2016年9月16日金曜日

ンガリー・アル・ツォ湖畔の雪崩の謎(3)

この雪崩の原因について、いち早く指摘した記事がこちら↓

・毎日頭條 >中科院西北研究院分析:冰川躍動導致西藏阿里冰崩(Posted on 2016-07-28 in 科學)
https://kknews.cc/science/r84qr4.html

中国科学院西北研究院による分析:氷河の「躍動」が西藏阿里の氷河崩壊の原因である

【科学技術最前線】

光明日報 蘭州7月27日電、記者・宋喜群、通信員・劉暁倩。中国科学院・北西生態環境資源研究院からの情報。当研究院冰凍圏科学国家重点実験室の分析:氷河の「躍動」が、7月17日西藏阿里地区日土県東汝郷阿汝村で発生した氷河崩壊の原因である。

中国科学院・北西研究院・冰凍圏科学国家重点実験室・主任・康世昌の説明によると、衛星観測データが示すところでは、今回の氷河崩壊範囲は約10平方km、6.3km長、最大で約2.6km幅。これは国内の観測記録では、氷河の「躍動」による氷河崩壊面積としては最大であり、距離も最長。

今回の氷河崩壊の原因について、中国科学院・北西研究院・冰凍圏科学国家重点実験室・副研究員・郭萬欽および上官冬輝が指摘するところによると、これはこの地区にある氷河の最近の「躍動」によるものである。「躍動」が起きた氷河は、阿里地区・阿魯錯西側の無名山脈中にあり、ここ数年「躍動」期にあった。地球温暖化の中その氷河は1971年から2010年までの間に面積は9%近く減少しているのに、2013年から2016年7月2日までの間に300mも前進している。その後に氷河は谷を飛び出し、氷河崩壊の災害をもたらした。

郭萬欽と上官冬輝の分析では、今回発生したこのように大規模な「躍動」の原因は、主にこの地区の最近の降水によるもので、氷河下の静水圧力が増加することで、氷体の滑動速度が加速された。また、氷河下流のV字谷地形が氷河の運動を阻む働きをしていたため、この氷河の「躍動」前には大きな位置エネルギーが蓄積されていた。「躍動」過程の進行に伴い、下流の氷舌区がどんどん前進することで、氷河の運動を阻む力もどんどん減少する中、氷河上部の累積区から大量の氷体が一気に流れ下った。全体の動きに伴って氷舌区は谷から高速で押し出され、後続の氷体は滑動し続け下流に向かって進み、阿魯錯中に流入し、深刻な氷河災害を引き起こした。

康世昌の説明では、氷河「躍動」は特殊な氷河の高速運動現象で、これによって災害となることが多いので、昔の氷河学者はこれを「災難性の氷河前進」と呼んでいる。地球気候温暖化により、氷河「躍動」事例は近年どんどん増える傾向にあり、第三の極地と呼ばれる青藏高原でも頻繁に起きている。

この実験室が作成した氷河「躍動」データベースによると、中国内の氷河は、主に新疆、西藏地区にあり、合わせて4900本余り。その内の1%の氷河が現在「躍動」期にある。よって中国科学院・北西研究院・冰凍圏科学国家重点実験室は、国民経済に災害をもたらす可能性がある氷河に対し観測を強化し、重点防災項目とするよう提案している。

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「躍動」という専門用語がわかりにくいかもしれないが、これは英語では「(glacier) surge」。日本語でもやはり「(氷河)サージ」と呼ばれている。

参考:

・Wikipedia (English) > Surge (glacier) (This page was last modified on 12 October 2015, at 22:07)
https://en.wikipedia.org/wiki/Surge_(glacier)
・NPO法人 氷河・雪氷圏環境研究舎 > 氷河・雪氷圏事典 > 杉山慎+成瀬廉二/サージ(Last Updated: 2013.8.4)
http://www.npo-glacier.net/dictionary/index.html#surge
・岩田修二 (2011.3) 4 氷河の運動 4.3 氷河サージ. 『氷河地形学』所収. pp.62-64. 東京大学出版会, 東京.
・Hisashi OZAWA+Gorow WAKAHAMA (1992.12) A "Hydro-thermal" Instability of Glacier Surges. Proceedings of the NIPR Symposium on Polar Meteorology and Glaciology, vol.6, p.157.
https://nipr.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=3760&file_id=18&file_no=1

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通常よりも数十~数百倍の速度で氷河が流動する現象。原因については、氷河底面の水圧上昇の影響が主であることはおおむね了解されている。つまり氷河が水に浮いて動きやすくなってしまうのだ。

他にも、地形の影響もあるようだ。谷の上流部が広く、下流部が狭いV字谷になっていると、上流部に広がる氷河の重量が狭い下流部にかかり、下流部は早く動かざるを得なくなる。アル・ツォ西方で雪崩を起こした氷河の谷は、まさにそういう地形をしている。

大局的には、地球温暖化の影響も2つの面であると見られている。

一つは氷河の後退。氷河の後退により、下流の氷舌部が溶融と凍結を繰り返すことで固まってしまい、上流部の氷河の動きをブロックする。

もう一つは降雨量の増加。温暖化に伴いインドのモンスーンがヒマラヤを越えてチベット高原に至る。そしてチャンタン高原にまで雨が降るようになり、降雨は氷河の下に潜り込んでいく。

このような機構で氷河が異常な速度で流動する現象を「サージ」という。

(ツヅク)

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(追記)@2016/09/16

上の記事に出てくる「上官冬輝」さんが気になりました。この苗字まだあるんだ、と思って。

上官氏といえば、前漢後期に活躍した貴族の氏族名。上官桀・上官安の親子は、武帝崩御(後元二年=BC87)後、昭帝[位:BC87-74]擁立に功があり、また外戚として宮廷を牛耳った。ついには昭帝を廃して上官桀が即位しようと目論んだが、その企みは発覚し上官親子は殺害された(元鳳元年=BC80)。

現代にこういう二文字姓を見ると、中国古代史ファンはグッと来ますね。

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