先日、イムに行ってきました。え?イムって何かって?あの話題のイムですよ、イム。
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すごい人出!と思ったら、大半は鳥獣戯画のお客さん。イムの方はほどほどの入りで、まあまあじっくり見ることができました。
いつものように2ラウンド回って来ました。今回は解説して回る流れにはならなかったな。
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今回の展覧会の特徴としては、パーラ朝(8~12世紀)のものが多かったこと。なので、非常にわかりやすかった。
なぜわかりやすいかというと、パーラ朝時代になると、諸尊格の図像フォーマットがほぼ定まってしまい、チベット仏教での姿とほとんど違いがなくなるからです。チベットで見慣れたお姿ばかり。
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仏像展示では、日本では馴染みのない尊格がドッと出てくる後半の展示(図録で言うと、6密教の世界)が一番面白かった。あ、俺だけか。
摩利支天(मरीची Marici འོད་ཟེར་ཅན་མ་ 'od zer can ma)、仏頂尊勝母(उष्णीषविजया Ushnishavijaya རྣམ་རྒྱལ་མ་ rnam rgyal ma)あたりは、全体のバランスも細部の意匠も完璧で感動。「よくわからない」という顔で通り過ぎる方が多かったようですが。
小さいブロンズ像でしたが、般若波羅蜜多仏母(प्रज्ञापारमिता Prajinaparamita ཡུམ་ཆེན་མོ་ yum chen mo)も素晴らしかった。
金剛法菩薩(वज्रधर्म Vajradharma རྡོ་རྗེ་ཆོས་ rdo rje chos)、金剛薩埵(वज्रसत्त्व Vajrasattva རྡོ་རྗེ་སེམས་དཔའ་ rdo rje sems dpa')、上楽王仏(संवर Samvara བདེ་མཆོག bde mchog)の他にも、もっと密教仏が見たかったが、それだと一般の方々はついて行けなくなるでしょうから、まあ仕方ない。
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一番の衝撃は経典の挿絵ミニアチュールでした。三種の挿絵入り経典が展示されていましたが、どれも凄かった。
現物の絵はごくごく小さいものなのですが、それを拡大して展示してくれてるのが、大変ありがたかった。チベットで壁画を見ている感覚。楽しい。
皆チベットにも伝わっている絵画スタイルですので、一見してチベットのものか?と見紛うくらい。自分にはしっくり馴染むパートでした。
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(1)『八千頌般若波羅蜜多経(अष्टसहस्रिक प्रज्ञापारमिता सूत्र Ashtasahasrika Prajnaparamita Sutra ཤེས་རབ་ཀྱི་ཕ་རོལ་ཏུ་ཕྱིན་བརྒྱད་སྟོང་པའི་མདོ། shes rab kyi pha rol tu phyin brgyad stong pa'i mdo/)』
パーラ朝11世紀。
11世紀といえば、チベットではグゲ王国の全盛期。当時の壁画はラダック・アルチ・チョスコル・ドゥカン/スムツェクに代表されるように、背景が青の時代です。
ところが同時代には、パーラ朝では次のスタイルが始まっていたんですね。このスタイルは、ネパール経由でチベットに伝わり、13~15世紀に大流行します。背景が赤の時代です。
今回の挿絵は、特にラダックのピャン・グル・ラカンのものとそっくりです。同じ絵師が描いたんじゃないかと思うくらい。
展示や図録では、ほとんどの尊格が「男尊」、「女尊」としか記されていませんが、これは漢名がなく長ったらしいインド名しかないから省略したのか、本当にわからなかったのか、定かでない。
そのうち比定してみようか。色が重要なようなので、Lokesh Chandra本だけじゃ心もとないから、久々にMartin Brauen本を引っ張り出してみようかな。
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(2)『五護陀羅尼経(पञ्चरक्षा Pancaraksha གཅན་རིམ་པ། gcan rim pa/)』
東インド14世紀。
このころは、もうインドでは仏教は滅びていた、という認識ですが、一体東インドのどの辺で作られたものなんでしょうか?ちょっと謎。もしかするとネパールあたりじゃないかという気がする。
先ほどの11世紀の絵からは、またスタイルが変わってきています。トリン/ツァパランなどで見られる新グゲ様式と似た感じです。みんな細身。チベットでは、主にグゲやラダックで15~17世紀に大流行します。
この五女尊はあまり馴染みがないが、チベットのどっかでまとまって見たような気もする。どこだっけなあ。
いい機会なので、それぞれのチベット名も記しておきましょう。
1-大随求明妃(महाप्रतिसर Mahapratisara སོ་སོར་འབྲང་མ་ so sor 'brang ma)
2-大千摧砕明妃(महासहश्राप्रमर्दिनी Mahasahashrapramardini སྟོང་ཆེན་མོ་རབ་ཏུ་འཇོམས་མ་ stong chen mo rab tu 'joms ma)
3-大孔雀明妃(महामयूरी Mahmayuri རྨ་་བྱ་ཆེན་མོ་ rma bya chen mo)
4-大寒林明妃(महाशीतवती Mahashitavati བསིལ་བའི་ཚལ་ཆེན་མོ་ bsil ba'i tshal chen mo)
5-密呪随持明妃(महारक्षा Maharaksha གསང་སྔགས་ཆེན་མོ་ gsang sngags chen mo)
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(3)『仏説大乗荘厳宝王経(करण्डव्यूह सूत्र Karandavyuha Sutra འཕགས་པ་ཟ་མ་ཏོག་བཀོད་པ་ཞེས་བྱ་བ་ཐེག་པ་ཆེན་པོའི་མདོ། 'phags pa za ma tog bkod pa zhes bya ba theg pa chen po'i mdo/)』
東インド14世紀頃。
これも東インドのどこなのか謎。
これまたおもしろい絵です。雲や山などの風景が入ってきて、チベット絵画の新派に近いスタイル。
こういったスタイルは、中国絵画からの影響でカムで始まった、と思い込んでいたのですが、14世紀頃のインドにすでにあったのですね。少し考え直さないといけないかもしれません。
David Jackson本も持っていますが、全然読んでないから、ちゃんと読まなきゃなあ。
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特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」
東京国立博物館 表慶館
JR「上野」駅公園口・「鶯谷」駅南口より徒歩10分
2015年3月17日(火) ~ 2015年5月17日(日)
http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1701
は、5月17日(日)までやっていますから、仏教美術に興味のある方は是非行ってみてください。
参考:
・頼富本宏+下泉全暁(1994)『密教仏像図典 インドと日本のほとけたち』. pls+308pp. 人文書院, 京都.
・東京国立博物館+日本経済新聞社+BSジャパン・編 (2015) 『特別展 コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流』. 208pp. 日本経済新聞社, 東京.
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余談ですが、頼富本宏先生は3月30日に亡くなられました。お会いしたことはありませんが、いろんな本を通じて、たくさん教えていただきました。ありがとうございました。ご冥福をお祈りいたします。
先週、行ってきました。
返信削除ぼくのお気に入りは、カサルパナですね。
経典の挿絵ミニアチュールでは、
挿絵と文字の向きが逆の物がありましたね。
学芸員によれば、「研究途中です」との前置きの後、経を重ねた時に女尊の絵と男尊の絵とが正対して重なるようになっている、と。
それから、後から気付いたのですが、あの挿絵は、経文の上から描かれているように見えたんですが、どうなんでしょう。