2015年4月26日日曜日

Kathmandu盆地の地質と断層

Kathmandu盆地はかつて湖でした。その時代は二期に分かれ、約5百万年前~約30万年前の古期Kathmandu湖(地層はLukundol層)、約3万年前から約1万年前の新期Kathmandu湖(地層はGokarna層、Thimi層、Patan層など)。いずれも歴史時代以前の話。

今ではその湖は堆積物で埋められ、盆地となっています。これらの地層はその上には何も乗っかっていませんから、圧密を受けておらずガサガサのまま、いわゆる軟弱地盤です。

それらの堆積物の厚さは最大約700m。思ったよりも厚いですね。














吉田&ウプレティ(2006)図9

参考:

・Chandra K. Sharma (1990) GEOLOGY OF NEPAL HIMALAYA AND ADJACENT COUNTRIES. vii+479pp.+pls. Sangeeta Sharma, Kathmandu.
・木崎甲子郎 (1994) 『ヒマラヤはどこから来たのか 貝と岩が語る造山運動』(中公新書1190). ix+173pp. 中央公論社, 東京.
・K.S. Valdiya (1998) DYNAMIC HIMALAYA. xv+178pp. Universities Press (India), Hyderabad.
・吉田勝 & B.N.ウプレティ (2006) 中部ヒマラヤ巨大地震とカトマ ンズの危機. 地学教育と科学運動, no.53[2006/12], pp.41-51.
http://ci.nii.ac.jp/els/110007160227.pdf?id=ART0009112755&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1430002214&cp=

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新期Kathmandu湖の変遷をヴィジュアル的に見せてくれるエッセイがこちら。Kathmandu盆地が湖であったことが実感できますよ。

・NEPALI Times > BLOGS : KUNDA DIXIT > eastwest with Kunda Dixit > older entries > The lake that was once Kathmandu, Monday, November 12th, 2012
http://nepalitimes.com/blogs/kundadixit/2012/11/12/the-lake-that-was-once-kathmandu/

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さらにその地下はどうなっているのかというと、インド亜大陸がチベット高原の下に潜り込もうと、南から北に向かってギューギューに押しているわけです。

横から押されると、地層は長い時間をかけてグンニャリと曲がってしまいます。これを褶曲(fold)といいます。

変形が褶曲ではまかないきれなくなると、地層はブツッと切れてしまいます。これが断層(fault)です

その結果、チベット高原側の上盤がインド亜大陸側の下盤に乗り上げ、数多くの逆断層(reverse fault)が生じています。逆断層のうち低角のものを、特に衝上断層(thrust)といいます。

ヒマラヤ山脈は、褶曲とこの衝上断層で地層が折り重なることによって、地層が横方向に圧縮されて高くなったものです。

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このヒマラヤの衝上断層は北側のものが一番古く、そちら側での地層の圧縮が限界に達すると、南側に新たな衝上断層が出来ます(ジャンプする、といいます)。ヒマラヤの歴史はこの繰り返しです。

ヒマラヤの主な衝上断層は、北から順に(すなわち出来た年代が古い順に)

ITS(Indus-Tsangpo Suture、インダス-ツァンポ縫合帯)
MCT(Main Central Thrust、主中央衝上断層)
MBT(Main Boundary Thrust、主境界衝上断層)
MFT(Main Frontal Thrust、主前縁衝上断層)あるいはHFT(Himalayan Frontal Thrust、ヒマラヤ前縁衝上断層)

と並びます。いずれも東西2000km近く連続する大断層帯です。

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吉田&ウプレティ(2006)図3

今回の地震の震源地Lamjungのあたりの地表は、ちょうどMCTが通ってる場所です。しかし震源は15km程ですから、この地表に出ている断層が動いたわけではありません。

MCTが地表に出ている地点から10~20km地下に進むと、MCTよりも前面(つまり南側)に位置するMFTの地下延長部に当たります。おそらく今回の地震は、このMFTが動いたものでしょう。

ヒマラヤの衝上断層の中では、前面(つまり南側)の活動が活発です。そのおかげでMFTとMCTの間にあるSiwalik山地は現在最も激しく隆起を続けています。

局地的な断層で起きた地震(阪神淡路大震災と似た地震)ではなく、プレート境界面断層で起きた地震(東日本大震災と似た地震)ですから、そのエネルギー(つまりマグニチュード)はかなり大きくなります。

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前掲の吉田&ウプレティ(2006)では、当時すでにKathmandu西方の地震空白域を危険視しており、ネパールの地震への備えを訴えていました。そのおかげもあって、近年ようやくネパールの地震の備えも始まりかけていた、その矢先の地震でした。

今回の地震に関する考察については、この論文が非常に参考になります。報道関係の方もぜひこちらに目を通していただきたいと思います。ウェブ上PDFで公開もされていますので、一般の方々もぜひ。

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最後に、ネパールでの犠牲者数がどんどん増えています。あらためて犠牲となった方々のご冥福をお祈りするとともに、いまだ救出を待っておられる方々の無事を願っております。

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