2012年4月20日金曜日

全くもって失礼なチベット珍本 『動乱の曠野』 の巻(1)

先日、2回にわたって「ダライ・ラマ法王TV出演史」をお送りしましたが、その関連本、といっていいのか・・・、とにかく妙な本を紹介しましょう。

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・清水正二郎(1956)『動乱の曠野 世界ドキュメンタリー文庫5』. pp.242. 学風書院, 東京.



┌┌┌┌┌ 以下、清水(1956)カバー裏より ┐┐┐┐┐

始めて[ママ]、明か[ママ]にされた、特務機関の秘録。

ロシヤの美姫を盗み出す男、極北の荒野に四十年の流刑生活を送る日本人、亡命のチベット国王、達頼喇嘛と火の出るような恋に燃える女 アフガニスタン革命を指導する快男児!

すべて今迄知られなかった、ナマナマしい事実をこの書は伝える。

└└└└└ 以上、清水(1956)カバー裏より ┘┘┘┘┘

えー、なんというか、「快男児」なんていう用語が出てくるあたり、もう胡散臭さ満点ですが、安い古本だったのですぐさま購入。中身を読んでやっぱりガッカリ。

そう、これは「ドキュメンタリー」と称する「小説」だったのです(注1)。

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著者の清水正二郎の正体は、後の直木賞作家・胡桃沢耕史。当時は風俗・冒険小説家として頭角を現したばかりで、この本が単独第2作目となります(注2)。

かなり売れた本らしく、その後清水氏はエロと冒険ものを融合させたテイストの小説を連発することになります。

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内容は全4話。

・第一話 ・・・北極海・コーカサス・・・コーカサスの晩鐘(明治三十九年-大正六年)
・第二話 ・・・シベリヤ・蒙古・・・風来坊と軍事探偵(大正六年-大正八年)
・第三話 ・・・アフガニスタン・・・男児涙あり(昭和二年-昭和四年)
・第四話 ・・・チベット・・・最後の秘教(昭和二十八年-昭和三十一年)

どれもツッコミどころ満載なのですが、きりがないので、今回触れるのはチベット、そしてダライ・ラマ法王を扱った第四話だけにします。

といったところで、以下次回。

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(注1)
世界ドキュメンタリー文庫は全16巻。

編集委員に観音寺潮五郎ほかを迎え堂々の刊行。本書発売時には既刊3冊。第4巻とこの第5巻が同時発売のよう。もっとも全巻発売されたのかどうか知らない(あまり調べる気にもならない)。

『動乱の曠野』に挟まっていた、シリーズ月報みたいなもの

・どきゅめんたりいくらぶ事務所(1956) どきゅめんたりいくらぶ No.2[1956/10]. 学風書院, 東京.

から、そのラインナップを紹介しておきましょう

第1巻 戸伏太兵 『湖底の聖地』
第2巻 野村愛正 『カムチャッカの鬼』
第3巻 志摩辰夫 『炎の河』
第4巻 山田克郎 『北洋国際船』
第5巻 清水正二郎 『動乱の曠野』
第6巻 南部隆二 『恐怖の生態』
第7巻 戸伏太兵 『鱶を買収しろ』
第8巻 木村荘十 『爆音(決戦ラバウル)』
第9巻 中沢巠夫 『海賊保険師』
第10巻 関川周 『エスキモー夫婦』
第11巻 野村愛正 『髑髏の開拓地』
第12巻 志摩達夫 『虹の彼方の世界』
第13巻 観音寺潮五郎 『倭寇』
第14巻 中沢巠夫 『氷上の脱走』
第15巻 戸伏太兵 『魔獣の道』
第16巻 関川周 『人食ジャングル』

私には観音寺潮五郎と清水正二郎の名前しかわかりません。1950年代の通俗小説界では著名な方々なのでしょうか?あるいは変名の方も多いのか?

第1巻 『湖底の聖地』の内容紹介は、

「スマトラ土民反乱軍の残裔が守る湖底の大宝殿。ごろつき船の船長三木真治の豪快きわまる冒険実記。」

と、この調子。事実でないのはすぐわかりますね。でも、昭和31年当時は事実として受け止められていたんでしょうか?

この手の「事実と称するフィクション」、「ストーリーの大まかな流れは事実に沿っているが、内容の大半は作り話」といった著作物は「実録もの」と呼ばれることが多いのですが、「実録」という名に反して、事実を求める目的では資料として使いものになりません。小説と同じ扱いで、エンターテインメントとして楽しむだけにしておくのが無難。

「実録もの」の問題や、ドキュメンタリーとして評判の高い著作物だが、実は単なる小説だったり大幅にフィクションが混在しているものなどについては、いずれ改めてやりましょう。主にチベットもので。

偽チベット訪問記(ラウィッツだのイリオンだの)、偽チベット人(ロブサン・ランパとか)などにもいずれ言及したいところ。

(注2)
ちなみに、私が入手した本は某氏への謹呈本で、著者の直筆サインが入っています。

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