2016年2月28日日曜日

2016/1/30 シンポジウム「チベット文学と映画制作の現在」とセルニャ Vol.1~3

2016年1月30日(土)に、

シンポジウム「チベット文学と映画制作の現在」@東京外国語大学
http://tibetanliterature.blogspot.jp/2016/01/blog-post.html

に行ってきました。古い話やなあ、なあにかまうものか。

アムド出身のチベット人作家御三方を招聘してのシンポジウム。その御三方とは、

ジャバ先生 བཀྲ་བྷ། bkra bha/
ジャンブ先生 ལྗང་བུ། ljang bu/(チェナクツァン・ドルジェ・ツェリン ལྕེ་ནག་ཚང་རྡོ་རྗེ་ཚེ་རིང་། lce nag tshang rdo rje tshe ring/)
ラシャムジャ先生 ལྷ་བྱམས་རྒྱལ། lha byams rgyal/
(アムド方言読みです)

普段でも小説は読まないほど文学には疎いのですが、とてもおもしろいシンポジウムでした。

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かつては、「チベット人が書いた小説」と言っても、日本で紹介されていたのは、

・ザシダワ བཀྲ་ཤིས་ཟླ་བ། bkra shis zla ba/, 色波(徐明亮), 牧田英二・訳(1991.8) 『風馬(ルンタ)の耀き 新しいチベット文学』(発見と冒険の中国文学8). 252pp. JICC出版局, 東京.

くらい。これは持ってる。でもこれは、「チベット人が中国語で書いた小説」でした。内容は、わけがわかんなくて結構面白かった。

なお「bkra shis」は、アムド方言では「ザシ」とか「ジャシ」と発音されます。

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近年は、星泉先生をはじめとするチベット文学研究会の方々により、「チベット語で書かれた小説」が続々と邦訳されています。

・トンドゥプジャ དོན་གྲུབ་རྒྱལ། don grub rgyal/, チベット文学研究会・編訳 (2012.11) 『ここにも激しく躍動する生きた心臓がある チベット現代文学の曙(སད་ཀྱིས་བཅོམས་པའི་མེ་ཏོག sad kyis bcoms pa'i me tog 厳寒に枯れた花)』. 480pp. 勉誠出版, 東京.
http://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=100162
・ペマ・ツェテン པད་མ་ཚེ་བརྟན། pad ma tshe brtan/, チベット文学研究会・編, 星泉+大川謙作・訳 (2013.12) 『ティメー・クンデンを探して チベット文学の現在(འཚོལ། 'tshol/ 探索)』. 416pp. 勉誠出版, 東京.
http://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=100286
・ラシャムジャ, 星泉・訳 (2015.1) 『雪を待つ チベット文学の新世代(བོད་ཀྱི་གཅེས་ཕྲུག bod kyi gces phrug チベットの愛すべき子どもたち)』. 352pp. 勉誠出版, 東京.
http://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=100424
・タクブンジャ སྟག་འབུམ་རྒྱལ། stag 'bum rgyal/, 海老原志穂+大川謙作+星泉+三浦順子・訳 (2015.3) 『ハバ犬を育てる話(ཧཱ་པ་གསོས་པའི་ཟིན་བྲིས། hA pa gsos pa'i zin bris/)』(物語の島 アジア). 296pp. 東京外国語大学出版会, 東京.
http://www.tufs.ac.jp/blog/tufspub/backlist/

「文学に疎い人」の私は、この辺の事情を紹介するのに適任ではないのですが、まあ流れで・・・。

ところで、アムドの人には「ナントカ rgyal」という名前の人が多いなあ。これは「rgyal mtshan」の略なのか、なにか王家筋の出自を示すものなのか?

これもアムド読みで「rgyal」=「ジャ」となるようです。

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シンポジウムでは、まず三浦順子先生が「チベット文学に出てくるシラミ」の話(笑)。くだらなくてよかったです。

海老原先生、大川先生とチベット文学との関わりの話。

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ジャンブ先生は
「チベット現代文学の形成とその特徴について བོད་ཀྱི་རྩོམ་རིག་ལ་དེན་རབས་ཀྱི་རྣམ་པ་གྲུབ་ལུགས་དང་དེའི་དགེ་མཚན་སྐོར་གླེང་བ། bod kyi rtsom rig la den rabs kyi rnam pa grub lugs dang de'i dge mtshan skor gleng ba/」

ラシャムジャ先生は
「チベット現代文学の発展の段階 བོད་ཀྱི་དེང་རབས་རྩོམ་རིག་འཕེལ་རིམ་སྐོར་གྱི་བགྲོ་གླེང་། bod kyi deng rabs rtsom rig 'phel rim skor gyi bgro gleng/」

という発表。

どちらも最後に自作の朗読があって、なかなか感動しました。やっぱりチベット語は、文字も文章も音も本当に美しい。チベット語勉強してよかった。

最近はチベット語会話は全然していないので、ヒアリングはもうダメなんですがね(笑)。

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そして、最後は山口守先生、小野田俊蔵先生を交えてのパネルディスカッション。

山口守先生は中国文学研究者なのですが、

・阿来, 山口守・訳 (2012.4) 『空山 風と火のチベット』(コレクション中国同時代小説1). 400pp. 勉誠出版, 東京.
http://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=100082

の翻訳者。ただしこれは「中国語で書かれたチベット小説」。

阿来をめぐる議論がすごく面白かった。

阿来はヂャロン རྒྱལ་རོང་། rgyal rong出身。ヂャロンワと漢族のハーフらしいです。チベット人作家の皆さんが、中国文学としてもチベット文学としても辺境に当たる阿来への距離感を測りかねている様子が、とても興味深かったです。

先ほどのジャバ先生やラシャムジャ先生の発表では、現代チベット文学では、意識的に仏教の影響から離れることで発展してきたようなのですが、これに対し仏教学者である小野田先生からは「仏教学者としては、仏教を取り入れた傾向にも行ってほしいと感じる」といった意見が出されました。

と、盛り上がってきたところで時間切れ。なかなかエキサイティングでしょ。

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二日目の1月31日は、映画『冬虫夏草』の上映と、一日目には出番が少なかったジャンブ先生の講演「詩のチベット 時間旅行へようこそ」など。残念ながらこちらへは参加出来ませんでした。

ジャバ先生もラシャムジャ先生も、作家でもありますが学者さんでもあります。特にラシャムジャ先生は、本職は仏教学者(中国藏学研究中心 ཀྲུང་གོའི་བོད་རིག་པ་ཞིབ་འཇུག་ལྟེ་གནས་ krung go'i bod rig pa zhib 'jug lte gnasの研究員)です。

一方のジャンブ先生は、「豪胆な芸術家」と言った風貌。いかにも話が面白そうなので、ぜひ講演を聞きたかったのですが・・・。

あとで知ったのですが、ジャンブ先生はデード・モンゴル(青海モンゴル、ソッゴ སོག་པོ་ sog po)の方なのですね。となると、チベット人とはまた違った距離感でチベット語・文化・文学を捉えていると思われますが、その辺の話も一度聞いてみたい。

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いかん、シンポジウムの報告だけでこんなに書いてしまったぞ。

シンポジウムの報告については、こちらもどうぞ。

・ダヤンハーン/ダヤンウルス チベット・モンゴル・ブータン関係のゆるい系情報サイト > トピックス > 「チベット文学と映画制作の現在」国際シンポ報告 2016-2-1
http://graffiti-cat.jp/dayanulus/1251/
・TibetanCinema/チベット文学と映画制作の現在 > 2016年2月3日水曜日 シンポジウムご来場御礼とSERNYAの配布について
http://tibetanliterature.blogspot.jp/2016/02/sernya.html

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次は、シンポジウム当日にも配布された、チベット文学研究会が出している雑誌セルニャの紹介。

「セルニャ SERNYA གསེར་ཉ། gser nya/」

とは「金魚」の意味。チベット文学研究会が金魚坂の喫茶店で開かれていたことからの命名だそうです。

Vol.1 ペマ・ツェテン 映画特集. 128pp. 2013.12発行

Vol.2 特集 映画『英雄の谷』 翻訳 ツェラン・トンドゥプ「地獄落ち」ほか 特別寄稿 作家が覗いた日本 152pp. 2015.2発行

Vol.3 特集 牧畜民の暮らしと文化 日本上映記念特集 映画『タルロ』『河』 海外のチベット人たちの文学と音楽 174pp. 2016.1発行

の表紙と目次を一気に紹介。

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映画特集では、

『静かなるマニ石(ལྷིང་འཇགས་ཀྱི་མ་ཎི་རྡོ་འབུམ། lhing 'jags kyi ma Ni rdo 'bum/)』
『ティメー・クンデンを探して(འཚོལ། 'tshol/)』
『オールド・ドッグ(ཁྱི་རྒན། khyi rgan/)』
『草原(རྩྭ་ཐང་། rtswa thang/)』
『五色の矢(གཡང་མདའ། g-yang mda'/ 幸運の矢)』

の5本を紹介。後半はチベット語の小説、詩の邦訳が紹介されています。

この雑誌では、マンガ家・イラストレーターの蔵西さんが参加してるのも特徴。やっぱり絵が描ける人がいると俄然魅力が増す。表紙イラストも蔵西さん。

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まず、映画『英雄の谷(དཔའ་བོའི་ལུང་པ། dpa' bo'i lung pa/)』を紹介。

ラダック(ལ་དྭགས་ la dwags)はシャヨク(ཤ་གཡོག sha g-yog)谷のトゥルトゥク(དུར་ཏུག dur tug)についての映画『叶えられた願い(Prayers Answered)』の紹介もおもしろい。

後半のチベット文学の紹介はVol.1よりも増ページで一層の充実。

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出たばかりのVol.3では、ちょっと趣向を変えて、特集はアムド・ドクパ(འབྲོག་པ་ 'brog pa)の生活用語調査の報告。これが役に立つ。その一部も紹介しましょう。

アムド特有の用語である可能性もあるので、創作などで他の地域にも適用してしまうと、恥をかくかもしれないので注意。まだまだ調査が不十分な分野なのだ。

西田愛先生の「占い文書の中の文学」もおもしろいし、在外チベット人の文学の紹介などもあり、制作者たちが次の展開を模索している様子も伺える。

Vol.3はページ数も最大となり、充実の一言です。

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どうです。ほしくなったでしょう。ところがこれは非売品(と表示されているわけではないが、価格表示はない)。

これまでシンポジウム等の際に配布されていただけで、関係者以外はなかなか入手できなかったのですが、この度一般頒布することになったそうです。入手方法はこちらで↓

・TibetanCinema/チベット文学と映画制作の現在 > 2016年2月27日土曜日 『チベット文学と映画制作の現在 SERNYA』申込受付スタート!
http://tibetanliterature.blogspot.jp/2016/02/sernya_27.html

これによると、送料負担だけでVol.1~3のいずれもが手に入るそうです。太っ腹ですね。

部数はそんなに多くないはずなので、急ぐべし。

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それにしてもこんなに長くなるとは思わなかった。

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