2017年3月4日土曜日

2014年のケサル・シンポジウムのProceedings

を入手しました。

・東方学会・編 (2016.10) 『シンポジウム 「ケサル/ゲセル王伝の伝承と現在」(第59回国際東方学者会議 2014年5月24日)』. 100pp. 東方学会, 東京.(限定頒布)



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2014年5月24日のシンポジウムのProceedingsです。中心になったのは中国文学者の戸倉英美先生。

中身を紹介しておくと、

1. 戸倉英美 (2016.10) シンポジウム 「ケサル/ゲセル王伝の伝承と現在」趣旨説明. 『シンポジウム 「ケサル/ゲセル王伝の伝承と現在」』所収. p.3. 東方学会, 東京.

2. 大谷寿一 (2016.10) ケサル大王 生きている英雄叙事詩. 『シンポジウム 「ケサル/ゲセル王伝の伝承と現在」』所収. pp.7-9. 東方学会, 東京.

3. 李連栄 (2016.10) 西藏《格薩爾》史詩之安多類型的特点. 『シンポジウム 「ケサル/ゲセル王伝の伝承と現在」』所収. pp.11-36. 東方学会, 東京.

4. 藤井真湖 (2016.10) 「モンゴル・ゲセル」とモンゴル英雄叙事詩の伝承スタイルの相違 馬の隠喩・パフォーマンス形態等の検討を通して. 『シンポジウム 「ケサル/ゲセル王伝の伝承と現在」』所収. pp.37-49. 東方学会, 東京.

5. 岡田千歳 (2016.10) パキスタン北部バルティスタン地方の『ケサル物語』伝承の現状と課題. 『シンポジウム 「ケサル/ゲセル王伝の伝承と現在」』所収. pp.51-65. 東方学会, 東京.

6. 岡田充博 (2016.10) 人を驢馬に変える妖術の話とその伝播 『シッディ・クール』『ゲセル・ハーン物語』所収話をめぐって. 『シンポジウム 「ケサル/ゲセル王伝の伝承と現在」』所収. pp.67-82. 東方学会, 東京.

7. 若松寛 (2016.10)  『ゲセル』とギリシア神話. 『シンポジウム 「ケサル/ゲセル王伝の伝承と現在」』所収. pp.83-85. 東方学会, 東京.

8. 宮本神酒男 (2016.10) ケサル王変遷史 曖昧な古代の起源から、ニューエイジ世代の救世主や漫画のヒーローとなるまで. 『シンポジウム 「ケサル/ゲセル王伝の伝承と現在」』所収. pp.87-94. 東方学会, 東京.

9. 戸倉英美 (2016.10) シンポジウム 「ケサル/ゲセル王伝の伝承と現在」報告. 『シンポジウム 「ケサル/ゲセル王伝の伝承と現在」』所収. pp.95-96. 東方学会, 東京.

10. Hidemi TOKURA (2016.10) The Transmission and Present State of the Epic of King Gesar. 『シンポジウム 「ケサル/ゲセル王伝の伝承と現在」』所収. pp.97-100. 東方学会, 東京.

あとでコピペして使いやすいように、収録書名も入れたままにしました。まとめて見るとちょっと鬱陶しいですが。

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李先生の論文3は、

・李連栄(ゾンジェジャムツォ) (2007.6) 中国における叙事詩「ケサル王伝」採集と研究の理論と実践. 日本西藏学会会報, no.53, pp.59-71.
http://ci.nii.ac.jp/els/110009841245.pdf?id=ART0010354422&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1488592493&cp=

を発展させたもの。いわゆる研究史だけではなく、中身の考察も加えられ、充実した内容になっています。

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岡田先生の論文5も、

・岡田千歳 (2001~03) 叙事詩「ケサル物語」の挿入歌について パキスタン北部バルティスタンの調査報告(1)~(3). 桃山学院大学教育研究所研究紀要, no.10~12.

を敷衍したもの。上記論文は、「ケサル王物語」の挿入歌に焦点を当てたものだが、今回はエピソード一覧などもあり、Baltistanの「ケサル王物語」の構造がより把握しやすくなっています。

ざっと見たところ、Baltistanでしか見られないようなエピソードが多数あり、「ケサル王物語」はBaltistanで独自の進化をとげているようですね。すごくおもしろい。

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6、7は、「ケサル王物語」の特定のエピソードを取り上げて、いろいろな物語類型と比較した論考。

「ケサル王物語」の謎の解明には、こういうアプローチが重要だと思っています。

というのも、「ケサル王物語」には世界各地の物語類型が、たくさん見られるから。ほとんど類型ばかりでできていると言ってもいいでしょうね。

上記論考は、全体構成とかエピソード骨格の類型比較まで至っていないので、今後そちらまで発展させてほしいアプローチ。

若松先生は、ギリシア神話との比較について述べておられますが、日本神話と共通するエピソードもあるんですよ。そこも「ケサル王物語」の面白いところ。

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また、以前紹介した

・角道(かくどう)正佳 (1997) 土族のゲセル. 大阪外国語大学論集, no.18, pp.225-250.
http://ci.nii.ac.jp/els/110004668876.pdf?id=ART0007399804&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1488589713&cp=

のように、各地の「ケサル王物語」を比較する研究と、物語類型との比較を並行して進めることで、「ケサル王物語」はかなり解明が進むと思っています。

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各論考タイトルを見ていくと、「伝」という表記と「物語」という表記が混在していることに気づきます。

私はགེ་སར་གྱི་སྒྲུང་། ge sar gyi sgrung/には、史実性はほとんどないと考えているので、「物語」を使うようにしています(以前「伝」と書いてしまったことはあるかもしれませんが)。

上述のように、「ケサル」の中に物語類型を続々発見してしまうと、なおさらそういう気になりますね。

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ところで、この本は、一応東方学会の名前で出ていますが、東方学会の正式な出版物という扱いではなさそうです。奥付もありません。巻末に「2016年10月」とあるので、辛うじて発行年月がわかる程度です。ほぼ、関係者のみに配布された私家版と言っていいでしょう。

興味のある人は結構いるんではないか、と思いますが、残念ながら入手方法はわかりません。私のは、ある方から頂いたものでした。

せめて国会図書館、東京都立図書館、主要な大学図書館などには寄贈して、一般人の目にも触れるようにしてほしいところですね。

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ケサルの話も頭の中にはあるんだが、忘れてしまいそうだし、私だって(一般論として)いつ死ぬかわからんので、そのうちざざっとでも書きましょう(←話半分)。

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