2017年3月14日火曜日

広島大学ンガリー天文台(続報)

2016年10月5日水曜日 広島大学ンガリー天文台

で、ンガリー མངའརིས་ mnga' ris 阿里地区に広島大学が設置した望遠鏡について触れましたが、この場所については、中国のニュースサイトでも多数報じられています。

・万花鏡 > 探索 > 阿里啓動 : 将建世界最高原初引力波観測站 2016年12月13日 来源: 互聯网
http://m.wanhuajing.com/d661883

もとは科学網の記事らしいのですが、本家記事にアクセス出来ないので配信記事の方を紹介。

当サイトでも紹介した、観測基地への道路工事の様子の写真がありますね。相当大変そう。

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ここには、広島大学の望遠鏡だけではなく、中国側の望遠鏡も置かれているようだ。

この記事でちょっと不思議に思ったのは、「引力波望遠鏡」という記述。引力波とは、一般に言う重力波のこと。

しかし、2016年2月に発表されたUSA LIGO(Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory/レーザー干渉計重力波観測所)による史上初の重力波イベント観測は、マイケルソン干渉計によるもの。これは重力波による空間の歪みを観測するもので、天候の影響は受けないはず。

同様にマイケルソン干渉計を使った日本の重力波観測所KAGRAなどは、岐阜県神岡鉱山跡の地下に建設されているし。

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実は、ここでいう重力波は、2016年に観測された2つのブラックホールの合体によって発生した重力波とは別の重力波の観測を目指している。それが原始重力波。

これは、ビッグバンの38万年後に生じた宇宙の晴れ上がり時の光=宇宙マイクロ波背景放射の偏光分布を調べることで、ビッグバンの直前に宇宙が爆発的に拡大した現象(インフレーション)の痕跡を探ろうというもの。

とまあ、自分でも実はよく理解していないのだが(笑)。

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原始重力波についてはここらへん↓でお勉強をどうぞ。

・大栗博司のブログ > 2014年03月17日 原始の重力波
http://planck.exblog.jp/21835733/
・日経サイエンス > バックナンバー > 2016年 > 日経サイエンス 2016年5月号 大特集:重力波 > L. M. クラウス(アリゾナ州立大学)/ビッグバンから上がるのろし 原始重力波に挑む
http://www.nikkei-science.com/201605_058.html
・一般社団法人 日本物理学会 > 刊行物 > 日本物理学会誌 > バックナンバー目次 > 2017年第3号 > 山口昌英/原始重力波とは何か? その検出がなぜ大事なのか?
http://www.jps.or.jp/books/gakkaishi/2017/03/72-03_trends.pdf

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なお、中国の記事では、日本や広島大学についてはいっさい触れられておりません。ありがちだなあ。

また、広島大学のHinOTORIプロジェクトが、中国の原始重力波観測プロジェクトとどう連動するのか、よく理解しておりません。単に場所が同じ所で、観測場所と建設費用を共同で賄っているだけかもしれません。

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広島大学のHinOTORIプロジェクトは、重力波観測に関係したプロジェクトではあっても、KAGRAと連動したプロジェクト。LIGOが観測した現象と同じような、ブラックホールなどの合体で生じた重力波がKAGRAで観測された場合に、その対象天体を探し出す目的で設置されています。

マイケルソン干渉計による重力波観測では、観測に成功しても、重力波がやって来た方向については、非常におおざっぱにしかわからない。それで、重力波観測直後に、その発生源天体を探索したり、重力波天体によるガンマ線バーストを観測するのがHinOTORIプロジェクト目的だという。

すごくおもしろそうですね。

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ところで、HinOTORIプロジェクトのwebsite

・HinOTORI : Hiroshima University Operated Tibet Optical Robotic Imager(as of 2017/03/13)
http://hinotori.hiroshima-u.ac.jp/

などで、しきりにこの観測所のことを「ガー山」と呼んでいるのだが、これいったいなんだろう?と思っていた。

それが、

・京都大学理学研究科 宇宙物理研究所 > 研究・教育活動 京大 岡山3.8m望遠鏡計画 > 新着情報 2013年3月12~13日 サイエンス・装置WSを行いました。内容はこちら。 > 佐々木敏由紀+吉田道利+姚永強/西チベット天体観測環境調査の紹介と京都3.8mレプリカ設置の可能性
http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/psmt/instWS/1st_instWS/1st_sasaki.pdf

を見たら、ようやく理解できた。

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「ガー山」とは、「ガル སྒར་ sgar(近く)の山」のことでした。観測所すぐ南を流れている河がIndus河(センゲ・ツァンポ སེང་གེ་གཙང་པོ་ seng ge gtsang po 獅泉河)の支流であるガル・ツァンポ སྒར་གཙང་པོ་ sgar gtsang po噶爾藏布。

ガルとは「天幕」あるいは「幕営地」のことです。

西チベットに栄えたグゲ(གུ་གེ gu ge古格)王国は、1630年、Ladakh王国に滅ぼされ、旧グゲ領はLadakhに占領されます。しかし17世紀後半になると、チベットを統一したグシ・ハーン王家+ダライ・ラマ政権とLadakh王国との間で戦争が勃発(1679~83年)。

終始押し気味に戦争を進めたチベット側が講和後、占領した旧グゲ領をそのまま併合。ラサからはガルポン སྒར་དཔོན་ sgar dponと呼ばれる役人が派遣され、旧グゲ領を統治します。

その役人の駐在地を「ガル(幕営地)」と呼んだのです。名称としてはそっちが先で、役職名ガルポンは「ガルに駐在した役人」という意味になります。

ガルは、ガル・ツァンポ上流(南東側)にある夏営地ガリヤサ སྒར་དབྱར་ས་ sgar dbyar sa噶爾雅沙と、下流(北西側)にある冬営地ガル・グンサ སྒར་དགུན་ས་ sgar dgun sa 噶爾昆薩の2箇所あり、両者間は約100km離れています。単にガル(あるいはガルトク སྒར་ཐོག sgar thog噶爾大克)といえば、一般には夏営地ガリヤサの方を指します。

どちらも、当時ンガリーの中心地だったとは思えないほど、今は寂れた村です。それもそのはず。「ガル(幕営地)」の名の通り、もともとそこには町らしい町はなく、天幕の集合体だったから。

天体観測所のある場所は、ガル・グンサのすぐ近くです。

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というわけで、もともと名前などなかった場所に「ガル(近くの)山」と名前をつけたと思われます。

ところが、「Gar」を英語風に読んだものだから、「ガー山」になってしまったわけです。またもや「英語風読み」が悪さをしています。

いまさら「ガー山」を「ガル山」と変更できないかもしれませんが、本来は「ガル」である、というのは覚えておいてください。

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