上記CD解説よりもシェードゥルの儀軌が細かく記述されているのは、
・Namkhai Norbu (1995) DRUNG, DEU AND BON : NARRATIONS, SYMBOLIC LANGUAGES AND THE BON TRADITION IN ANCIENT TIBET. xx+327pp. Library of Tibetan Works and Archives, Dharamsala.
です。その中の
Chapter VII The Shen of Existence : The Dur Rites for the Dead. pp.87-102.
iv The Rites of Vanquishment of the Shed. pp.97-102
がそれになります。
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「テクパ・グ ཐེག་པ་དགུ theg pa dgu 九方便(ボンの悟りに至る九つの乗)」というボン教教義分類では四番目に当たる「シーシェン・テクパ སྲིད་གཤེན་ཐེག་པ་ srid gshen theg pa 存在の乗」に属する儀式になると思われますが、
・David Snellgrove(ed./tr.) (1980) THE NINE WAYS OF BON : EXCERPTS FROM GZI-BRJID. vi+312pp.+pls. Prajna Press, Boulder (Colorado).
←Original : (1967) Oxford University Press, London.
の中では、シェーについて軽く触れてあるだけで、シェードゥルの儀式は見当たりませんでした。
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DRUNG, DEU AND BONで紹介されているシェードゥルは、
・ཀརྨ་ཆགས་མེད་རཱ་ག་ཨ་སྱ། karma chags med rA ga a sya/(1613-78) (17C後半?) གཅོད་ཀྱི་གཤེད་འདུར་གདུག་པ་ཚར་གཅོད། gcod kyi gshed 'dur gdug pa tshar gcod/(断の儀式の一環としての悪霊払い、邪霊の調伏)
によるものだといいます。
カルマ・チャクメーは仏教ニンマパ/カギュパのテルトン/ンガッパですから、これはもともとニンマパ由来の経典・儀式ということになります。
ボン教とニンマパでは、共通した思想や儀軌が数多く見られます。どちらかが真似したというよりも、ボン教/ニンマパの区別なく共有されつつ発展してきたもの、と考えるべきかもしれません。
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では、このカルマ・チャクメーのシェードゥルの儀軌を見て行きましょう。CD解説の儀軌とはほぼ同じですが、より詳しい内容が記述されており、理解が深まるはずです。
まずトルマを供えます。そして三角形の箱 ཧོམ་ཁུང་ hom khungを用意。ホムクンは刃物で縁取られます。
石でかまどを作り平鍋を乗せます。鍋の中にはシェーを捉える武器(ナイフ、革紐、袋、鎌、弓、斧)や羊の脚、ヤクの尾、芥子の種を置きます。
大麦粒を敷き詰めた盆に白小石・黒小石をそれぞれ21個、金剛橛 ཕུར་པ་ phur paを並べます。
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そこにシェーを形どる肖像 ལིང་ག ling gaを紙に描くか粉もの(小麦粉かツァンパであろう)の生地で形作ります。シェードルの対象となる人や特殊な死因によりその頭を変えます。
・男-鹿
・女-黒豚
・子供-鼠
・殺害された者-赤猿
・餓死した者-ヤツガシラ(鳥の一種)
・溺死した者-水鳥
・自殺した者-ゾ མཛོ་ mdzo オスのゾ
など
そしてその周りには呪文を書きます。リンガが出来上がると、盆を火にかざし浄化します。
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次に九枚の板 བྱང་བུ་ byang buを用意します。これもシェードゥルの対象となる人の性別などによって材質を変えます。
・男-ブナ/メギ/イトスギ
・女-柳
・子供-ツァルブ ཚར་བུ་ tshar bu(低灌木の一種)
そしてその板に血で呪文を書きます。
紙にシェーとなった人の名前と「ニ ནྲི་ nri」という字を書きます。これはその人の人生を象徴するもの。
これでシェードゥルの儀式は準備完了。
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