・中田千畝(なかだせんぽ) (1941.7) 『蒙古神話』. 4+11+4+340pp. 郁文社, 東京.
というのを手に入れました。
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これは、
再発 : (2012.4) (アジア学叢書250). 大空社, 東京.
として復刻されてもいるのですが、復刻本はなにしろ高いので、だいぶボロボロとはいえ、原版がかなり安く手に入ったので満足です。
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中身はというと、「蒙古神話」といいつつ、実は「ゲセル・ハーン(ゲシル・ボグド)物語」(チベット語だと「གེ་སར་གྱི་སྒྲུང་། ge sar gyi sgrung/ ケサル王物語」)です。
著者が現地で採取したものではなく、USAの民俗学者Jeremiah Curtin(1835~1906)が、ブリヤートで採取した資料を英訳したものを、さらに日本語に訳したもの。
原版は、
・Jeremiah Curtin (1909) A JOURNEY IN SOUTHERN SIBERIA, THE MONGOLS, THEIR RELIGION AND THEIR MYTHS. xiv+319pp. Little - Brown, Boston.
その中の「蒙古神話」の章を翻訳し、だいぶ編集した上で収録しています。
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当時は太平洋戦争前夜。欧米諸国とはだいぶ険悪になっている時代で、著作権上の協調などはなく、欧米の著作を無断でどんどん翻訳している時代でした。
この時代の国策もあって、アジア各地の言語・民俗・歴史についての欧米人の著作が大量に無断翻訳されています。
私もずいぶん持っていますね。当時の本は、特に紙が悪いので読むのにも気を使う代物ばかり(笑)。
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モンゴル版「ゲセル・ハーン物語」は結構邦訳があり、代表は
・若松寛・訳 (1993.7) 『ゲセル・ハーン物語 モンゴル英雄叙事詩』(東洋文庫566). 429pp. 平凡社, 東京.
中田版と若松版の比較などはまだ全然していませんが、おそらく基本は同じでも、細部はだいぶ違うでしょうね。いずれにしてもまず読んでから。
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中身はさておき、この本の口絵には徳王直筆のモンゴル文字での題字が収録されています。
同書, 口絵
もちろん直筆とはいえ印刷なわけですが、なかなか感動ものです。達筆ですねえ。モンゴル文字書道の存在も、これではじめて認識できました。
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徳王(1902~66)の本名は、デムチュク・ドンロブ。名前はすべてチベット語のモンゴル訛りです。チベット文字だとབདེ་མཆོག་དོན་གྲུབ། bde mchog don grub/ (デムチョク・トンドゥプ)。デムチョクの「デ」を取った略称が「徳王(デワン)」になります。
徳王は右翼スニト旗の殿様でした。徳王は、あたかも20世紀前半チンギス・ハーンの嫡流であるかのような扱いをされていることもありますが、徳王と同じクラスのチンギス・ハーンの子孫はそれこそ掃いて捨てるほどいたのです。
右翼スニト旗は、嫡流チャハル部(17世紀滅亡)の分家であるアラグチュト旗のそのまた分家。
第二次世界大戦当時、南モンゴルの独立を模索しつつ蒙古聯合自治政府主席を務めていた方です。
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徳王について、詳しくは、
・ドムチョクドンロブ・述, 森久男・訳 (1994.2) 『徳王自伝 モンゴル再興の夢と挫折』. xv+520pp. 岩波書店.
・森久男・編著 (2000.5) 『徳王の研究』(愛知大学国研叢書). 381pp. 創土社, 所沢.
あたりでどうぞ。その他、南モンゴル(内蒙古)近代史関係書では、もれなく徳王の話があります。
『徳王自伝』は、岩波ライブラリー(最近出てるのか?)とか岩波現代文庫に収録してくれてもいいと思うけどなあ。すごくおもしろいです。内容も詳細。
文革期に反省文として書かれたものなので、自虐的な表現やマルクス主義定型文はありますが、それはしょうがない。南モンゴル近代史史料としては超一級品です。
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さて、この本、すぐに読みたいのはやまやまなのだが、なにせ戦前の本。電車で読むのは痛むのが心配。いつどこで読んだらいいか、悩むところだ。
まあじっくり読んでいこう。
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