おもしろいので、大きい写真で。
ここへ行ったのはもう十数年前ですが、その後日本語での報告は見当たらないので、日本人で行ったことがあるのは、いまだに建築家・神谷武夫先生と私だけかもしれません。
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車道からはずれて700m登ると、こんな風景が現れます。これがChaini/Chehni चैहनी(チェーニー)の村。古名はKuthed。あるいはDhadhiya Kot धाधिया कोट。標高は2100mくらい。
ここはKuthed Thakurが治める小王国の都でした。16世紀前半、当時ThakurであったDhadhu धाधू王が城塞を築いたといわれています。だからDhadhiya Kotとも呼ばれるわけ。
しかし、この王国は16世紀半ばにKullu कुल्लू王Bahadur Singh बाहादुर सिंहによって滅ぼされてしまいます。その後はDhadhu王妃Chainiにちなんでこの地名になったそうです。
見てわかる通り、これらの建築群はもともとは王城でしたが、現在は寺院として機能しています。手前の横長の建物は元・王宮、現在はKrishna Mandir कृष्ण मंदिर(Murlidhar Mandir मुरलीधर मंदिर)。後ろの角塔は元・物見塔/砦、現在はYogini Mandir योगिनी मंदिर。
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Yogini Mandirは40mという異例の高層建築。異様な姿に笑ってしまう程ですが、その一方で建築技術の高さには驚くばかりです。
この角塔は9層構造になりますが、下部4層はすべて石積みの土台。入口は第5層にあり、そこまでは急勾配の階段を昇ります。
この階段が実に恐ろしい。狭く急勾配である上に、段差が40cmもあります。極めつけには手すりがない。これで十数m昇るのはまさに恐怖。高所恐怖症の人はやめておいた方がいいです。
第5~8層の部屋には、何もありません。いくつか矢窓が開いているだけ。ここが本来軍事施設であったことがわかります。
最上階第9層がYogini योगिनीを祠った寺院。といっても、片隅に申しわけ程度に小さな祠が置かれ、mohra मोहरा(仮面)がいくつか祠られているいるだけ。やはり、当初から寺院として建てられたものではないことがわかります。
第9層の周囲に張り出しバルコニー。高さは1mしかないので這って巡りましたが、床板の隙間から40m下の地面が見えていて、階段にも増して恐ろしい。
この9層の威容を誇る塔ですが、実は元々11層であったそうです。1905年のKangra大地震で最上部が倒壊し、その後現在の姿に修復されたのだとか。かつては一体どんな姿だったのだろう、想像がつかない。
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この場所は、神谷先生に大体の場所を聞いて、あとは近くの町に着いてから、地元の人に訊きながらようやくたどり着いたものです。一般の地図には載っていません。あとで米軍の地図でようやく名前を見つけましたが・・・。地元の人も知っている人は少ないので、訊いて回るのだけでも一苦労です。
結構大変だったので、上掲の風景が眼前に現れた時の喜びはひとしおでした。
今は簡単に位置が見つかるので、これから行く日本人も出てくることでしょうね。
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参考:
・神谷武夫 (1998.5) インドの木造建築 第5章 ヒマラヤの寺院塔. まちなみ建築フォーラム, no.5.
http://www.kamit.jp/05_wooden/5_tower/tower.htm
・Mian Goverdhan Singh (1999) WOODEN TEMPLES OF HIMACHAL PRADESH. 151pp.+pls. Indus Publishing, New Delhi.(2016/04/30追加)
・神谷武夫 (1999.11) ヒマラヤの寺院塔(建築奇想天外). 建築雑誌, vol.114, no.1446, p.14.
http://www.kamit.jp/11_information/xtower.htm
・神谷武夫 (2002.1-7) インド・ヒマラヤ建築紀行 ヒマーチャル・プラデシュ州の木造建築. 建築東京, 2002.1-7.
http://www.kamit.jp/06_himalaya/malaya.htm#contents
・O.C.Handa (2002) TEMPLE ARCHITECTURE OF THE WESTERN HIMALAYA : WOODEN TEMPLES. 336pp.+pls. Indus Publishing, New Delhi.
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追記@2016/04/30
文献を追加。
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