2015年4月3日金曜日

チベット文字の略字

今回は、チベット文字表記が見れない方にはちょっとつらい話題。Wylie表記でもなんとか伝わるよう頑張ってみましょう。

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chimeyさんのtwitterで面白いものを見ました。ある方のtweetで、

ཚོཊ་ とか རིཊ་ とか བཞུཊ་

なんていう字が出てくるのです。これ読めますか?

Wylie転写に直すと、それぞれ

tshoT  riT  bzhuT

になりますが、これじゃなんだかわかりませんね。それも当然。これはチベット文字の略字なのです。

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ཚོཊ་ tshoT → ཚོགས་ tshogs の略字
རིཊ་ riT → རིགས་ rigs の略字
བཞུཊ་ bzhuT → བཞུགས་ bzhugsの略字

というわけです。

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□གས་ □gs がなんでまた □ཊ་ □T で表されるのか、その理由は定かではありませんが、よく見かける略字です。

頻出する綴りが省略されるのは、いつの時代も同じと思われますから、この略字も起源はかなり古いと思っています。

でも、手書きや版本でどの程度昔まで遡れるのか、私は知りません。私は近年の印刷物で見て知っているだけですので。

研究テーマとしてもけっこう面白そうなんですが、論文があるのかないのかも全然わかりません。

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私が近年の印刷物で拾った略字を、いくつか挙げておきましょう。

ལཊ་ laT → ལགས་ lags (~様、~です)

これはさっきのと一緒ですね。これが一番多いような気がします。

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བཀྲིས་ bkris または བཀྲས་ bkras → བཀྲ་ཤིས་ bkra shis (吉祥)

こんなのまで略すんですね。確かによく使われるので、面倒といえば面倒ですけど。

はじめて見た時は、いくら探しても辞書にないので???だらけになりましたが、何度か見るうちに文脈からようやく略字と気づいたのでした。

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tshuod → ཆུ་ཚོད་ chu tshod (時刻、時計)(追記2)
<Web上ではうまく出ないようなので画像にしました。Word上では大丈夫なんですが>

一つの子音に母音記号が二つつくことはないのですが、略字の場合は平気です。字体の似た「ཆ cha」と「ཚ tsha」まで重ねて省略しちゃっています。

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buo → བུ་མོ་ bu mo (娘、女の子)
<これもうまく出ないので画像で。もちろんWord上はOK>

これも母音記号二つの例です。いくらよく出てくるとはいえ、省略が必要なほど大変とは思えないのですが(笑)。

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སྟགི stagi → སྟག་གི stag gi (虎の)

うっかりするとそのまま見過ごしてしまいそうな自然さ。これはもしかすると、ミススペルがそのまま略字として定着したのでは?

そういえば、ゾンカ語(ブータン語)では似たような綴りよく見かける気がする。

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རྡོེ་ rdoe → རྡོ་རྗེ་ rdo rje (金剛、金剛杵)

一見、単なる誤植かゴミかと思ってしまう略字。

「ད da」も「ཇ ja」も字体は似てるし、どちらにも「ra mgo(┬みたいなやつ)」がつく上に、よく出てくる単語なので、略字にしちゃう気持ちもわかりますね。

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སརྒྱས་ sargyas → སངས་རྒྱས་ sangs rgyas (仏、如来)

こんな大事な単語、略していいんでしょうか(笑)。

でも考えてみりゃ、日本でも「佛」を「仏」と簡略化してるし、人のことは言えませんね。

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skuo → སྐུ་ངོ་ sku ngo (貴下、お殿様)
<これも画像で>

重層字にも平気で母音記号が二つついたりします。

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སེངྒེ sengge → སེང་གེ seng ge (獅子)

これも「あー、わかるわかる」って感じです。ツェグを取って重ねただけなので、たいして簡略化できていない気も・・・。

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ལཊསོ་ laTso → ལགས་སོ་ lags so (ございます)

でございました。ラッソー!

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それにしても、こんな略字までスイスイ出してくれるTise – Tibetan Machine Uniはすごい!参りました。

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(追記1)@2016/02/10

三浦順子先生に教えてもらいました。版木の端まで彫って、二字彫らなきゃいけないのに一字分しかスペースがない場合、たとえ短い単語であっても略字を使わざるを得ないケースがある、とのこと。

なるほど、彫ってる最中にそういう場面に出くわしたら使うでしょうね。納得しました。

三浦先生ありがとうございました。

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(追記2)@2016/02/11


ありゃ、よく見るとchu tshodおよびその略字tshuodの綴りを、それぞれchu tsho、tshuoと間違っているではありませんか。今頃気づいた。というわけで訂正しました。

2 件のコメント:

  1. 謎(の一部)が解けました。
    ところで、ཐདཤནの逆向きはどうでしょうか?
    キーボードではཐདཤནの逆(打てなくてすみません)が配列されてますが、使い方はまだ分かっておりません。。。
    教えて頂ければと思います。

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  2. YANAIさん、コメントありがとうございます。

    > ところで、ཐདཤནの逆向きはどうでしょうか?

    ཊ ཋ ཌ ཎ ཥ ཀྵ

    はལོག་ཡིག་དྲུག log yig drug(六逆字)と云いまして、Sanskrit語Devanagri文字を転写するための文字です。

    Devanagari文字 発音 チベット文字 チベット文字Extended-Wylie表記 Tise-Tibetan Machine Uniでのキー・ストローク

    の順に記します。

    ट ṭa ཊ Ta Ta
    ठ ṭha ཋ THa Tha
    ड ḍa ཌ Da Da
    ण ṇa ཎ Na Na
    ष ṣa ཥ SHa Sha
    क्षkṣa ཀྵ kSHa kSha

    いずれもチベット語にはない「反り舌音」を転写するための文字です。

    この辺は、チベット文語の教科書には冒頭に必ず載っていますから、難渋とは思うでしょうが、一度は目を通しておくとよろしいでしょう。

    私が使ったチベット文語の教科書は、

    2014年3月24日月曜日 チベット語・ラダック語勉強ノート
    http://stod-phyogs.blogspot.com/2014/03/blog-post_24.html

    で紹介してありますので、参考にしてください。

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