2012年3月1日木曜日

「ブルシャスキーって何語?」の巻(36) おわりに

「『ブルシャスキー』の語源は何か?」というテーマひとつで、あちこち寄り道しながらボロル/ブルシャとチベットの関係を長々と述べました。最初は3回くらいの予定で始めたのですが、あれよあれよという間に増殖し、ここまで来てしまいました。両者の関係は意外に深いことを理解していただけたなら、うれしいのですが。

もちろんこれは、チベット側から眺めたギルギット/フンザ像であり、ギルギット/フンザの歴史・文化を網羅するものではありません。カラコルムの中のギルギット/フンザ、イスラム側から眺めたギルギット/フンザはまた違った姿を見せるはずです。

本シリーズ中には、なじみのない固有名詞がバンバン出てきて取っつきにくいと感じたかも知れません。しかし、これらの固有名詞は今後も当blogで頻出するはずです。それぞれの固有名詞を全部いちいち立ち止まって詳しく解説していると、注釈が膨大な量になり永遠に終わらないので、この後のエントリーでおいおい解説していくことになるでしょう。

それにしても、私はフンザには今まで一度しか行ったことがなく、それもたった2泊3日の滞在でしかないのに、ここまで長々と付き合うことになるとは思いませんでした(文献上でですけど)。

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ギルギット、フンザ、バルティスタンなどカラコルム諸国の歴史についてはよい邦文書がありません。ギルギットで発見された仏典写本、唐の西域経営史の一幕としての「高仙芝の小勃律遠征」がわずかに取り上げられる程度で、その後の歴史について、日本の歴史研究者で興味を持つ人はほぼ皆無です。

唯一、登山家の故・広島三朗(みつお)さんが、自著や訳書で丁寧に歴史に関する注釈を入れてくれていますが、それでも断片的なもので全体像をつかむのは難しい状況です。

・広島三朗 (1979) 『ヒンズークシュ真っただ中 シルクロード南3000キロの旅』. pp.227. 講談社, 東京.
・R.C.F.ショーンバーグ・著, 広島三朗・訳 (1985) 『オクサスとインダスの間に 中央アジア探検紀行』. pp.299. 論創社, 東京. ← 英語原版 : Reginald C. F. Schomberg (1935) BETWEEN THE OXUS AND THE INDUS. Martin Hopkinson, London.

なお、広島さんは「地球の歩き方」シリーズの中でも名著の誉れ高い「パキスタン」編の著者でもありました。広島さん亡き後の現ヴァージョンは、ページ数も中身もすっかり薄くなってしまいましたが。

この地域の歴史研究書としては、

・Ahmad Hassan Dani (1991) HISTORY OF NORTHERN AREAS OF PAKISTAN. pp.xvi+532. National Institute of Historical and Cultural Research, Islamabad. (改訂版も出ているようだ)

が最良の書ですが、日本では同地域の研究者が手薄なせいもあり、この本の知名度もきわめて低い状態です。誰か翻訳してくれないものでしょうか。

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それ以前に、カラコルム地域とは関係が深く、それらの歴史研究の基礎ともなっている「カシミール史」が日本では軽視されているのも困りものです。「カシミール略史」なども今後のエントリーでやってみたいところですが、まあできる範囲内で・・・。

といったところで、ようやくこのシリーズに幕を降ろしましょう。

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