2016年3月26日土曜日

音盤テルトン(11) フリー・ジャズでラテン・ロックでチベット仏教で・・・

本エントリーは
音盤テルトン 2016年3月26日土曜日 音盤テルトン(11) フリー・ジャズでラテン・ロックでチベット仏教で・・・
に移籍しましたが、チベットものでもあるので、ここにも残しておきます。

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Don Cherry/HEAR & NOW [Atlantic → Wounded Bird]
1976/12, Electric Lady Studios, NYC














Art Direction : Lynn Breslin

Don Cherryの怪作。一言で言うと、フリー・ジャズの名手Don Cherryで、ラテン・ロックで、チベットもの!というごった煮度。

ジャケットからしてヤバイ。安いチベット布タンカ風の装丁の真ん中に、ポケット・トランペットを持ったDon Cherryが結跏趺坐をしながら空中浮遊しているという・・・。

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Don Cherryは、1970年代前半の北欧在住時代に

Don Cherry/ETERNAL NOW [Sonet] 1973

という作品を残していて、そこではもろにTibetという曲をやっている。

もともとチベットに興味はあったようなのだが、その趣味をより色濃く出したのがこの作品。

だがミュージック・ビジネスは、そんなものを丁寧に扱ってはくれない。これを当時はやっていたラテン・ロックの味付けで売れ線に持って行こうというのが、プロデューサーNarada Michael Waldenのやった仕事。

そもそもDon Cherryを連れて来る時点で、売れ線に・・・という考えがおかしいのだが、自分の筋は曲げずにそこに乗って行く、Don Cherryのフットワークの軽さは素晴らしい。

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01. Mahakali
DC (tp, conch shells, bells, vo), Michael Brecker (ts), Clif Carter (kb), Stan Samole (ld-g), Ronald Dean Miller (rhythm-g), Collin Walcott (sitar), Maki (tamboura), Marcus Miller (b), Lenny White (ds), Narada (tympani), Raphael Cruz (perc)

スピリチュアル・ジャズの世界では、「鈴の音で始まる曲はヤバイ!」という定説がある。この曲では、鈴に続いて出てくるのは、お経にホラ貝と来るんだからヤバすぎる。

その次はtamboura(注1)をバックにDon Cherryと若き日のMichael Breckerが楽器でお経を唱える!!!(注2)もうヤバすぎでしょ、というイントロ。

そして一転、派手なギターがリードする一発もの8ビート・ロック。もう何がなんだかわかりません。その後はこのまま展開するのだが、最後はまた変な終わり方してほしかったなあ。

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(注1)

tambouraは、sitarに似た楽器だが、メロディーを弾かずバックでビョワ~ン、ビョワ~ンとドローンを奏で続ける役割。

・Wikipedia (English) > Tanpura
https://en.wikipedia.org/wiki/Tanpura

そういえば、カザフの弦楽器「ドンブラ」もメロディーを弾かない。これは、名称も楽器自体も関係あると見た。そのうちじっくり調べてみよう。

(注2)

サックスで祈りを唱えるという手法は、1964年にJohn ColtraneがA Love Supreme : Part 4 Psalm(至上の愛:パート4 賛美)ですでにやっている。これも「まるでお経」と言われていた。

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02. Universal Mother
DC (tp, vo), CC (kb), SS (g), Louis Colin (harp), Neil Jason (b), Steve Jordan (ds), Sammy Figueroa (cga), RC (perc)

今度はDon Cherryのトランペット・ソロで普通に始まるが、途中からCherryの語り、そして後半は「オムマニペメフム」が繰り返される。メロディーはちょっとチベット歌謡風でもある。

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03. Karmapa Chenno
DC (tp, vo), CC (kb), SS (ld-g), RDM (rhythm-g), MM (b), LW (ds), SF (cga), RC (perc), Cheryl Alexander (vo), The Supreme (crikets)

まっとうなCarlos Santana風ラテン・ロックかと思いきや、スキャットで奏でられるサビはチベット歌謡風というのだから、わけがわからない。最後のCherryのささやき「パチンコ、パチンコ」はなんだろうか?

「わーひゃー」という叫び(crikets)担当のThe SupremeはもちろんDiana Rossではありません。

曲名はKarmapa chenpo ཀརྨ་པ་ཆེན་པོ་ karma pa chen poの間違いでしょう。ギャルワ・カルマパ16世ランジュン・リクペー・ドルジェ རྒྱལ་བ་ཀརྨ་པ་སྐུ་ཕྲེང་བཅུ་དྲུག་པ་རང་འབྱུང་རྡོ་རྗེ་ rgyal ba karma pa sku phreng bcu drug pa rang 'byung rig pa'i rdo rje(1924-81)のことか?

ネタ元はどうも、1970年代にUSAでチベット仏教の布教に大成功を収めていたチューギャム・トゥンパ・リンポチェ ཆོས་རྒྱམ་དྲུང་པ་རིན་པོ་ཆེ་ chos rgyam drung pa rin po che(日本ではチョギャム・トゥルンパという表記が一般的)ではないか、と思われます。師はカルマ・カギュパのラマなので、 師の本や説法をヒントにこの曲(ひいてはこのアルバム)を作ったんじゃないでしょうか。

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04. California
DC (tp), CC (kb), SS (g), NJ (b), Tony Williams (ds), SF (cga), RC (perc), Ocean

Personnelに「Ocean=波の音」というのが笑える。無駄にTony Williamsまでいるし。

Santana風ラテン・ロック。Don Cherryのトランペットが気持ちよさそうにそれに乗っかります。

なんでCaliforniaかというと、1970年代のCaliforniaは神秘思想家やヒッピーたちの聖地だったのです。Don Cherryの当時の趣味・嗜好が如実に現れている。

その辺の事情は、

・海野弘 (2001.2) 『癒しとカルトの大地:神秘のカリフォルニア』(カリフォルニア・オデッセイ4). 300pp. グリーンアロー出版社, 東京.

に詳しい。

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05. Buddha's Blues
DC (tp, fl), CC (kb), SS (g), NJ (b), TW (ds), SF (cga), RC (perc)

タイトルのミスマッチ感が秀逸!仏伝を思い出しながらこれを聞くと、実はなかなかはまるのですよ。釈尊って、考えてみれば結構ファンキーな経歴だ。

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06. Eagle Eye
DC (fl), SF (cga), RC (perc)

Don Cherryの息子は、シンガー・ソング・ライターのEagle Eye Cherry(1971-)。当時5歳の息子に捧げたものか。

1970年代Don Cherryらしいエスニック・チューン。短いよ。

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07. Surrender Rose
DC (tp), CC (org), Nd (p, el-p, tam tams), SS (g), LC (harp), NJ (b), SJ (ds), RC (perc), CA (cho), Phoenix Volaitis (cho), Patty Scialfa (cho)

ハープが支配するベタに美しい曲だが、このアルバムに混じると、逆になんだかわからなくなる。

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08a. Journey of Milarepa
08b. Shanti
08c. The Ending Movement - Liberation
DC (tp), CC (kb), SS (g), NJ (b), SJ (ds), SF (cga), RC (perc)

これもラテン・ロック。それでいて曲名は「ミラレーパの旅」なんだから、脳みそグチャグチャ。仰々しい副題のわりに、最後はあっさり終わる。

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ジャケットから曲名から中身から、すごく怪しげな作品に思うかもしれないが、聴後感(?)は意外にさわやか。収録時間も短いので、「Don Cherry?フリー・ジャズ?」とアレルギーを持つ人もとっつきやすいのではないか。

しかし、フリー・ジャズの名手Don Cherryを引っ張ってきて、フュージョン界の(当時の)若手を揃え、ラテン・ロックに乗っけてみようという発想がぶっ飛んでいる>Narada Michael Walden。

それにさらにチベットものをかぶせてくるDon CherryもDon Cherryだが。

ミュージシャンとプロデューサーが全く別方向を向いて作った作品なのだが、それが衝突するわけでなく、融合するわけでもなく、妙な具合に共存している所がこのアルバムのおもしろさ。これはDon Cherryの人柄=広い許容度がなせる技だろう。

結果、ワケのわからない作品ができあがったわけですが、こういう脳みそがグチャグチャにかき回される感覚は大好きです。

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