せっかくブロクパ(འབྲོག་པ་ 'brog pa)の話題になったので、ブロクパの言葉ブロク・スカット(འབྲོག་སྐད་ 'brog skad)について、少し触れてみましょう。
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ごちゃごちゃ前置きはやめて、まず会話例を見てもらいましょうか。
(T)-旅行者
(B)-ブロクパ
で示します。
(T)こんにちは。
Jule.
(B)こんにちは。
Jule.
(T)ここがダー村ですか?
Ane dah la ?
(B)はい、そうです。
Ya.
(T)ここには宿はありますか?
Aner hotel hang-a ?
(B)はい、2・3軒ありますよ。
Ya, du-tra hoteli hang.
私があなたをホテルへ案内してあげましょう。
Mai ti-ra hotel-di pun-pushyungs.
私と一緒にこっちへ来てください。
Mo-cisum perer ye.
(T)ありがとう。
Jule.
(B)これがホテルです。いい宿ですよ、安いし。
Homo hotel la. Noro unga sasta la.
(T)あなたはこれについてよく知っていますね。
Ti homo phyaci bede jitiyale.
(B)ホテルの主人は私の友だちなのです。
Hotel-u sadir myo yato hang.
その後、宿でご飯を食べたり、村人と話をしたり、ゴンパを参拝したりと続くのですが、今回はこれまで。
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単語はさておき、全体の雰囲気はチベット語よりもヒンディ語の方に近いですね。それも当然です。'brog skadはインド・ヨーロッパ語族ダルド語群シナー語の方言なのですから。ヒンディ語とはやや遠い親戚に当たります。
「私の」が「myo」だったりして、英語の「my」と似ています。印欧語族であることがしっかり実感できます。
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ここで、「'brog skad」の日本語訳がまだないので決めておきましょう。
「ブロク語」にします。
「ブロクパ語」でもいいんですが、「'brog pa'i skad」ではなく「'brog skad」であることを尊重して、「ブロク語」とします。
できれば彼らの自称を使いたいところですが、彼らの自称は「Sh(r)in」なので、これを利用すると「シナー語」になってしまい、ギルギットの「シナー語」と区別がつかなくなってしまいます。
「'brog skad」はシナー語の方言ですから、「シナー語ブロク方言」と言い換えることも可能です。しかし、「'brog skad」を単独で扱う場合が多いでしょうし、またギルギットのシナー語とはかなり差異が生じていることも考慮すると、「ブロク語」という独自の名称を与える意味合いは十分あるはずです。
なおこれは、「ブロク語」が言語学的に「シナー語」とは別言語として扱われるべき、と主張するものではありません。「ブロクパの言葉」程度の意味と受け取ってください。「チベット語」と「ラダック語」の関係と同じ扱いです。
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ブロク語勉強の元ネタは、お馴染みの
・Devidatta Sharma (1998) TRIBAL LANGUAGES OF LADAKH (PART 1). pp.xv+184. Mittal Publications, New Delhi.
Part 2のラダック語同様、なかなか難儀な本なのですが、ブロク語の文法書というのは世界中でこれしかないので仕方ありません。
ある程度、Sharmaの本の癖をつかんでしまえば使いではかなりあります。これで勉強して、現地で確認・補足すれば、ブロク語は一通り使えるようにはなろうか、という充実の内容ですよ。買って損はない本です。
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上に挙げた会話例だけではなく、一般に使えるような会話帳も完成しているのですが、実際に使えるかどうか、発音は正しいのか、など現地で確認する必要があります。
しかし、例によって行く機会も金もないので、発表できるのはいつになるかわかりません。まあ、需要があるわけないですし、「ないと困る」という人も誰もいないでしょうから、気長に。
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(追記)@2014/05/04
上の会話例は、Sharma(1998)で勉強した結果をもとに、私が創作したもの。そのまま転載したものではありません。
Sharma(1998)には、ブロク語の例文が多数掲載されているのは当然ですが、いずれも文法を説明するためのものでほとんどが短文です。ですから、その本をちょっと読んだくらいでは、すぐにブロク語が使えるようになるわけではありません。ある程度気合入れて、読んだり勉強したりしてください。
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