映画
張楊・監督 (2015) 『崗仁波斉 གངས་རིན་པོ་ཆེ། gangs rin po che/ PATHS OF THE SOUL : SOME PATHS ARE NOT ONLY USED TO PASS ラサへの歩き方 祈りの2400km』
これは、東チベット=カム ཁམས་ khamsの西藏自治区・芒康県プラ村の11人が、ラサ ལྷ་ས་ lha sa拉薩、そして西チベット・カン・ティセ གངས་ཏི་སེ་ gangs ti se(カン・リンポチェ གངས་རིན་པོ་ཆེ་ gangs rin po che崗仁波斉)へ巡礼に向かう道中を描いた映画。
その巡礼形体も普通ではない。道中をすべてキャンチャ བརྐྱངས་ཕྱག brkyangs phyag 五体投地で通すのだ。
キャンチャについては、
2016年7月29日金曜日 カム小出し劇場(2) キャンチャ(五体投地)@キルカル
もご覧ください。
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一見ドキュメンタリーのような体裁だが、実はドキュメンタリーではない。かといって、すべてフィクションというわけでもない、という微妙な立ち位置にある作品だ。実験作と言っていいだろう。
この辺の考察は後ほど。
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まず、出発点であり、巡礼団11人の住所でもあるプラ村について。
芒康県は西藏自治区の一番東にある県で、東隣はもう四川省甘孜藏族自治州巴塘(འབའ་ཐང་ 'ba' thangバタン)県。
県都マルカム སྨར་ཁམས་ smar khams芒康(ガルトク・ゾン སྒར་ཐོག་རྫོང་ sgar thog rdzong嘎托鎮)から黒曲(注)沿い下流、南へ24kmにある村がプラ。
(注)
黒曲のチベット名はわからなかったが、ナク・チュー ནག་ཆུ་ nag chuであろうか。
漢字表記は「普拉」、チベット文字表記は「འཕུར་ལ་ 'phur la」。標高は3720m。
西藏自治区測絵局・編制 (1996.7) 『西藏自治区地図冊』. p.59. 中国地図出版社, 北京.
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Google Mapで見てみよう。
Google Mapより
プラ村の中心は南側T字路の集落。山手にゴンパがある。
しかし、映画のパンフレット
・ムヴィオラ・編 (2016) 『ラサへの歩き方 祈りの2400km パンフレット』. 28pp. ムヴィオラ, 東京.
同書, 表紙.
デザイン : 市川千鶴子
pp.12-13に載っている村の写真は、プラ村の中心ではない。どうもその北800mにある集落らしい。
パンフレット掲載の張楊監督の制作ノートには、「マルカム県プラを通過するさいに、8、9戸の人家しかない小さな集落に着いた」とあるから間違いないでしょう。
この集落は「冲慶」という名だが、チベット名はわからない。ドンチェン གྲོང་ཆེན་ grong chenかもしれない。
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見てわかるとおり、村の周りは畑だらけ。農業が盛んな場所であることがわかる。
しかし映画では、もっぱら牧畜の場面ばかりが描かれている。ニマ家やお隣りのケルサン家は半農半牧らしいのだが、農業の場面はない。
これは、村での撮影時期が初春だったので、農業の場面がないのは仕方ないのだ。
でも、漢族である張監督の(我々日本人も含む一般人も)チベットへのイメージ「チベット=遊牧の地」という認識が、無意識のうちに強調されたものといえるかもしれない。
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村の標高が3720mで、背後の山腹は4000m前後だろう。山には意外に緑が多い、と思わなかっただろうか。ラサは標高3600mくらいだが、背後の山々はハゲ山だらけだ。
カムは、かなり標高が高くても緑が多い。もちろん樹木は、寒さに強い針葉樹ばかりではあるが。
カムは、南流する大河による大渓谷がいくつも並列した「谷間の国」である。その渓谷沿いに、南から温風と湿気が吹きつけるため、カムはかなり標高が高い場所でも、温かく緑が多いのだ。
以前、カムのリウォチェ རི་བོ་ཆེ་ ri bo che類烏斉というところに行った時には、周囲の山々は標高4000mをはるかに超えているのに、青々とした森が広がっているのに驚愕したものだった。
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プラ村の話だけで1回終わってしまいましたが、1度見ただけでもいろんなことがわかるのですよ、この映画は。
次回は「巡礼団の家族とカムパ」あたりかな。
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