかった。多分絶版なのだと思う。

それがこれ↓

・田中公明 (1990.7) 『詳解河口慧海コレクション チベット・ネパール仏教美術』. pls+298pp. 佼成出版社, 東京.



中身も少し紹介しておこう。


同書, pp.52-53

これは、「シトー百尊 ཞི་ཁྲོ་དམ་པ་རིགས་བརྒྱ zhi khro dam pa rigs brgya」のうち「寂静四十ニ尊 ཞི་བའི་ལྷ་ཞེ་གཉིས་ zhi ba'i lha zhe gnyis」について、典拠となる経典と図像を比較しながら解説している。すごくわかりやすい。

このように、一つの図像について解説するだけでも、数ページの分量が必要となることもあるのだ。仏教図像を簡単に解説することの難しさがわかる。

仏画だけではなく、宗教美術というものは全ての部分がそれぞれ意味を持っている。その意味を語ろうと思えば、いくらでも語れてしまう面があるのだ。

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まあでも、特に祖師画では、宗派の系譜や簡単な紹介などがあった方がよかったと思う。

評判がよければ、これは全国あちこちで巡回できるクオリティの展覧会だ。その時にはぜひ解説を充実させてほしい。

ツヅク

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