このニュースは野村正次郎さんのTwitter
http://twitter.com/#!/shojironomura
で知ったものです。
リンポチェの遷化に際し、深く哀悼の意を表します。
------------------------------------------
まずはこの方がどういう人物か、例のヒマーチャル・ガイドブックのボツ原稿を使って簡単に紹介してみましょう(注)。とはいえ、私は個人的にはリンポチェとは面識もありませんし、特に関係があるわけではありません。
------------------------------------------
ハルハ・ジェツン・ダムパ・リンポチェ9世(khal kha rje btsun dam pa rin po che)
チョナンパ(jo nang pa)の高僧ターラナータ(rje btsun tA ra na thA kun dga' snying po、1575-1635)は、チベット仏教のモンゴル布教の嚆矢となった一人。
ターラナータ没後、モンゴル王族ザナバザル(Zanabazar)がその転生者として認定され、ジェブツン・ダムパ・フトクト(1世、1635-1723)と呼ばれた。ジェブツン・ダムパ1世はゲルクパに改宗し、外モンゴル最高位のラマとなる。3世以降は代々チベット人から転生者が選ばれ、現ウランバートルのガンダン寺を本拠地とした。
1911~19年、清朝滅亡を機に外モンゴルは一時独立。8世(1870-1924)は皇帝ボグド・ハーンとして推戴された。1921年、社会主義政権が誕生した際にも再び元首として迎えられたが、1924年逝去。以後モンゴルでは仏教は弾圧され、8世の転生者が選ばれることはなかった。
一方1935年頃、チベットでは密かにジャンペル・ナムドル・チューキ・ギェンツェン('jam dpal rnam grol chos kyi rgyal mtshan、1932-2012)をジェ(ブ)ツン・ダムパ9世として認定。9世はカーラチャクラ・タントラの成就者として知られた。1959年にインド亡命。
1990年社会主義体制が崩壊したモンゴルでは仏教が復活。ダライ・ラマ法王は、これを機に9世の存在を公表。9世は1999年モンゴルを訪問しガンダン寺で歓迎を受けた。しかしモンゴル国内では正式に認知されておらず、当分はチョナン寺での活動が主となるだろう。
------------------------------------------
チョナン・ゴンパ(jo nang dgon pa)
正式名称は、チョナン・タクテン・プンツォク・チューリン(jo nang rtag brtan phun tshogs chos gling)。インドでは唯一のチョナンパ僧院。Shimla近郊Sanjouliにある。町から山手に入るとチベット人居留地とゴンパ。
チベット・ツァン地方の元チョナンパ総本山(現ゲルクパ)プンツォクリン・ゴンパ(phun tshogs gling dgon pa)の再建版(本土の寺も復興している)。
当初ゲルクパの寺であったが、1997年ダライ・ラマ法王がチョナンパの伝統復興を提唱。ジェツン・ダムパ・リンポチェを座主とし、インドでは唯一のチョナンパ僧院となった。50名の僧が在籍。拝観料はお布施で。
------------------------------------------
以上は2000年ごろ書いたもので、その後の変化については最近全く追跡していませんでした。それでこの訃報を知ったという状況。
訃報を伝えるサイトを紹介しておきます。
・Central Tibetan Administration > News > Obituary: His Eminence the Ninth Khalkha Jetsun Dhampa
http://tibet.net/2012/03/01/obituary-his-eminence-the-ninth-khalkha-jetsun-dhampa/
・Tibet Sun > News Archive > Jetsun Dhampa Rinpoche passes away in Ulan Bator
http://www.tibetsun.com/archive/2012/03/01/jetsun-dhampa-rinpoche-passes-away-in-ulan-bator/
・Phayul.com > news > H.E. the Ninth Khalkha Jetsun Dhampa passes away
http://www.phayul.com/news/article.aspx?id=30990&article=H.E.+the+Ninth+Khalkha+Jetsun+Dhampa+passes+away&t=1&c=1
・Voice of America News > Exile Tibetan Administration Mourns Demise of Khalkha Jetsun Dhampa
http://www.voanews.com/tibetan-english/news/Exile-Tibetan-Administration-Mourns-Demise-of-Khalkha-Jetsun-Dhampa-141038783.html
・Times of India > Dalai holds prayers for head of Jonang tradition
http://timesofindia.indiatimes.com/india/Dalai-holds-prayers-for-head-of-Jonang-tradition/articleshow/12130344.cms
最後にリンポチェの公式サイト。遷化後は更新されていないようです(2012年3月4日現在)。
・H. E. the Ninth Jetsun Dhampa
http://www.jetsundhampa.com
------------------------------------------
私がこの方に興味を持ったのは、チベット-モンゴル関係史からであるのは言うまでもありませんが、近年はヒマーチャル・プラデシュ州Shimlaで活動されていたからでもあります。例のガイドブック関連ですね。
Sanjouliのチョナン寺にも行ったことがあります。当時はまだゲルクパの寺でSangye Choling(sangs rgyas chos gling)という名でした。居留地としてはあまり活気はなく、寺も閑散としていました。それがチョナンパ僧院となってからは活況を呈している、とは聞いていましたが、リンポチェのモンゴル移住、そして遷化後はどうなるのでしょうか。
------------------------------------------
リンポチェは、モンゴル側の知らない間(社会主義時代)に認定された方であるため、モンゴルでは支持と不支持は半々くらいだ、と聞いています。モンゴル訪問時に色々と問題が発生したり、その前にはトゥヴァやカルムイクをも訪問したりと、何かと話題の多い方でもありました。
モンゴル国籍を取得し移住もしていた、という事実も知りませんでした。ご本人としては、チョナンパ復興よりもモンゴルの方に魅力を感じていたのでしょうか。それにしても、まさに波乱の晩年と言っていいでしょう。
数年後には転生者が選ばれるはずですが、何かと問題の多い転生者選びですけど穏便に進めばいいな、と期待します。また、今回のリンポチェの遷化が、チベット-モンゴル関係について振り返って考える機会になれば、とも思います。
------------------------------------------
最後に再び、深く哀悼の意を表します。
===========================================
(注)
これは最終稿の二歩手前くらいの状態。それを若干修正したものを載せています。原版はこの十倍くらいの分量なのですが、参考文献リストが完全なものになっていないので、今回は短縮版で。そういうわけで、文献リストも省略させていただきます。
「短縮版なら文献リストは要らないのか?」という疑問をお持ちかもしれませんが、自分の文章としてこなしてある、ということで、今回はご容赦ください。
===========================================
(追記)@2012/03/06
その後見つけた訃報記事を2つ。1つはモンゴル発、もう1つは中国発。
・Infomongolia > His Holiness the IX Bogd Jebtsundamba has passed away
http://www.infomongolia.com/ct/ci/3399/
・The China Hotline > 9th Bogd Khan Passes Away
http://thechinahotline.wordpress.com/2012/03/04/9th-bogd-khan-passes-away/
===========================================
(追記2)@2012/03/07
チョナン・ゴンパの公式サイト
・Jonang Takten Phuntsok Choeling Monastery Shimla
http://www.jonangmonasteryshimla.com/
0 件のコメント:
コメントを投稿