・宮崎駿 (1983) 『シュナの旅』. 徳間書店アニメージュ文庫, 東京.
という作品があります。元ネタはチベット民話「犬になった王子」(注)ですが、宮崎ファンタジーとして消化されており、チベット色はそれほど強くありません。
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そのp.4~5「旅立ち」の風景を見たとき、「あ、これラーホール(लाहौल Lāhaul/གར་ཞ་ gar zha)だ」と思ったものでした。よく似ているんですよ。
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残念ながら「ピッタリ!」という写真はないんですが、比較的いい線行ってるのはこれ。バーガー谷(भागा नाला Bhāgā Nālā)上流部の写真です。
『シュナの旅』の絵ほど極端に切り立ってはいませんが、現場では両岸壁の圧迫感は物凄く、ほんとあんな風に感じます。
ここよりも、下流部のほうが似ていますね。チャンドラー谷(चन्द्रा नाला Chandrā Nālā)、特にゴンドラー(गोंदला Gondlā/གནྡྷོ་ལ་ gandho la)あたりはもっと似ています。
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でも、宮崎氏が『シュナの旅』を描く際にラーホールをモデルにした、などと考えているわけではありません。偶然でしょう。
ただ、偶然にしてもずいぶんそっくりな風景だなあ、と思っただけ。たぶん今でも、宮崎氏はラーホールのことは知らないと思いますね。
実はシュナの住む谷は、「氷河がえぐった」という設定です。ラーホールの谷もかつては氷河で満たされ、氷河で侵食されたU字谷です。今は、そこからさらに侵食されて、川底付近はV字谷になっていますが。似ているのは当然なのですね。
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まるで隠れ里のような、このティノ(ཏི་ནོ་ ti no)あたりもなかなかいい感じです。
ジブリ・ファンなら好きな場所だと思います。ぜひ一度行ってみてください。
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(注)
その原作は、
・賈芝+孫剣冰・編、君島久子・訳、赤羽末吉・絵 (1964) 『白いりゅう黒いりゅう 中国のたのしいお話』. pp.156. 岩波書店, 東京. → 再発: (1993/2003) 岩波書店, 東京.
・君島久子・訳、後藤仁・絵 (2013) 『犬になった王子 チベットの民話』. pp.48. 岩波書店, 東京.
で触れてみてください。
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(追記)@2014/04/21
今思ったんだけど、『シュナの旅』は大判でも出した方がいいんではなかろうか。文庫サイズの絵ではもったいないよ。需要は十分あると思うけど。あと外国語版もあるといいのにね。
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(追記2)@2014/04/21
あと、これは予告みたいなものになるんですが、今、「犬になった王子」の分析、という作業をやっています。これは楽しい作業だなあ。遠からず出てきますよ。
私の作画絵本『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)をご紹介いただき誠に有難うございます。『ながいかみのむすめ チャンファメイ』(福音館書店こどものとも)、等とともに、後藤 仁 作品をよろしくお願い申し上げます。 日本画家・絵本画家 後藤 仁
返信削除後藤様、コメントありがとうございます。
返信削除絵本のあとがきや
後藤 仁(GOTO JIN)の制作・旅日誌 > 2014-04-06
絵本『犬になった王子 チベットの民話』の犬は何犬か?
http://gotojin.blog.fc2.com/blog-entry-55.html
を拝見し、後藤様がチベット/ギャロンまで行かれて綿密に取材をした上で、あの絵を描かれたことを知りました。
時間と手間をかけたものは、必ず人の心に届きますね。今後も『犬になった王子』の評価がますます高まることを願ってやみません。
チベットの民話には、この他にもおもしろいものがたくさんありますから、後藤様にはいずれまたチベットを描いていただきたいです。
またよろしくお願いします。