ギルギット~フンザ方面では、自称としてブルシャが使われていた、というはっきりした記録がありません。その名が現れるのは、ほとんどがチベット側の記録ばかりです。
しかしこのブルシャというチベット語はどうわけか、現在はフンザ~ナガルの人々の自称「Burusho」、言葉の名称「Burushaski」として生き残っています。
この自称は、「古くから使われてきたが、記録には残っていないだけ」なのか、「比較的近年にチベットあるいはバルティスタンから外来語として導入されたもの」なのか、それは謎です。
いずれにしても「ブルシャ」という単語はチベットと関係が深いのは間違いありませんから、それならば「ブルシャスキー」という単語の後半「スキー」もチベット語ではないか?と見当をつけても悪くはないでしょう。
------------------------------------------
実は 「ブルシャスキーって何語?」の巻(8)ニンマパ経典のブルシャ語タイトル の回にすでによく似たチベット語が出てきているのですが、気づいた方もいることでしょう。それは
>bru zha'i skad du(ブルシャ語では)
です。つまり、Burushaskiとはチベット語の「'bru zha'i skad(ブルシャの言葉=ブルシャ語)」が訛った形ではあるまいか、と考えているわけです。
「skad」はウー・ツァン方言では「ケー」ですが、プリク~バルティスタンでは「スカット」と読まれます。その中間、ラダックでは「ケー」、「スカット」の双方が聞かれるようです。
ラダック語、プリク語、バルティ語では、母音で終わる音節に続く場合、次の音節の添頭字「s-」が発音されることがあります。「bde skyid(デスキット)」、「bde skyong(デスキョン)」などがその例です。
よって「ブルシャスキー」は、おそらくラダック~バルティスタンあたりで「'bru zha'i skad」を「ブルシャイスケー/ブルシェースケー」と呼んだ発音が、そのままフンザで(かつてはもっと広く旧ボロル全域で?)使われるようになったのでは?と考えてみます。
どうでしょう?
これは、チベット語、チベットとカラコルムの関係を知る者であればすぐに思いつく案だと思うのですが、見渡したところこの説を唱えている人は見あたりません。不思議です。
もしすでに誰かが同じ説を唱えていたとすれば、教えてください。その場合は「私が初出」という主張は撤回します。
------------------------------------------
しかし、チベットからの他称であるはずの「ブルシャ」、「ブルシャスキー」が、特に全部チベット語だとすれば、なぜに現在はフンザ人やその言葉の自称として生き残っているのか、その経緯は謎です。
やはりまず、「ブルシャ」自体の語源が、土着の名称から来ているのか、地元とはあまり関係なくチベット人が他称として作り出したのか、明らかにしないことには、どうにも気持ち悪いですね。この問題には検討の余地がまだたっぷりあります。
------------------------------------------
でも、直感ですが、この説はすぐに常識として広まるんじゃないかという気がしています。なにせ結構わかりやすい。
ただ、問題はその広まり方。特にネット上では、出典を明記しないことで「他人の労力にタダ乗りして、利益は独り占めする」という剽窃技術が横行しています(ネット上に限らず、紙の世界も現場の世界も同じですが)。これもそうなる恐れは十分あります。当blogなど世間的には屁のような扱いですしね。でもそうならないことを信じましょう。
------------------------------------------
28回分も書いてようやくたどり着いた結論ですが、このblogでできる「ブルシャスキーの語源」についての検討はここまでです。
(29)~(36)はおまけですが、その他の話題に見えるチベットとブルシャ(ギルギット~フンザ)の関係を見ておきましょう。
0 件のコメント:
コメントを投稿