2009年9月12日土曜日

「ブルシャスキーって何語?」の巻(20) 「ブルシャ」をチベット語とブルシャスキー語で解釈してみる

伝説とは別に、まっとうにチベット語で解釈できるか見てみましょう。

前半は、「'bru/bru/'brum」は「穀物」「果実」の意味、「bru ba/'bru ba」ですと「掘る」になります。

後半は、「zha」なら「表面」「麻痺」「湿気」など、「zhwa」なら「冠」「帽子」、「zha ba」で「足の不自由な」、「sha」なら「肉」、「sha ba」なら「鹿」の意味があります。また「zha nye(zha ne)」の語頭であるならば「鉛」などが考えられます。

しかし、二つを組み合わせてもこれといった意味を持ちません。また、そのどれについても特にギルギット~フンザと結びつく伝説はなさそうです。おそらくこれは本来チベット語ではないでしょう。

先のブル氏起源説話に見えるように、「brul ba(下った/降臨した、非完了形は'brul ba)」と「gsha'(貴い)」をそれぞれ部分的に取って組み合わせた、などとしたら、候補となる単語は数限りなく、さらにその組み合わせとなると無限に近い数に達します。

そのどれかを組み合わせれば、いかにもそれらしいお話をこじつけることはできそうですが、あまり真相に近づけるような気もしません。

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今度はブルシャスキー語で見てみましょう。手元にあるブルシャスキー語の語彙集では、語彙数はあまり多くないのですが、できる範囲で頑張ってみましょう。

「bring(鳥)」、「biro(男、オス)」、「birdi(地面)」、「birgah(戦い)」、「brin(<鳥の>群れ)」、「birango(<音が>長い)」、「birunsh(桑)」、「bron(米)」、「boori(銀)」、「boor(西、日没)」、「burro(徴税人)」

「ishah(<時間の>月)」、「sah(太陽)」、「sheh(羊毛)」

出典は、

・John Biddulph (1880) TRIBES OF THE HINDOO KOOSH. pp.vi+164+clxix. Calcutta. → Reprint : (2001) Bhavana Books & Prints, New Delhi.
・萬宮健策 (1990) ブルーシャスキー語語彙調査についての報告. (東京外国語大学)言語・文化研究, no.8[1990/03], pp.23-30.
・Homayun Sidky (1995) HUNZA : AN ETHNOGRAPHIC OUTLINE. pp.209. Illustrated Book Publishers, Jaipur.

この中では「boor sah」=「西に沈む太陽」の組み合わせが意味ありげに見えます。

チベット語の「'bru zha/bru sha」では前半は「'bru/bru」と単音節になっていますが、ブルシャスキー語の「Burusho/Burushaski」では「bu ru」と二音節になっているあたりも、上の説に都合のいい状況です(注-2009/09/15追記)。

「(チベット側あるいはバルティスタン側から見て)日が沈む(西の国)=boor sah」が「bru sha/'bru zha」と訛った、とこじつけることもできそうですが、ブルシャスキー語語彙のごくごく一部をチェックしただけですから、「これが有望な説」などと吹聴する気はありません。もしそうだとしても、文献・伝説上での裏付けも必要でしょう。ここでは一つの思いつきとして、将来何かのヒントになれば幸いです。

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(注)@2009/09/15追記
外国語をチベット語に音写した場合、母音の位置が一部入れ替わる現象は他にも例がある。

有名なのは、Türk(テュルク/突厥)をチベット語で音写した単語「dru gu/gru gu」。

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