2017年7月14日金曜日

富山・長野チベット巡礼 (2) デルゲ印経院チベット木版仏画展@富山県南砺市立福光美術館-その1

お次は、というか、最初の目的地です。

場所は、富山県西部にある南砺市。山を一つ越えるともう金沢。南砺市西部にあたる福光(旧・西礪波郡福光町)。

JR城端(じょうはな)線・福光駅から北西に約2km。山あいに入ったところにあるのが、南砺市立福光美術館。行き方は後述。


福光美術館入り口

そちらで開催されていた展覧会がこれ↓。

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・南砺市立 福光美術館 > 現在の企画展 > なんとの至宝 Part 6 デルゲ印経院チベット木版仏画展(as of 2017/07/10)
http://nanto-museum.com/category/exhibition/in-session/

なんとの至宝 Part 6 デルゲ印経院チベット木版仏画展
会場 : 南砺市立 福光美術館
会期 : 平成29年7月1日(土)~8月20日(日) *7月10日(月)はなんとの日 観覧料無料
休館日 : 毎週火曜日
営業時間 : 9:00~17:00(入館は16:30まで)
住所 : 〒939-1626 富山県南砺市法林寺2010
TEL : 0763-52-7576
FAX : 0763-52-7515
観覧料金 : 一般 500円/高大生 300円/中学生以下無料(常設展観覧料を含む)
主催 : 南砺市 福光美術館
共催 : 北日本新聞社
後援 : 北日本放送 となみ衛星通信テレビ
協力 : 利賀ふるさと財団 利賀瞑想の郷
■開会式 : 7月1日(土)9:30~ 福光美術館ロビー
■ギャラリートーク : 開会式終了後 講師/田中公明氏 (公財)中村元東方研究所専任研究員・慶応義塾大学非常勤講師
■ミュージアムセミナー : 7月16日(日)14:00~ 講師/浦辻一成 氏 利賀瞑想の郷館長
■「ケサル大王」上映会 : 7月23日(日)10:00~/14:00~ 美術館ロビー 監督/大谷寿一氏
アクセス :□北陸自動車道小矢部I.Cより車で10分 □東海北陸自動車道福光I.Cより車で15分 □JR城端線福光駅下車タクシーで5分 □JR金沢駅より車で45分(国道304経由) □JR森本駅より車で20分 ◎大型駐車場完備 □JR金沢駅よりJRバスで60分 (「川合田温泉」下車、徒歩5分) □JR福光駅よりバスで10分 ・プール・美術館バス(無料・午後のみ)「福光美術館前」下車 ※時刻表・経路はアクセスマップに掲載 ・JRバス、南砺市市営バス「なんバス」(有料) 「川合田温泉」下車、徒歩5分

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同展パンフレット表


同展パンフレット裏

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この展覧会は、同じく南砺市利賀(旧・東礪波郡利賀村)にある「瞑想の郷」(この後行った)が保有するデルゲ・パルカン木版仏画の全点初公開です。

1999年の購入以来、今まで一部展示されたことはあったが、145点全点展示はこれがはじめて。

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デルゲ སྡེ་དགེ sde dge 徳格は、カム ཁམས་ khams(東チベット)の町であり、旧デルゲ王国の王都。サキャパ ས་སྐྱ་པ་ sa skya pa(その分派ンゴルパ ངོར་པ་ ngor pa)の大寺デルゲ・ゴンチェン སྡེ་དགེ་དགོན་ཆེན་ sde dge dgon chen 徳格更慶がある。

デルゲ・パルカン སྡེ་དགེའི་པར་ཁང་ sde dge'i par khang 徳格印経院は、デルゲ・ゴンチェンの附属施設であるが、こちらは超宗派。

仏画の種類にも、その超宗派性がよく現れている。サキャパ祖師が充実しているのは当然なのだが、シャンパ・カギュパ ཤངས་པ་བཀའ་རྒྱུད་པ་ shangs pa bka' rgyud pa、シチェーパ ཞི་བྱེད་པ་ zhi byed pa、チョナンパ ཇོ་ནང་པ་ jo nang paなどのマイナー宗派の祖師画もしっかりカバーしている。

イダム ཡི་དམ་ yi dam 守護尊にしても、サキャパのイダムであるキェー・ドルジェ ཀྱེའི་རྡོ་རྗེ་ kye'i rdo rje हेवज्र Hevajra 呼金剛だけではなく、デムチョク བདེ་མཆོག bde mchog चक्रसंवर Cakrasamvara 勝楽(主にカギュパのイダム)やサンワ・ドゥパ གསང་བ་འདུས་པ་ gsang ba 'dus pa गुहयासमाज Guhyasamaja 秘密集会(主にゲルクパのイダム)の画もある。

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デルゲについては、後にもう少し詳しく語ることにして、次回は展覧会の中身をちゃんと見ていこう。

2017年7月10日月曜日

富山・長野チベット巡礼 (1) 東チベット写真展@長野県佐久市

急に思い立って、富山県と長野県のチベットものを3件巡ってきました。

(2) 富山県南砺市福光 福光美術館 デルゲ印経院チベット木版仏画展
(3) 富山県南砺市利賀 瞑想の郷
(1) 長野県佐久市臼田 佐久総合病院本院 東チベット写真展

訪問したのは、(2)→(3)→(1)の順番ですが、訪問順に紹介していると、(1)の会期が終わってしまうので、順番を変えて紹介します。

(1)の会期は2017/7/14までですから、皆さんお見逃しないよう、是非行ってみてください。行き方などは、最後に紹介します。

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・毎日新聞 > 芸術・文化 > 武田博仁/写真展 東チベット高地80点 佐久・14日まで /長野(2017年7月6日 地方版)
https://mainichi.jp/articles/20170706/ddl/k20/040/102000c

数日前、この記事を発見して、ちょうどいいので、富山の2件と組み合わせて回ってきたわけです。

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由井 格(ゆい いたる)写真展 東チベット高地の自然と少数民族
会期 : 2017年7月1日(土)~14日(金) 10時~17時
場所 : 佐久総合病院本院ふれあいギャラリー
住所 : 〒384-0301 長野県佐久市臼田197
観覧料金 : 無料


由井さんの経歴など

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会場は、病院の1階。待合室横通路のスペースを、ギャラリーとして使っています。いろいろな展示を企画し、通院患者・入院患者・一般訪問者に開放しています。この展覧会では、会場費無料だったそうです(病院と要相談)。

「展覧会はやりたいけど、会場費がなあ・・・」と悩んでいる方にもチャンスを与えてくれる、なかなか素晴らしいアイディアです。


佐久総合病院本院ふれあいギャラリー

行ったのは日曜ですので、通院客はおらず、病院はひっそりしていました。しかし、この写真展目当ての客がどんどん訪れ、由井さんも大忙し。芳名帳も2冊目になっていて、なかなかの盛況のようです。

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写真は約80点。由井さんは、東チベット調査の大家・中村保氏と共に調査活動をしてこられた方です。その調査結果から、ほんの一部を紹介しておられるわけです。

由井さんはもともと登山家ですので、写真展の前半は、ケシや高山植物の写真が並びます。「写真は素人で・・・」とおっしゃっていましたが、どうしてどうして、素晴らしい写真が並んでいます。

私は高山植物への造詣がほとんどなく申し訳なかったのですが、山好きの人が多い信州では、山やこの高山植物の写真が最も皆さんの興味を引いていたようでした。

車椅子で訪れた、入院患者のおばあちゃんも「きれいな花だねえ。山もきれいだねえ」と喜んでいたのが印象的でした。

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山と高山植物の写真中心なのは予想通りだったのですが、後半には東チベット(というより東ヒマラヤ全域)で出会った諸民族の写真がズラリと並びます。カムパばかりではなく、四川・羌族の角塔(羌寨)、雲南の納西族、彝族、傈僳(リス)族など、東ヒマラヤ全域に及んでいます。


東チベット写真展の一部

由井さんの東チベット/ヒマラヤ(四川・雲南・青海・西藏自治区)への調査行は20回に及ぶそうで、その中から厳選された諸民族の姿は濃いですよ。

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特に、チャクテン ཕྱག་ཕྲེང་ phyag phreng 郷城県のカムパたちとの深い交流が興味深い内容です。

チャクテンは、マツタケの産地として有名で、日本にも多く輸入されていますが、そのきっかけを作ったのが、由井さんらのグループだったんだそうです。

地球に好奇心 山の幸に異変あり中国・まつたけ新事情
2001年春 NHK-BS2
制作:パン・プランニング

などで、当地の様子を見たことがある人も多いでしょう。この番組にも由井さんは関わっておられます。

写真展では、その地での祭りの様子も大きく取り上げられています。この辺のカムモの盛装は、ド派手ですねえ。一見の価値あり。

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最近のネタとリンクする内容としては、映画「ラサへの歩き方」で注目を浴びている、五体投地巡礼団の写真もあります。これがまた、「ラサへの歩き方」と全く同じルート上の写真なのです。

写真のグループは4・5人で、サポート・リヤカー2台。私が見たことあるのも、だいたいそんなもの。映画での「巡礼団11人」というのが、いかに規格外れの大巡礼団であるかがわかります。

また写真では、実際に巡礼途中で生まれた赤ちゃん、ロバを連れた夫婦だけの巡礼などの写真もあります。フィクションとはいえ、「ラサへの歩き方」のエピソードが、事実をよく取り入れたものになっていることが実感できますよ。「ラサへの歩き方」ファンも必見ですね。

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由井さんは、麗江についての本の翻訳もされています。

・ピーター・グラード・著, 由井格・監修, 佐藤維・訳 (2011.6) 『忘れられた王国 一九三〇~四〇年代の香格里拉(シャングリラ)・麗江』. pls.+367pp. 社会評論社, 東京.
← 英語原版 : Peter Goullart (1955) FORGOTTEN KINGDOM. xix+218pp. John Murray, London.


装幀 : 桑谷速人

これは、

・ピーター・グーラート・著, 高地アジア研究会・抄訳 (1963.10) 『忘れられた王国』(秘境探検双書). pls.+222pp. ベースボール・マガジン社, 東京.


装丁 : 関根英治

の新訳・完全版になります。新訳版では、原著の白黒写真に加え、由井さん撮影の写真がふんだんに追加されており、より理解しやすい構成になっています。

私はこの本の存在に気づいていなかったので、写真展の現場で購入させていただきました。

なお、今調べてわかったのだが、どういうわけか、この本にはさらなる新訳もあるらしい。

・ピーター・グゥラート・著, 西本晃二・訳 (2014.12) 『忘れ去られた王国 落日の麗江雲南滞在記』. 453pp. スタイル・ノート, 国分寺(東京).

こちらも見たことないので、そのうち見て比較してみよう。

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由井さんのお話は、とにかく面白い。以上のような話はもとより、ここでは書けないようなオフレコ話が、またベラボーな面白さ。みなさんも現場で、ぜひ由井さんのお話を聞いてみてください。

なお、由井さんは現在82歳とのことだが、見た目は60歳代にしか見えない。これも驚きますよ。

会場では「最近チベット方面は、旅行しにくくなった」という話題で盛り上がったのだが、由井さんにはまだまだお元気でいていただいて、東チベットへも行って、色々な調査結果を教えてほしいもんです。

由井さんの話は、写真展だけではもったいない。特に昨今のチベット旅行がしにくい状況下では、その知見はますます貴重なものとなるでしょう。講演などもどんどんやっていただいて、貴重な調査結果を一層知らしめていただきたい、と切に願います。

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臼田は、長野県東部、小海線(八ヶ岳高原線と改称)沿線の町。


小海線沿線(Google Mapより)

もともとは臼田町であったが、2005年に佐久市に合併された。現在は佐久市南部に当たる。

県外からは、北陸・長野新幹線・佐久平から小海線で南へ7駅目、あるいは中央本線・小淵沢から北へ17駅目。ところが、小海線の運行本数は極めて少ない。2両編成ディーゼル車のワンマン運行だったし。

車が使える人だったら、もう現地まで車で行ってしまったほうが早いだろう。

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臼田は小さな町で、日曜ということもあり、駅前商店街には人影まばらだった。

しかし、驚くことに、町中はツバメが大量に飛び交っていた。「ツバメの町」だ。商店の軒下にはどこもツバメの巣が。そういうやさしい町なのだ。


臼田周辺(Google Map)

臼田で面白そうな場所としては、駅の東1.5kmに龍岡城跡(現在は小学校)がある。これは幕末に築城された小型「五稜郭」だ。

こんなの知らなかったなあ。今回は行く時間がなかったが、チャンスがあれば次回ぜひ行ってみたい。

千曲川を渡ってすぐの所にある、稲荷山/稲荷神社もなかなか面白い。参道の階段は、無数の鳥居で埋まっているのだ。


臼田稲荷神社参道

鳥居は、ほとんどが鉄パイプでしたが(笑)。山頂の公園もなかなか気持ちいい。白い塔は給水塔。臼田のランドマークだ。

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臼田はなかなか行きにくい場所ですが、この写真展は行きに苦労した価値のあるものでした。会期末まであとわずかですが、特に東チベット好きには、是非行ってほしい催し物です。


会場で配布されていたポストカード

次回は、福光美術館の「デルゲ印経院チベット木版仏画展」。

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(追記)@2017/07/10

・信濃毎日新聞社/信毎読者サイト なーのちゃんクラブ > ニュース : 信毎ニュース >東チベット、魅力知って 川上出身の由井さん、佐久で写真展(7月08日(土)10時06分)
https://nano.shinmai.co.jp/news/newslist_detail/?id=4219

によれば、2017年8月11日(金)~17日(木)には、長野県南佐久郡川上村文化センターでも開催するそうです。

由井さんは川上村出身。

2017年7月3日月曜日

映画「ラサへの歩き方」 (4) フィクションとノンフィクションの間

まずは簡単な落穂拾いから。

カン・ティセ(カン・リンポチェ)に到達した巡礼団。帰りはどうしたのでしょうか?帰りも五体投地?

おそらく、帰りはバスかトラックに乗って帰ったと思われます。

五体投地の巡礼者は、これまで何度も見たことがありますが、「今帰りなんだ」という人には出くわしたことはありません。巡礼の目的地に着いたら、もう目的達成でしょう。さすがに帰りまではテンションが持たないと思う。

映画副題も「祈りの2400km」で、マルカム~カン・リンポチェ片道の距離だし。

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この作品は、基本的にはフィクションに分類されるのだが、ノンフィクションの部分も多分に有している。複雑な作品なのだ。

登場人物やその家族関係、居住地での職業などのステイタスも全部事実だ。ニマとヤンペルが巡礼に出たいと思っていたのも事実。

しかし、そこに張楊監督が「巡礼の様子を映画にしたい。出演料=巡礼資金を出す」と申し出たことで、ドキュメンタリーではなくなった。

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映画撮影がなくても、ヤンペルとニマは巡礼に出たかもしれない。しかし借金に苦しんでいたジグメ一家は、ギャラがなければ巡礼には出なかったはずだ。

制作者側からの干渉が入っている。だから、たとえ実在の人物が実際に巡礼をやり遂げていたとしても、これはフィクションなのだ。

実在の人物が自分を演じている、と言えようか。こういうのをドキュメンタリー/ノンフィクションとは呼べない。近い概念は「リアリティ・ショー」になるかな。

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しかし、これは最初から「フィクションである」と宣言している作品だ。たとえ真実の部分が多く含まれていようと、そこから事実を読み取る際には、細心の注意が必要となる(一番安全なのは、事実を読みとる対象には一切しないこと)。

例えば、五体投地の際に、若い衆はまるでヘッド・スライディングのように勢いよく滑り込んでいた。いかにもカムパらしいとも言えるが、あれは監督の演出の面が強い。あの勢いでは続かない。

映画では、巡礼の前と途中で、やたらと靴を買っていたのが印象的。靴がすぐに擦り切れるからなんだが、その割に、衣服が擦り切れている様子はあまりない。私が見た五体投地巡礼は、例外なく衣服、特に腕の部分はボロボロだった。

また、映画では、一見すると巡礼中はずっとテント泊であるかのように描かれているが、実際は町に着いたら宿に泊まった、と思う。巡礼中宿に泊まっていけない、という決まりはないのだし、出演者からそういう要望もあったんじゃないかと思う。だが、それはストーリーの邪魔なので一挙に削除。

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今は公開直後であるため、これが基本フィクションであることは周知なのだが、数年後にはそういった事情は忘れ去られる恐れがある。

将来、五体投地による巡礼について語る際に、常にこの映画が引き合いに出されるだろう。その時に、五体投地の実際として、この映画の光景をストレートに事実として扱う論考があれば、それはアウト。どこが事実で、どこが演出なのか、区別つかないのだから。いちいち真偽を考えながら、それをクリアした事実のみが論考の対象となる。

その手続を経ずに、この映画をそのまま民族学・宗教学の素材として使うならば、それは動物を扱ったTV番組を、馬鹿正直に動物生態学の素材として利用するようなもの。

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知っての通り(あれ、知らない?)、野生動物を扱ったドキュメンタリー/ノンフィクションは再構成(わかりやすい言葉で言えば「やらせ」)だらけ。

例えば、ワシが獲物を取るシーン

1. 小動物が地面を歩いている
2. ワシの顔面アップ(獲物を見つけたという設定)
3. ワシが飛び立つアップ(獲物に向かうという設定)
4. ワシが急降下しているように見える映像(獲物に向かっているという設定)
5. なぜかワシが獲物を捉える瞬間はない
6. 地面でワシが獲物をあさっている(獲物は1と同じかどうか、わからない)
7. 遠くから不安げに遠くを眺める、あるいは逃げていく別の動物

手持ちのカメラが1台、あるいは2台しかないと思われる野生動物の撮影で、こんなバラエティに富んだシーンが一度に撮れるはずがない。当然、別々に撮った映像(その多くは、獲物を取る場面とはおそらく無関係)を組み合わせて、このシーンを構成しているのだ。

これを「ワシが獲物を捕まえる際の生態」として、自分の研究に使う動物学者はいないだろう。実際はほとんど関係ない映像ばかりなのは、プロにはすぐにわかるから。

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『ラサへの歩き方』も、そういう使われ方はしてほしくないんだが、なっちゃいそうな気がする。

一つ強調しておきたいのは、今も昔も大量にある、ヤラセ、お芝居、再現が多数混入しながらも「ドキュメンタリー」と称している映像とこの映画ははっきり区別してほしい。

しかし、この映画があたかもドキュメンタリーであるかのように扱われると、それらのヤラセ・ドキュメンタリーとは何も変わらなくなってしまう。

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なお、エンディングでの、ヤンペルのチャトル(བྱ་གཏོར་ bya gtor 鳥葬)が行われたのは、カン・ティセ南西部タルボチェ དར་པོ་ཆེ་ dar po che上手にある本物のドゥルトゥー དུར་ཁྲོད་ dur khrod 鳥葬所。

ヤンペルが(映画上で)亡くなったのは、カン・ティセ北面のディラプク・ゴンパ འདྲི་ར་ཕུག་དགོན་པ་ 'dri ra phug dgon paあたりだから、ヤンペルの葬儀をとり行うに当たり、逆回りでドゥルトゥーまで運んだことになる。

まあいいんだけど、なまじロケ現場に馴染みがあると、気になってしまうのだ。

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なお、Google Mapで見ると、今はそのドゥルトゥーに車道を通すという罰当たりなことをしている。最終的にはドルマ・ラを越えて一周させるらしい。

トホホですね。カン・ティセ周囲にある、無数の聖地がその工事で破壊されるのだ。

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この他、フィクションとノンフィクション、ヤラセ・ドキュメンタリーについて長々と書いたのだが、『ラサへの歩き方』からどんどん離れていくので、また別の機会にします。

それにしても、これだけ色々考えさせてくれる映画はなかなかない。その意味でも素晴らしい映画なのです。