2015年5月20日水曜日

ネワール語辞書

Newar人はKathmandu盆地の原住民です。形質的にはモンゴロイド。中国の四川・雲南省からインド亜大陸のヒマラヤ南縁にかけて広く住むモンゴロイドたちの一員(注1)。私たち日本人とも似ています。

彼らが話す言語がネワール語(नेवारीNewari)=Nepal Bhasa(नेपाल भाषा)=Newah Bhay(नेवाः भाय्)です。

ネワール語はシナ・チベット語族チベット・ビルマ語派に属します。インド・アーリア語であるネパール語(Nepali)とは全く別の言語。

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ネワール語について、より詳しくは、

・石井溥 (1992) ネワール語. 亀井孝+河野六郎+千野栄一・編著 『言語学大辞典 第3巻 世界言語編 (下-1)』所収. pp.37-45. 三省堂, 東京.
・カマル・P・マッラ (2001) 古典ネワール語辞典の刊行に寄せて. トヨタ財団レポート, no.95[2001/05], pp.1-3.(注2)
https://www.toyotafound.or.jp/profile/foundation_publications/zaidanreport/data/tr_no95.pdf
・Wikipedia(English) > Newar language(This page was last modified on 22 April 2015, at 18:24)
http://en.wikipedia.org/wiki/Newar_language

あたりをご覧ください。

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ネワール語を表記する文字は、主にDevanagari文字が使われています。他にもRanjana文字など様々な文字が使われてきましたが、どれもDevanagari文字と同じくインド系の文字です。

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以前、

2009年8月9日 「ブルシャスキーって何語?」の巻(12) Pavel Pouchaによるブルシャ語タイトルの解釈

で、ブルシャ語、シャンシュン語を検討する中で、ネワール語をちょっと取り上げました。

私が持っているネワール語に関する資料は、そこで挙げた

・Tej R. Kansakar (1989) ESSENTIAL NEWARI PHRASEBOOK. 54pp. Himalayan Book Centre, Kathmandu.

だけです。簡単な語彙集はついていますが、かなり物足りない。会話の入門編としてはこれで充分なのですけどね。Devanagari文字表記もないし。

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・寺西芳輝 (2004) 『話せるネワール語会話(ネパールの民族語)』. 157pp. 国際語学社, 東京.

こちらは語彙集が充実しており(ページの半分が語彙集)、Devanagari文字表記もあります。

なかなか使いでがあるのですが、一方では文法の解説が少なく、応用しづらい、という難点があります。

しかしまあ日本語でネワール語についての本が出た、というのは画期的なことでした。

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ここら辺を使ってネワール語を調べようとしても、なかなか満足行く結果は得られません。どうしても、そこそこ詳しいネワール語辞書が必要です。

ネワール語辞書といえば、

・Hans Jørgensen (1936) A DICTIONARY OF THE CLASSICAL NEWĀRĪ. 178pp. Levin & Munksgaard, Kobenhavn(Copenhagen).
→ Reprinted : (1989) Asian Educational Services, New Delhi.
・西村勤 (1980) JAPANESE, NEPALI, DICTIONARY (FOR CONVERSATION) : 2000 WORDS (DUI HAJAAR BALI) : JAPANESE, - ENGLISH, - NEPALI, -NEWARI. 83pp. Tsutomu Nishimura, Japan?.
・Thakur Lal Manandhar, Anne Vergati (ed.) (1986) NEWARI - ENGLISH DICTIONARY : MODERN LANGUAGE OF KATHMANDU VALLEY. xlix+284pp. Agam Kala Prakashan, Delhi.
・Kamal P. Malla etal. (ed.) (2000) A DICTIONARY OF CLASSICAL NEWARI : COMPILED FROM MANUSCRIPT SOURCES. xxxviii+530pp. Nepal Bhasa Dictionary Committee, Kathmandu.
・Kamal Tuladhar (2003) ENGLISH – NEPAL BHASA DICTIONARY. 444pp. J.R.Tuladhar, Kathmandu.

あたりになるようですが、どれも外語大図書館にでも行かないとお目にかかれないようなものばかりで、敷居が高い。

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ネット上でそこそこ詳しい辞書は拾えないもんかなあ、と探していたところ、Android向けの電子辞書で、

・Google Play > np / Nepal Bhasa Dictionary ver 1.1(update 2013/03/23)
https://play.google.com/store/apps/details?id=np.com.np.nbd

というのがありました。英-ネワ辞書です。つまり英語→ネワール語。

Devanagari文字表記もあります。ただし私が使っているスマホとは相性が悪いようで、Devanagari文字は一部正しく表示されません。アルファベット転写もあるので、まあなんとか使えるのですが。

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しかしこの辞書、スマホのみでパソコンでは使えません。

スマホで検索しては、パソコンでネワール語をDevanagari文字やアルファベット転写で打って、という作業を繰り返していたのですが、かなり面倒です。

前述のようにDevanagari文字表記はちゃんと出ないし、アルファベット転写を見ながら補正しつつ入力する必要もあるし、大変です。

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なんとかパソコン上で使えないものかと探索していたところ、この電子辞書のデータベース版がPDFで存在することがわかりました。

・Sabin Bhuju / NewaWiki Dhuku : English - Nepal Bhasa Dictionary ver 1.0.01 (release date 2010-11-05) 332pp.
http://np.com.np/nbd

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語彙数は約6500。私程度の利用者であれば、かなり使いではあります。

英語  品詞  Devanagari文字  Newar語のアルファベット転写

の順に表記されています。Adobe Acrobatの検索機能を使えば、ネワ-英、英-ネワ、双方向の電子辞書として使えます。

ただし、Devanagari文字はUnicodeではないようで、私は今のところDevanagariでは検索できないでいます。今後の課題。

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しかし、これでだいぶネワール語の単語を調べるのは楽になりました。yosin、lyesing dha:の調査も、これで進展しました。

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で、yosin、lyesing dha:の意味に行くのですが、もう1回寄り道して、Devanagari文字表記の調べ方と入力方法についてレポートしておきます。

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(注1)

ヒマラヤ南縁のモンゴロイドで、チベット・ビルマ系言語話者を総称する用語としてKirata(किरात)という言葉があります。

なかなか便利な言葉なのですが、あまり普及してないですね。

「Kiranti(किराँती)諸語」という用語もありますが、これはネパール東部のRai(राई)語やLimbu語(लिम्बू)などをまとめたもので、前述のKirataよりもかなり狭い範囲を示します。語源は同じですが。

(注2)

余談ですが、同じ号に載っている

・星泉 (2001) 星家とチベット語 家族と学問. トヨタ財団レポート, no.95[2001/05], pp.6-8.
https://www.toyotafound.or.jp/profile/foundation_publications/zaidanreport/data/tr_no95.pdf

も大変面白い読み物です。いつか「星泉全集」が出版される際には、是非収録していただきたい。

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