2015年5月4日月曜日

柱建て祭りとKumari(2) 『処女神 少女が神になるとき』の中身

では、柱建て祭りとKumariの話を再開します。

Kumariにまつわる伝説・儀式はかなり複雑で、解明するのは一筋縄では行きません。調べれば調べるほど、どんどん話が深く広くなっていくので、ゴールがなかなか見えてこないのです。

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・植島啓司 (2014) 『処女神 少女が神になるとき』. 集英社, 東京.

植島先生のこの本でも、明確な結論にはまだ達していない、と感じます。そのため、本書中での解明への筋道も今ひとつわかりにくい。

それで、植島先生は、調査過程を時系列順に並べ、読者が調査を追体験できるようにしています。感情移入しやすくなっており、読み物としてたいへん有効。この辺の持って行き方は、一般書も多数書かれている植島先生ならではの技術の高さですね。

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植島先生は、まず、Kathmanduの柱建て祭り・雨乞い祭りであるIndra Jatraと、これに付随しているように見えるKumari Jatraを分離する作業からとりかかります。

Indra Jatra自体は本来Kumariとはあまり関係なく、後にKumari Jatraと合体したのではないか、という疑問は以前から提示されていたことです。ここでも、その方向性でIndra Jatraの解明を進めます。

それはうまくいったようなのですが、すると、じゃあなんでIndraとKumariがくっついているのか、かえって謎が深まったような感もあります。

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次に植島先生は、Kumari信仰の原点を求めて、Kathmnanduの南Patan~Bungamatiに焦点を合わせます。

PatanにもBungamatiにも、いわゆるLocal Kumariがいます。

こちらでは雨乞い・豊穣の神Rato Matsyendranath(赤マチェンドラ)と結びつき、Matsyendran Jatraという祭りの要所要所でKumariが重要な役割を果たします。

Matsyendranathはヒンドゥ教での神格で、ネワール仏教ではKarunamaya(大悲観音)とされます。

Matsyendra Jatraもやはり柱建てを中心とした雨乞いの祭りで、Indra Jatraとよく似ています。植島先生は、柱建て祭りとKumariの関係は、Patan~BungamatiのMatsyendra Jatraに原型があるとみて調査を進めます。

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そこでの結論は、Karunamaya/Matsendranathをインドから招来する際の妃としてKumariが引っぱりだされたのではないか、というものです。あるいは、Kumari自体もKarunamayaと共にKathmandu盆地にもたらされたのではないか?という推測も提示されています。

調査をしているうちに、Indra Jatraの解明やMatsyendra Jatraの解明にテーマが移ってしまい、Kumariについては、今ひとつすっきりしない結論、という印象です。

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それも仕方ないのです。

Kathmandu盆地でのKumari信仰の始まりは11世紀以前であることは確実ですが、その古い時代には、充分な史料が残っていません。いきおい研究の方向性は、Indra JatraやMatsendra JatraとKumariの関係性の解明に向かってしまうのです。

その意味では、植島先生の研究には充分な成果があった、と言えるでしょう。

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しかし、未解明の問題も残っています。

ヒンドゥ教世界に属するKumari信仰で、なぜ仏教徒からKumariが選ばれるのか?また、その出身はなぜShakya氏族でなくてはならないのか?など、わからないことだらけです。

Indra JatraとKumari Jatraの結びつきも、王権儀礼として結びついた、という解釈ですが、Matsyendra JatraとKumariの結びつきとは別なのでしょうか?

この辺も、私には今ひとつすっきりしませんでした。

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これから私の見解を述べてみるわけですが、そちらでもIndra JatraやMatsyendra Jatraの解明が中心になります。

Kumariはなかなか登場しませんが、Kumariが登場する頃には、けっこうおもしろい展開になっていますからお楽しみに。

最重要キーワードは「Naga」です。

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