2016年12月10日土曜日

『ロンチュン歌舞集』よりンガリーの民族衣装・装飾品

前回紹介した

・ཀརྨ་མཁས་གྲུབ་སྲིབ་སྐྱིད། karma mkhas grub srib skyid/ (1998) མངའ་རིས་རོང་ཆུང་ཁུལ་གྱི་ཐུན་མོང་མ་ཡིན་པའི་གནའ་སྲོལ་གླུ་གར་ཕྱོགས་བསྒྲིགས། mnga' ris rong chung khul gyi thun mong ma yin pa'i gna' srol glu gar phyogs bsgrigs/(A Collection of Ancient Songs of Ngari Rongchung/ンガリー・ロンチュン地方の比類なき伝統歌舞集). xxix+201pp. Karma Khedup, Dharamsala.

のカラー口絵から、ンガリー・ロンチュン地方の民族衣装や装飾品を紹介。

画像の下がキャプションの和訳

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歓迎の歌をお聞かせし、偉大なるダライ・ラマ法王14世猊下より、加持として最初の供物をいただいているお写真

高僧に、遠くで迎える歌(?)と歓迎の歌をお聞かせしているところ(撮影:Kim Yeshi)

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高僧に「幸福の絶頂」の歌をお聞かせしているところと思われる写真

十三天の踊り

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左右の山座の踊り

踊りを楽しんでいるところ

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ガルポン・センゲ・ングードゥプ(81歳)とその妻の歌い手タシ・ラゾム(85歳)、ツァパラン・シプキ・ドントゥー出身

歌い手ングードゥプ・サンモ(69歳)、シプキ周辺ゴンマ出身

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歌い手・故デキ・ドルマ、ツァパラン・シプキ・カンサル出身(撮影:Kim Yeshi)

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女性の装飾品

ペラクと耳隠し 花と一緒に身につける

銀製装飾品と珠

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銀製ブローチ

銀製の肩に達する長い耳飾り

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銀製飾り帯、お守り、ガウ、腕輪

(撮影:Kim Yeshi)

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これは、『ロンチュン歌舞集』の表1~背~表4をつないだもの。ギャワ・リンポチェ(ダライ・ラマ法王)をお迎えするところかな?

左手の女性たちは、KinnaurやKulluの帽子と似た帽子をかぶっていますね。こういうところでもやはり連続性が見られるわけです。

このタイプの帽子はプラン(སྤུ་ཧྲེང་ spu hreng 普蘭)にもあるのですが、おもしろいことにプランの人たちは、つばを下ろして後ろ前にかぶるという、変なかぶり方をします。それはまたいつか紹介しましょう。

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ところで上段の絵は、ツァパラン(རྩ་ཧྲང་ rtsa hrang 扎布譲、グゲ遺跡)の壁画なのですが、人々が一人おきに手をつないで踊っています。時代は15世紀。

驚くことに、実はこれも現役なのです。今も見られる場所はやっぱりKinnaur。










Pratap Studio, Rekong Peo提供

この踊りはKinnaurではKayangと呼ばれています。グゲ王国での名称は不明ですが、はじめてKayangを見た時は「あっ!グゲのアレだ!」とすぐわかって、どえらく感動しました。

ロンチュンでももちろん現役。上の図版のうち「踊りを楽しんでいるところ」で、一人おきに手をつないでいますね。ちゃんと本を読めば、ンガリーでの呼び名がわかるんじゃないかと思いますが、まだ見つけていません。すいません。

あと、写真はないけど、この踊りはSpitiでも見たことがあります。

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もう一つ、ンガリーの民族衣装の写真が出てきました。










これは、インドHimachal Pradesh州Mandi(मण्दी)県(注)Suja(सुजा)にある巨大僧院シェーラブリン・ゴンパ(ཤེས་རབ་གླིང་དགོན་པ་ shes rab gling dgon pa)のペルプン・シェーダ(དཔལ་སྤུངས་བཤད་གྲྭ dpal spungs bshad grwa)改築落成記念式典(2000年)の一幕。カルマ・カギュパ(ཀརྨ་བཀའ་བརྒྱུད་པ་ karma bka' brgyud pa)のタイ・スィトゥ・リンポチェ(ཏའི་སི་ཏུ་རིན་པོ་ཆེ་ ta'i si tu rin po che)の僧院です。

アトラクションとして、チベット舞台芸術研究所(Tibetan Institute of Performing Arts=TIPA)が出張して来て、歌や踊りを披露していました。それは大盛況。

その中にチョルカ・スム(ཆོལ་ཁ་གསུམ་ chol kha gsum チベット三州=ウー・ツァン+カム+アムド)の踊りがあったのですが、それを見て「あー、ンガリーはこの中に数えられていないんだなー」とちょっと寂しく思ったものでした。

ところが、その後にンガリーの踊りが単独で登場。うれしかったですね。

その出演者女性が羽織っているマントがロクパ(སློག་པ་ slog pa)。ンガリーのロクパはとてもカラフル。赤黄緑の三色がザックリと幾何学的に配置されたとてもモダンなデザインです。

彩りの少ないンガリーの土地でこのロクパに出会うと、とても楽しい気分になる。

しかしこのユニークな色使いとデザインはどこから来たのだろうか?チベットともインドとも異質な感じがする。

このロクパは『ロンチュン歌舞集』表紙の女性たちもはおっていますね。

(注) シェーラブリンの位置はぎりぎりMandi県内ですが、Kangra県境がすぐそこ。

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また、これとよく似たロクパはSpitiにもあります。














やはり緑が鮮やか。三角模様もあります。

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とまあ、あちこちから引っ張ってきて、ンガリーとその周辺の民族衣装などを見てきたわけですが、チベットの民族衣装でも、ンガリーやその周辺の民族衣装に関する研究は遅れています。

このエントリーで、西部チベット各地の民族衣装に興味を持つ人が増えることを期待します。

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(追記)@2016/12/11

「手つなぎ踊り」の壁画が描かれているのは、ツァパランのラカン・マルポと確認できました。ちょっと自信なかったんで書かないでおきましたけど。

「宣舞|玄舞」で検索すると、この踊りを取り上げた中国語サイトが、多数ひっかかってくることがわかりました。調べてみてください。

「宣/玄(xuan)」とはチベット語の何の音写か調べてみると、どうもཤོན་ shonの音写らしい。これだと「踊り」ということしか言っていないので、特にあの特殊な踊り方を表現するものではないですね。

ンガリーでも主に西部で確認されていることはわかりました。まさにロンチュン地方です。

もう少し調べてみましょう。

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(追記)@2016/12/11

Kinnaurで「手つなぎ踊り」をshonと呼んでいる例2つ。場所はどちらもLippaです。

・YouTube > tgnegikinnour/Kinnouri Shon Githang by Geshe Thupten Negi (2012/08/27 uploaded) 
https://www.youtube.com/watch?v=D7QKYEQE8z8

・YouTube > abhimanyu bhandari/kinnauri mela.........(2012/01/26 uploaded)
https://www.youtube.com/watch?v=yzJIyNjV3Bk

LippaはMiddle Kinnaurにありますから、「キナウル語(Hom-skad)が主/チベット語少し」くらいの地域です。ですから、Shon(Kayan)と両方使っています。

Shon Githangという表記がありますが、これは「ཤོན་གྱི་ཐང་ shon gyi thang」=「踊りの広場」という意味と思われます。

なんかこのエントリー、追記が果てしなく続きそうな予感・・・。

2 件のコメント:

  1. こんにちは。
    以前、Giu(Spiti)のお祭りの話をここに投稿したことがありますが、
    そのお祭りの時に、一人おきに手を繋いだ踊りを見ました。
    民族衣装は着ていませんでした。
    その時の動画:https://www.youtube.com/watch?v=gLM4YVGbe0E

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  2. コメントありがとうございます。

    これは同じ踊りですね。ギュrgyuはもう国境近くですから、あっても全然おかしくないでしょう。

    調べてみると、ンガリーでも主に西部で確認されているようで、ギュにほど近いツォシブ ཙོ་སྲིབ་ tso srib(スルスムジェ སུ་རུ་གསུམ་འཁྱིལ་ su ru gsum 'khyil 楚魯松傑)でも確認されているそうです。

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