今般、チベット亡命政府首相(bka' blon khri pa/カロン・ティパ)であるLobsang Sangayさんが来日されました。
ところが、この方の名前の表記が錯綜しています。困ったもんです。
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欧文での表記は「Lobsang Sangay」に統一されています。
これも実はとても問題のある表記なのですが、本人がそう表記しているのですから、こちらではどうしようもありません。これについては後述。
もっと問題なのは、その日本語表記がバラバラであること。「ロブサン」はOKですが、下の名前がいろいろ。三種類の表記が出回っています。
(1) ロブサン・センゲ
(2) ロブサン・サンゲ
(3) ロブサン・サンガイ
ひどいものになると、同じ記事の中に複数の表記が混在している場合すらあります。
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えー面倒なので、すぐさま正解を示すと(1)が正解です。
そのチベット文字表記+Wylie式転写は、
བློ་བཟང་སེང་གེ
blo bzang seng ge
(ロブサン/ロサン・センゲ)
その根拠はこちらで。
・Kalon Tripa for Tibet - Tibetan Version
http://www.kalontripafortibet.org/Tibetan/
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古いスペックのマシーンをお使いの方(私だ)は、browser上ではこのページのチベット文字が表示されないと思いますが、そういう場合は次のような作業をしてください。
(1) Web上のどこかでチベット文字フォント Jomolhariを見つけてダウンロードし、インストールします。これはフリー・フォントですから安心してください。
(2) Wordなどにこのページをコピーする。
(3) まだ□□□□□□としか表示されませんが、そこでフォントをJomolhariに変えてやります。これでOK。
(追記)@2012/04/06
JomolhariよりTibetan Machine Uniの方が良好なようです。
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「ロブサン・サンゲ(blo bzang sangs rgyas)」という表記もかなり多く見受けられます。その理由は、Wikipedia(一部の言語/ちゃんとしているのもあり)などにそう表記されているから、と考えられます。しかしこれはチベット文字表記からして誤り。要注意。
「ロブサン・サンガイ」、これはアルファベット表記をローマ字読みしただけのもので論外ですね。カッコワルイ。
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そして、アルファベット表記の「Lobsang Sangay」。これがまた問題です。「blo bzang seng ge」を、なぜこのような表記にする必要があるのでしょうか?
これはロブサン・センゲさんが長くUSAで生活していたことと関係していそうです。
英会話では、第一音節の母音に「e」が入る場合、それは「エ」ではなく、「イー」と発音されるケースが多いようです。また語末の「e」もやはり「エ」ではなく「イー」と発音されるのでしょう。
ロブサン・センゲさんも当初「Lobsang Senge」と表記していたのではないか、と推測します。しかし欧米では誰も「センゲ」と発音してくれず、「シンギー」と呼ばれたのではないでしょうか。それで欧米人が比較的原音に近い発音をしてくれる「Sangay(セインゲィ?)」という表記をひねり出したのではないか?と推測します。
これは、そもそも英語の文字表記と発音の乖離に問題があるのですが、皮肉なことにチベット語における文字と発音の乖離は英語の比ではありません。「困ったもんだ」の二乗。
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なお、名前に氏族名・姓氏の要素が入らないチベット人名に「氏」をつけるのは不適当ではないか?という問題については、本blogの2009年3月13日金曜日「ザンスカール・ゴ・スム」の巻 ~西部チベット語の発音(5)ザンスカール語の位置づけ~ の(注4)をご覧ください。
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当blogではあまりナマモノを扱わない方針なのですが、誰もやらないようなので(当方は乾物担当です)。ナマモノ担当の方々よろしくお願いしますよ。
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(追記)@2012/04/04
「Senge」の英語風発音は「シンギー」の他に「シンジ」というのもあるかもしれない。「orange(オゥレィンジ)」みたいに。こうなると、わけがわかりませんね。もっともチベット語の中国語表記では、この程度は日常茶飯事ですが。
(追記)@2012/04/09
ロブサン・センゲのチベット文字表記(Tibetan Machine Uni)を追加した。見えない人はごめんなさい。
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