イェシェ・ドルジェ・リンポチェの伝記である THE RAINMAKER には、このシェードゥルの儀式は描かれてはいません。しかし「別のシェードゥル」(と言っていいのか?)は、2つのエピソードで記述されています。
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ひとつは、ロダク ལྷོ་བྲག lho bragのプーマ・ユムツォ པུ་མ་གཡུ་མཚོ་ pu ma g-yu mtsho)での隠遁修行を終え、ラサへ向かう途中、ロカ ལྷོ་ཁ་ lho khaのツェタン རྩེ་ཐང་ rtse thangのある家にしばらく投宿していた際の出来事。
同じ家に投宿していた女性が亡くなったのだが、その遺体は足を浮かせ、今にも起き上がろうとしていた。gshedにとり憑かれたのである。地元の僧は恐ろしくて逃げてしまい、イェシェ・ドルジェ師がシェードゥルの儀式を執り行うことに。
Voodooでいうところのzombieの状態ですが、チベットではこれをロラン རོ་ལངས་ ro langs(死体が起き上がる)と呼びます。
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儀式が始まると遺体は暴れ始め、師を投げ飛ばそうとまでする有り様。師はまさに必死にgshedに対し、遺体から去るよう唱え続けます。
遺体は体のあちこちから血を吹き出し、周囲には強烈な悪臭がたち込めます。儀式を見守っていた家人たちも家から逃げ出し、師と遺体を残して外から施錠してしまう有様。
師が戸を叩いて叫ぶとようやく解錠。逃げていた僧も戻り、師を手伝い、ようやく遺体の暴れは収まりました。
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次はこの遺体をチャトル བྱ་གཏོར་ bya gtor(鳥葬)に付さなければならなりません。ドゥルトゥー དུར་འཁྲོད་ dur 'khrod(鳥葬場)に遺体を運び解体。遺体の肉で団子を作り、集まったハゲタカ བྱ་རྒོད་ bya rgodに食べさせようとするが、ハゲタカたちはこの肉団子を全く食べようとしません。
師は儀式に誤りがあると見て、浄めの儀式など、いろいろな儀式を繰り返しますが、それでもハゲタカたちは食べようとしません。困った師は最後の手段として、この肉団子を自分で食べてみせると、ハゲタカたちもようやく肉団子を食べ始めた、といいます。
なんともおぞましいエピソードですが、無粋なことを言えば、実際は死後硬直で遺体が動いているように見えたのかもしれません。「暴れた」云々は、記憶の中で印象が誇張されているか、話を膨らましたか・・・。
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もうひとつは、DharamshalaのTibetan Children's Village(TCV)に居を構えていた頃の出来事。
何人もの子供たちに養育資金を提供していた男性が亡くなりました。その死後、その男性が道を歩いていたり、自転車に乗る姿が目撃され始めます。人々は様々な儀式を執り行いましたが、目撃例は後を絶たず、ついにイェシェ・ドルジェ・リンポチェに依頼が持ち込まれます。
師はしばらく瞑想修行にこもった上で、火の儀式を執り行いました。その結果、幽霊の目撃例はなくなりました。
また、亡くなった少女が幽霊として現れ、家の中で悪さをするので、こちらもイェシェ・ドルジェ師が儀式を執り行い、解決したそうです。
これらをシェードゥルと言ってよいのかわかりませんが、おそらくCDのシェードゥルとは隣接する内容ですから、死者がgshedに捉えられ成仏せず、あるいはその死者自身がgshedとなり、幽霊として現れているという認識で、似たような儀式を執り行ったと思われます。
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