2016年2月13日土曜日

卍(まんじ)はナチスのハーケンクロイツではない!

最近気になったニュース

・businessnewsline > 日本政府、卍の地図記号の変更案が浮上するも反対論が殺到 by Norman Rose(2016/01/19)
http://www.businessnewsline.com/news/201601191251490000.html

日本の地図における、お寺の記号卍がナチスのシンボル「Hakenkreuz(鉤十字)」に似ているため、外国人旅行者に不快感を与えないよう、それを三重塔に変える、というもの。

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私は変えてもいいと思います。卍からお寺を想起できる要素はあまり多くないし、すぐにわかるのは日本人だけでしょう。

同じような例に、郵便局の地図記号「〒」があります。これは「テガミ」の「テ」を図案化したものですから、日本でしか通用しない。

外国(チベットとかラダックですが)の地図を作るときに、郵便局の位置を示すのに、この「〒」を使うのに抵抗感がありました。そこで、横置き封筒裏のマークを使いました。これです(機種依存文字かな?)。

ロンプラの真似ですね。

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お寺の地図記号は変えてもいいと思いますが、「卍」=「ナチスのHakenkreuz」という説は、断固として否定しておく必要があります。

地図記号「卍」の変更に反対する人でさえ、Hakenkreuzをस्वस्तिक  swastikaと呼んで、ナチスが東洋の「卍」をシンボルとして採用したのだ、と思っている人が多い。トホホ。

Hakenkreuzと「swastika/まんじ」は全く関係がありません。似ているのは偶然です。

昔2chに書いた文章が出てきたから、以下に貼り付けておきます。参考文献は大量にあるのですが、今回は省略。いずれちゃんとリライトするときに挙げます。すいません。

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┌┌┌┌┌ 以下、自筆2ch投稿文転用 ┐┐┐┐┐

「チベットの卍」っていうけどさあ、その「卍」はインド起源だし、卍自体は世界中にある(ネイティヴアメリカンにもある)。

ナチスのハーケンクロイツは北欧起源だよ。チベットは関係ない。

もともと北欧の雷神のシンボルでルーン文字にもある。北欧各地の貴族の紋章にもなっていたし、第一次世界大戦後にはラトヴィアやフィンランドの空軍がシンボルにしていた。

19世紀末~20世紀はじめにヨーロッパではやっていた「ゲルマン民族北欧起源論」というオカルト人種論と、「スワスティカはセム民族文化にだけ存在しない」という噂(実際は嘘で、メソポタミアの遺物とかたくさんある)の影響で、ゲルマン優越主義・反ユダヤ主義団体(後のナチス母体)が紋章に使っていた。

イェルク・ランツが1907年に結成した新聖堂騎士団が紋章に採用したのが一番早いケースだろう。

同じ頃グィド・リストが『ルーン文字の秘密』(1908)でスワスティカをゲルマン民族のシンボルと論じている。

ランツもリストもインドやチベットとは全然関係がない。

こいつらが1912年にゲルマン騎士団を結成し、さらにゼボッテンドルフが加わって1918年トゥーレ協会ができる。当然その紋章はスワスティカだった。

トゥーレ協会が発展して1920年に国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)になると、フリードリヒ・クローンの発案でスワスティカが正式に党の紋章になったのだ。

オカルト本によくあるナチスとチベットを結びつける話は大半が根拠がない(ソースがいっさい明示されていない)。

ハウスホッファーはチベットになど行ったことはないし(遺族が否定している)、彼が入会したという日本のチベット密教団体「緑龍会」なんてものは存在しないし、ハウスホッファーがチベットでグルジェフに会ったなんてことも当然ない。

グルジェフがチベットへ行ったりドルジエフに化けたりなんてのもホラ話。実際グルジェフの思想にチベットの影響なんか全然ない。

戦時中のベルリンにチベット人などいないし(当時のベルリン市外国人登録簿から明らか)、そのリーダーだったという緑色手袋のラマなんてのも嘘。第一、チベット仏教で緑色手袋が何か意味を持つなんて聞いたことない。

ベルリン陥落時のチベット人兵士の死体なんて、ポーウェルとベルジエの『魔術師の朝』(1960)にはじめて出てくる話で、こいつらがどこから拾ってきた話かいまだにわからない(間違いなく作り話)。

『魔術師の朝』の長い序文で、著者が「この本では、伝説(噂)、事実、憶測、実際の見聞をないまぜにしている」と書いてるんだから、その内容を鵜呑みにするなんて馬鹿だろ。

ところが日本版『神秘学大全』ではこの序文がばっさりカットw。だからまんまと騙された読者が多かった。

└└└└└ 以上、自筆2ch投稿文転用┘┘┘┘┘

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以上のように、Hakenkreuzとswastikaは全く別物なんですが、名称としては私もHakenkreuzをswastikaと呼んだりしていますね。これが恐ろしいところ。

では、なぜナチスのHakenkreuzをswatikaと呼んでしまうのでしょうか?

これに答えを与えてくれたのが、

・中垣顕實(けんじつ) (2013.6) 『卍(まんじ)とハーケンクロイツ 卍に隠された十字架と聖徳の光』. pls.+232pp. 現代書館, 東京.
http://www.gendaishokan.co.jp/goods/ISBN978-4-7684-5706-1.htm













書影は同サイトよりお借りしました(追記)。装幀:伊藤滋章。

同サイトの内容紹介も貼っておきます。

┌┌┌┌┌ 以下、同書内容紹介より ┐┐┐┐┐

卍(まんじ)のマークは古くから日本人の生活にとけ込んでいる「印」であり、広く世界に分布して仏教の印としてあがめられたマークである。だが、ドイツナチスのハーケンクロイツの印との類似で世界中で誤解されることになる。特にユダヤ人がホロコーストの関係からとても過敏に反応し、西洋社会では、敬遠され、敵視されるシンボルとなってしまっている。しかし卍は本来、吉祥の印であり、広く吉祥のシンボルとして使用したいという著者は、世界中の卍を調べ、本来の意味を分かりやすく説明している。

[著者紹介・編集担当者より]
古くから吉祥の印だった卍がナチスのために誤解され禁忌になって嫌われていく過程と、見えなくなった卍、またハーケンクロイツに隠れた十字架を引き出すことによって、その復権を果たそうとする著者の信念は一読に値する。卍研究書は市場には見つからない。

└└└└└ 以上、同書内容紹介より ┘┘┘┘┘

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同書の論旨は上記内容案内で言い尽くされていますが、補足しておきたいのが、英語圏ではなぜHakenkreuzをswastikaと呼ぶのか?という理由。

東洋の卍がナチスと同一視され、貶められている理由がそこにあります。

各国語でHakenkreuzをどう呼んでいるのか、中垣(2003)から引くと、

ドイツ語: Hakenkreuz(鉤十字)
フランス語: croix gammée(Γ(ガンマ)状の十字)
イタリア語: croce uncinata(鉤十字)
スペイン語: cruz gamada(Γ(ガンマ)状の十字)
オランダ語: Hakenkruis(鉤十字)
スウェーデン語: Hakkros(鉤十字)

英語: swastika

英訳だけ異質なのがわかるでしょう。「hooked cross」という訳もありますが、もっぱらswastikaが使われています。

これはヒトラーの『Mein Kampf(我が闘争)』が英訳される時に、直訳である「hooked cross」ではなく、形は似ているが本来無関係である「swaskika」の名が流用されたことに起因しています。

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なぜ「swastika」が持ち出されたのかというと、ナチスのHakenkreuzとキリスト教の十字架が関係づけられるのを嫌ったのではないか、というのが中垣氏の推測です。

おそらく正しいでしょう。

同書の副題に「隠された十字架」という言葉が入っているのはこのためです。

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かくしてこの戦略はまんまと当たり、「ナチスと東洋のswastikaは関係ある」と思う人が大半となってしまいました。Google翻訳でもドイツ語Hakenkreuzを翻訳すると「卍」とか「swastika」としか出てこない有り様。

片や、ヨーロッパの人たちは、「ナチスのHakenkreuzは、ヨーロッパの文化やキリスト教の十字架とは無縁だよ」と安心していられるわけです。そして逆に「東洋のswastikaはけしからん。見るのは不快だ。排除せよ」と攻撃して来ます。

しかしこれは仕方ない。無知によるものですから。だから経緯を知らせて根気強く説明してあげる必要があります。

でも、日本や東洋でさえ「なぜナチスのHakenkreuzとswastikaが同一視されるのか」誰も説明できない現状ではなかなか難しい。そういうわけで上記中垣書は、画期的な研究報告なのです。

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最初に述べたように、お寺の地図記号卍を変更することには特に反対はしませんが、「東洋の卍とナチスのHakenkreuzは無関係」であり、「ナチスを理由に卍が貶められる」ことには断固反対します。

このニュースがらみでも、上記中垣書に触れた人はほとんどいない。特にマスコミは、同書および中垣氏の研究を取り上げて、きっちりインタビューしてほしい。そして海外に向けてしっかり発信してほしいと思う。

それが日本人のみならず、世界中の仏教徒・ヒンドゥ教徒のためでもあります。

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(追記)@2016/02/14

書影を追加した。

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