2016年10月1日土曜日

疑惑の峠を検証

2016年9月12日月曜日 ンガリー・アル・ツォ湖畔の雪崩の謎(1)

で紹介した

・北海道大学情報基盤センター北館 > その他のサービス : オンライン・データベース > POSITION : 位置情報データベース > API V2版 : グーグルマップで、緯度・経度・標高・水深を求める(2010/6/12)
http://www.hucc.hokudai.ac.jp/~x10795/Latlonele.html

を使って、「公称の数字がどうも怪しい」と言われている峠の標高を測ってみましょう。

ただし、上述の地図の標高が絶対正しい、と思っているわけではありません。でも現状では最良の標高データと言えそうです。作業仮説的な扱いで試行測定してみましょう、という程度。

今後もっと正確な標高データを持つデジタル地図が出てくるのかもしれません。

公称=と言ってもいろいろありますが、ガイドブック等でよく使われている数字、ということにしておきます。

Google=上述のサイトでひろった数字です。クリックする場所によって微妙に変わりますし、数m単位で正確、とまでは考えていないので、10m刻みで推定していきます。

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(1) Ladakh Leh-Nubra Khardong La མཁར་རྫོང་ལ་ mkhar rdzong la

まずはLadakh。LehからNubra谷へ抜けるBeacon Highwayの最高地点です。




公称=5606m
Google=5340m

私が気圧高度計で測った数字は5335mでしたからいい線いっていたようです。みなさんはどうでした?

「世界一高い自動車道」という売り文句ですが、実際は200m以上低いことがこれではっきりしました。それでもまだ「世界一」の可能性は残っています。さあ、ライバルのChang La、界山大坂はどうでしょうか?

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(2) Ladakh Takthok-Pangong Tso Chang La བྱང་ལ་ byang la

次もLadakhです。Indus川沿いからPamgong Tsoへ抜ける道の最高地点。ここも公称はKhardong Laに負けず高いですが、どうでしょうか?



公称=5599m
Google=5360m

ここも200m以上低くなってしまいました。それでもKhardong Laより若干高い!まあこの辺は誤差もあるかもしれないので、確実に世界一とは言えませんが。

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(3) 新蔵公路 界山大坂

中国/インドが領有を主張するアクサイチンを通る、新蔵公路の最高地点です。ここは驚くなかれ、道標に6700mというとんでもない数字が書いてあります。

・Luntaの小さい旅、大きい旅 ちょっとそこからヒマラヤの奥地まで > 西チベットの旅 14 2007-06-22 19:49:49
http://blog.goo.ne.jp/lunta_november/e/72629e8148bc1ddc23fd153db4f31de3

いや、書いてあった。

というのも最近の旅行記を見ると(2010年頃以降)、道標は上塗りされて5248mと表示されたようです。

・科学網 > 博客 > 孫建鵬 > 相冊 > 2010,騎行新藏線 > 当前第1張
http://bbs.sciencenet.cn/home.php?mod=space&uid=484062&do=album&picid=27710

なんだつまんない、まともになっちゃった。道標タイトルもなぜか「区界碑」から「界山達坂」に変わってる。

おそらくこの辺にも出没するようになった中国人旅行者からも、多数ツッコミが入ったのでしょう。さすがの中国政府も(比較的)正しい数字に修正せざるを得なかったよう。

道標のあった場所で、私が気圧高度計で測った数字は5240mでしたから、いい線いってます。

このあたりはだらだらした丘で、道沿いの最高地点ははっきりしない。界山大坂の道標がある場所は、ここから南にどんどん下り始める場所なので、一見峠らしく見えるから道標が置かれているだけ。その北西側にはもっと高い5300mくらいの地点があったはずです。

さらに驚いたことに、2015年の写真では、別の道標ができていて、そちらでは少し高くなって5347mになっています。あるいは同じ年の道標が5359mにもなっていて、わけがわかりません。

・螞蜂窩 > 目的地 > 日土 > 日土景点 > 界山達坂 有48張図(as of 2016/09/23)
http://www.mafengwo.cn/poi/1204173.html

それらの写真を見ると、元の道路から数m高い位置(北側)に舗装道路が作られていて、道標はそこにある。しかし100mも高くはならないでしょう。



公称=6700m → 5248m(2010年ころから) → 5347m(2015年ころから)
Google=5350m

今の道標の数字5347mはいい数字なのかもしれません。

しかしこんな短期間に表示がコロコロ変わるのは、自前で測量したんじゃなくて、たぶんどっかから数字をひろって来ただけなんでしょうね(笑)。

これが正しい数字だとすると、Ladakhの2峠とはいい勝負です。さあ、最終的にはどこが勝つのでしょう。

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じゃ、本当の「世界一高い自動車道」はどこだ?という話は、こちらが詳しい↓

・Wikipedia (English) > Khardung La (This page was last modified on 1 July 2016, at 09:45)
https://en.wikipedia.org/wiki/Khardung_La

残念ながらKhardong LaでもChang Laでも界山大坂でもないようですね。チベット内ではありますが。

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ついでに、LadakhやHimachalの峠も調べておきましょう。いや、これらは別に公称の標高を疑っているわけではないのですが。

まず、Manali-Leh Roadの峠を南から順に。

・Rohthang La རོ་ཐང་ལ་ ro thang la
公称=3978m Google=3980m

ManaliからLahaulへ抜ける峠。おお素晴らしい。公称は正しいですね。

・Baralacha La པ་ར་ལ་ཙ་ལ་ pa ra la tsa la
公称=4950m Google=4900m

LahaulからSerchuへ抜ける峠。公称は実際よりちょっと高いようです。でもまあそんなにひどい数字じゃない。

・Nakee La
公称=? Google=4700m or 4920m 気圧高度計=4950m

SerchuからPangへは峠を二度越えますが、その最初の峠。Nakee Laは尾根を回りこんでいるだけなので峠らしい峠ではない。

一般にNakee Laとされている場所は4700mくらいだが、その後ジグザグに斜面を登って行き4920mに達する。気圧高度計で測ったのは、おそらくそこでの数字。

・Lachulung La ལ་ཅུ་ལུང་ལ་ la cu lung la
公称=5065m Google=5070m

これは見事にほぼ一致。やっぱりちゃんとした峠はわりと正しい。

・Taglang La སྟག་ལང་ལ་ stag lang la
公称=5317m Google=5330m

これもなかなかいいですね。

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次にLeh-Srinagar Roadを東から西へ。

・Fotu La ཕུ་མཐོ་ལ་ phu mtho la
公称=4094m Google=4090m

これはいい線。

・Namika La
公称=3719m Google=3810m

意外に誤差があった。

・Zoji La འདུ་ཞི་ལ་ 'du zhi la
公称=3529m Google=3530m

これもいいですね。軍用道路を作る時にきっちり測量されているので、誤差は最小限。

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Zanskarの峠です。

・Penzi La དཔོན་རྩེ་ལ་ dpon rtse la
公称=4401m Google=4480m

Suru川からDoda川流域に入る、つまりZanskar入りする峠です。思ったより誤差が大きかった。

・Umasi La
公称=5340m Google=5410m

ZanskarからPadarへ抜けるトレッキング・ルートの最高地点。ここも結構誤差がある。

・Sengge La སེང་གེ་ལ་ seng ge la
公称=5050m Google=4940m

Lingshedを通るトレッキング・ルートの最高地点。トレッキング・ルート上の峠はちゃんと測量されていないので、みな誤差が大きいようですね。

・Shingo La ཤིང་ཀུན་ལ་ shing kun la
公称=5096m Google=5030m

ZanskarからLahaul(Darcha)へ抜ける峠です。

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Lahaul/Spiti
・Kunzum La ཀུན་འཛོམ་ལ་ kun 'dzom la
公称=4551m Google=4540m

LahaulとSpitiの境界の峠です。これも大丈夫そう。

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最後にカン・リンポチェ・コルラの最高地点ドルマ・ラ

Kang Tise
・Dolma La སྒྲོལ་མ་ལ་ sgrol ma la
公称=5668m Google=5590m

だいぶ誤差があります。しかし、この辺はGoogle標高もだいぶ誤差があるかもしれませんので、参考程度ということで。

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しかし楽しい。このサイトだけで何日も楽しめる。みなさんもこのサイトを使って、何か発見があったらぜひ教えて下さい。

2 件のコメント:

  1. Khardong La、ぼくの計測(2004.03.10付、Suntの腕時計)は5329mでした。
    富士山(剣ヶ峰のちょっと北、緯度:35.360877 経度:138.727169 で)3734mでした。
    関係ないですけど、以前PC(Macです)からのコメント、リアクションに書き込みができないと書きましたが、できるようになりました。OSはSierra、ブラウザはSafariです。

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  2. いつもありがとうございます。

    気圧高度計で測定の場合、Lehでだいたい3500mに合わせておけば、みんなそんなに差は出ないでしょうね。

    上で紹介した

    ・Wikipedia (English) > Khardung La (This page was last modified on 1 July 2016, at 09:45)
    https://en.wikipedia.org/wiki/Khardung_La

    では、GPSを使って精密に測定した標高は5359mだそうです。今後はこの数字が公称になるのでしょうね。

    Khardong La、Chang La、界山大坂などで、公称標高が実際の標高より高く表示されているのはなぜでしょうか。

    よく言われているのは「他国軍が攻め込む気をなくさせるために、わざと高い標高にしているのだ」という陰謀説。

    でも、これだと自国民をも欺いてることになります。そんなことはしないでしょう。

    山塊近くで測量をすると、山塊の質量に引っ張られて、鉛直線が真下を向かず少し山側に引っ張られるのです。そうすると平らなところでは標高0mは海の標高0mと同じレベルですが、山塊の下では標高0mはずっと盛り上がった形になります。この基準面をジオイドといいます。測量時には、このジオイドを基準にした補正をする必要があるのです。

    その補正をしないと、山頂の標高は実際よりもずっと高く出てしまうわけですね。

    補正をしないまま測量値を生で出してしまったのが、上記3峠の標高誤差の原因と考えます。

    もっと詳しく知りたい方はこちらをどうぞ↓

    ・山賀進のWeb site > われわれは何者か -宇宙・地球・人類- > 第二部 -2- 地球の科学 > 第2章 地球の形と大きさ(as of 2016/10/02)
    http://www.s-yamaga.jp/nanimono/chikyu/chikyunokatachi-01.htm
    (麻布中高の地学の先生のサイトです。すごくわかりやすい。)

    同様なケースが、アムドのアムニェ・マチェン山の測量値です。この山は1949年に9040mと測量され、「世界一高い山では?」という噂になりましたが、結局ちゃんと補正したら6282mになって一件落着。チベット高原の質量がいかに巨大かが理解できますね。

    アムニェ・マチェンのお話はこちらが詳しいです↓

    ・落合道人 Ochiai-Dojin > 幻の最高峰だったアムネマチン。(2014-11-04 23:59)
    http://chinchiko.blog.so-net.ne.jp/2014-11-04

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