分家blogの
音盤テルトン > 2017年9月4日月曜日 追悼 Walter Becker
で紹介した、Steely Danの片割れで、先日惜しくも亡くなったWalter Beckerのソロ作
Walter Becker/11 TRACKS OF WHACK [Giant] pub.1994
Art Direction : Mick Haggerty
のお話です。
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このアルバムの3曲めに、Surf and/or Die という曲があります。
歌詞はきわめて難解で、はっきり言って、何言ってるかさっぱりわかりません。少なくとも「サーフィンできなきゃ死ぬ方がマシ!サーフィンできたら死んでもいい!」という歌ではない(笑)。
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で、この曲冒頭に何やらボワーンとDidjeriduみたいな低音が入っているが、すぐに消えて曲が始まる。だが、よく聴くと、この低音は曲の間中、控えめながらずっと鳴り続けているのだ。
間奏になると、これがチベット仏教の読経であることが、はっきりわかるようになる。
曲の後半は、この読経をバックに(おそらく)Dean Parksのギター・ソロが延々続くという妙な展開。エンディングは、かすかにマラカスは聞こえるものの、読経が主役に躍り出る。
歌詞の内容に、チベット仏教の思想らしきものは感じられないので、読経は効果音として用いられている、と思ってよさそう。
しかし、まっとうなRockにチベット仏教の読経という唐突感は、まあなんでしょうね。変な気持ちになります。
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クレジットを見ると、
Extra Special Thanks : ・・・(略)・・・ Chants and prayers of Tibetan lamas made possible by the blessing of Nechung Rimpoche. Hawaii lamas - Lama Tenzin, Lama Lobsang, Lama Pedor, Lama Jikmey. FREE TIBET.
とある。
というわけで、次はこのNechung Rinpocheを調べてみました。
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何のことはない。すぐに見つかった。
・THE NECHUNG FOUNDATION གནས་ཆུང་རྡོ་རྗེ་སྒྲ་དབྱངས་གླིང་། gnas chung rdo rje sgra dbyangs gling/ (since 2015) > About Us > Rinpoche / Nechung Rinpoche and his lineage
http://nechungfoundation.org/rinpoche.html
探してみたら、例のHimachalガイドブック草稿の段階で、すでに調べてあった。全く忘れていたよ。これを少し手直しして、ここに紹介しておこう。
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ネーチュン・リンポチェ གནས་ཆུངརིན་པོ་ཆེ། gnas chung rin po che/
ネーチュン・ゴンパ座主。ネーチュン・ゴンパは、ラサ郊外デプン・ゴンパ横にあるニンマパのゴンパ。
トランス状態となり、サムイェ寺護法神ペハル པེ་ཧར་ pe harの使いであるドルジェ・ダクデン རྡོ་རྗེ་སྒྲགས་ལདན་ rdo rje sgrags ldan=ネーチュン གནས་ཆུང་ gnas chungを憑依させ、ペハルの神託を伝える神降ろしネーチュン・クテン གནས་ཆུང་སྐུ་རྟེན་ gnas chung sku rtenの在所として有名。なお、ネーチュン・リンポチェとネーチュン・クテンは別人。
1960年前後に、ネーチュン・リンポチェもネーチュン・クテンも亡命し、ネーチュン・ゴンパは文化大革命中に破壊された。現在は再建されているが、リンポチェもクテンもいない状態で、活動は低調。
ネーチュン・ゴンパはDharamshalaのGanchen Kyishongでは、1984年に再建されている。
19世紀末、ニンマパ南流総本山のミンドルリン・ゴンパから、ウギェン・ティンレー・チューペル ཨོ་རྒྱན་འཕྲིན་ལས་ཆོས་དཔལ་ o rgyan 'phrin las chos dpalがネーチュン・ゴンパに移った。師は、8世紀グル・リンポチェの25人の弟子の一人ランド・コンチョク・チュンネー ལང་གྲོ་དཀོན་མཆོག་འབྱུང་གནས་ lang gro dkon mchog 'byung gnasの転生者と認定され、ネーチュン・ゴンパ座主となった。
その転生者の系譜が、ネーチュン・リンポチェと呼ばれ、代々ネーチュン・ゴンパ座主となっている。
2世トゥプテン・コンチョク ཐུབ་བསྟན་དཀོན་མཆོག thub bstan dkon mchog(1918-82)は、古典や占星術の大家として知られ、1950年代には北京で教鞭を執るなどもしたが、数カ月間投獄された事を機に、釈放後の1962年インド亡命。
2世は、ネーチュン・ゴンパから亡命したクテンや僧らと共に細々と活動を続けていた。1974年にはHawaiiに布教し、Nechung Dorjee Drayang Ling Buddhist Centreを設立した。しかし、新ネーチュン・ゴンパ完成を待たずに1982年に遷化した。
その転生者はなかなか見つからなかったが、1995年にようやくネーチュン・リンポチェ3世が認定され、インドとHawaiiで活動中。
3世は1985年ラサ生まれ。1993年インド亡命。1995年に3世として認定された。まだ若手のリンポチェである。
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Walter Beckerは、Steely Dan/GAUCHO [abc] pub.1980 完成後にHawaiiに移住。亡くなるまでずっとHawaiiを拠点にしていた。
Beckerがチベット仏教信者になっていたとは思わないが、何度かHawaiiのThe Nechung Foundationを訪れ、Nechung Rinpocheと関係が生じたのではないかと思われる。「FREE TIBET!」の文言も見えることから、少なくともチベットにシンパシーを持っているのは間違いない。
これ以上は調べても出てこないので、これまで。
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なお、The Nechung FoundationがあるのはHawaii島。
Hawaii諸島には、この他
・Kagyu Thegchen Ling(as of 2017/09/09)
http://www.ktlhonolulu.org/index.htm
O'ahu島。カルマ・カギュパ。カルー・リンポチェ(現在は3世)のゴンパ。
・Maui Darma Center(as of 2017/09/09)
http://mauidharmacenter.com/
Maui島。カルマ・カギュパ。こちらもカルー・リンポチェのゴンパ。
がある。意外でしょ。
Hawaiiに行かれる方は、こちらも行き先に含めてみてください。なお、私はHawaiiに行ったことはありません。
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またWalter Beckerに戻るが、Steely Danには、Bodhisattva という曲もある。これは2枚目のアルバム COUNTDOWN TO ECSTASY [abc] pub.1973 収録の1曲めだ。
ギター・ソロがフィーチャーされたバリバリのRockで、曲名がBodhisattvaというミスマッチ感がこれまたおもしろい。
歌詞は短く、西欧人が東洋の仏教にいだくあこがれを描くもの。というか、Donald Fagenがそんな素直な詞を書くはずもなく、なんかそういう西欧人を小馬鹿にしたような歌詞だ。
まあでも、この曲は上で述べたようにギター・サウンドを聞く曲になっているので、あんまり曲名に引きずられる必要はないだろう。
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なんだか、よくわからない話になっていますが、調べれば調べるほど、こういう色々な分野が渾然一体となって現れてくる瞬間が、調べものの醍醐味。
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