まとめると、アル・ツォ西方の氷河では、以下のようなことが起きたと推察できよう。
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まず氷河の後退で、下流の氷舌部が固化。上流側の氷河の動きをブロックしてしまう。
次に、降雨量の増加により、降雨は氷河の下に潜り込む。しかしこの水も、下流部の固化した氷舌部によってブロックされる。こうして氷河底面には水がたまり、底面水圧はどんどん上昇していく。すると氷河は水の上に浮かんだようになり、岩盤からは離れて流動しやすくなる。
狭いV字谷となっている下流部も、上流部氷河の重量を受け止める働きをしていた。かくして下流氷舌部にかかる重量はどんどん増加していく。
固化した氷舌部も徐々にその重量に負けて、異常前進が始まる。これが普通の「氷河サージ」のフェーズ。
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そして直接のきっかけが何かはわからないが、上流部氷河が流動を始め、下流部もこの重量に耐え切れなくなり氷舌部は決壊。
この底面の水に乗って、氷河が文字通り堰を切ったように狭い下流部V字谷から飛び出していく。流路出口が狭いと、流動速度が大きくなるのは理解しやすいと思う(Bernoulliの定理ですね)。
つまり、氷河底面で起きた土石流に乗って、氷河がサーフィンのようにスルスルと平地を進んで行き、湖畔まで達したとみられる。
氷と、土砂を含んだ土石流の密度を比較すると、圧倒的に氷の方が軽い。よって氷は、土石流と交じり合うことなく上に乗っかるようにして進んだのだろう。
前回の写真を見ると、雪崩表層には土砂による汚れがなく、底面に灰色の土砂が見られる。おそらくこの図式は正しいだろう。
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・EcoWatch : All Shades of Green > Climate > Load More Articles > Dan Zukowski/NASA Satellite Images Show Massive Ice Avalanche in Tibet (Sep. 07, 2016 11:58AM EST)
http://www.ecowatch.com/tibet-avalanche-1998950116.html
に雪崩前(2016/06/24)と雪崩後(2016/07/21)の衛星写真が並べて比較してある。驚くべき写真だ。
http://www.ecowatch.com/tibet-avalanche-1998950116.html
(提供:NASA)
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これを見ると雪崩後は、上流部の氷河がごっそり剥がれて岩盤が露出しているのがわかる。そして流動した氷河は湖畔、さらには湖中にも流入して行ったに違いない。
雪崩前の衛星写真を見ると、その後流出する氷河部分は、すでに周囲よりも浮いているようにも見える。
それにしても恐るべし、氷河サージの威力。
しかし、これは本当に「サージ」と言っていいんだろうか?むしろ、狭い谷口から飛び出る「鉄砲雪崩」と呼ぶべきかもしれない。氷河学の教科書から知られるサージのイメージに比べると、あまりにも激烈な現象だ。
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チベット高原北西部にはこのようなサージ型氷河がたくさん存在しているらしい。
・安田貴俊 (2015.3) 学位論文Glacier Surge Dynamics at the West Kunlun Shan inferred from Satellite Remote Sensing 要旨. 2pp. 北海道大学, 札幌.
http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/58917/1/Takatoshi_Yasuda_abstract.pdf
・安田貴俊+古屋正人 (2015.9) チベット高原北西部,西クンルン山脈におけるサージ型氷河の分布とそのメカニズム. 雪氷研究大会講演要旨集, vol.2015, p.188.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcsir/2015/0/2015_188/_pdf
日本の研究者もぜひ現地へ行って、この雪崩/氷河サージの謎を解明してほしいものだ。
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